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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
235/333

30

「ペルルドールの母がワシの側室になった時の話からだ」


王とペルルドールの母は親戚筋に当たる。

王族の血縁婚事態は珍しくはないのだが、王のみに語った側室希望の動機には驚かされた。

何と、彼女は自身の予見に従って行動していると言ったのだ。

彼女はこう説明して輿入れを懇願した。


『身体が弱く産まれた第一王女が王位を継げば、王家に危機が訪れる。

最悪の場合、国が滅びる。

理由は言わずもがな。

しかし、自分が産む第二王女が王位を継げば、王家は守られる。

更に、世界の危機を回避する事が出来る。

王家を守る為、世界を守る為、こうして側室を希望した。

だから是非自分を第二王女の母にして欲しい』


輿入れに反対意見は出なかった。

第二王女、いや、性別を問わず、第二子も望まれていた。

問題は、下の子を王位継承権第一位にすると権力争いが発生する事だ。

成人するまでは形式上だけでも正妻の子を第一位にしろと言う意見は絶対に出る。

正妻の親戚筋が王位継承権第一位の血筋と言う権威を欲しがるから。

だが、賢い彼女はそれも計算に入れていた。


『権力争いが発生する可能が一欠片でも有ったなら、二人の王女を共に王位継承権第一位にして欲しい。

権力争いが政治不信の火種になってはならないが、権力争い事態は決して鎮静化させてはいけない。

なぜなら、その最中に自分が暗殺され、自分の死の真実を探る為に第二王女が家出するから。

第二王女は家出先で様々な経験を得て成長するので、その行動を放置して欲しい。

それは世界を守る為に大切な行動だから』


「お母様は、私の家出を予見していた……のですか?そればかりか、ご自身の暗殺まで利用した……?信じられません」


ペルルドールは驚く。

決死の覚悟で行った秘密の弟子入りだったのに、自分が産まれる前からバレていたとは。


「彼女はヴァスッタ族の血を引いていて不思議な能力を身に付けていた。精霊魔法と言ったか。それを使った証拠も提示したので、ワシは彼女の言葉を信じたのだ」


「なんと言う……」


絶句するペルルドール。

母もソレイユドールも、どうして見も知らぬ子孫をそんなにも信じる事が出来るのだろうか。

理解の範疇を越えている。

トロピカーナは顔の角度を変え、茫然としている妹姫を紫の瞳で見た。


「ペルルドール。お話の続きを聞く前に、その机の引き出しを開けてください。見覚えの有る物が入っているはずです」


「はい」


頷いた妹姫が素直に立ち上がる。


「本来なら、妹と言えども王族を使ってはいけないんでしょうが、メイドが居ないので」


「構いません。今日の朝まで王族ではありえない生活をしていました。人に使われるのは慣れています」


姉姫に笑みを向けながら机の引き出しを開けたペルルドールは、その中身を見た途端、固まった。

その小さな背中を見ながら言葉を紡ぐ姉姫。


「実は、わたくしにもそれが届いていたんです。怪し過ぎるので応える者は居ない、と思っていたのに、ペルルドールがそこに行ったと聞いて驚きました」


「何だ?」


ペルルドールは、引き出しに入っていた物を椅子に座ったままの王に見せた。

金色の縁取りがされている羊皮紙を。


「魔王が魔法使いの弟子を募集した時の手紙ですわ」


「ほう。それがか。ワシにも見せてくれ」


王に手紙を渡してから椅子に戻るペルルドール。


「セレバーナ様の潜在能力は『真実の目』でしたかしら。それを参考にするなら、わたくしの潜在能力は『真実の耳』ですわね」


「真実の、耳?」


「わたくしは、聞いた言葉がウソかどうかを判別出来るのです。ですからヴァスッタ襲撃事件の真犯人も知っています」


「真犯人は、トロピカーナの母だ」


手紙から顔を上げる王。

そして姉姫のベッドの縁に手紙を置く。


「え?あの事件の黒幕は、お義母様だったんですか?」


「そればかりか、ペルルドールの母を暗殺したのもトロピカーナの母だ」


王はペルルドールの顔を見詰めながら淀み無く言った。

まるでそう応えるのが決まっていたかの様に。

多分、最初からここで言うと決めていたんだろう。

そこで再びペルルドールの胸に違和感が沸き起こる。

そしてなぜか思い出す。

『世界五分前仮説』と言う言葉を。

どうしてなのかを考え出す前に王の言葉が続く。


「正室である彼女は、強引に側室となったペルルドールの母に良くない感情を持っていた。何かするならヤツだろうなとは思っていた」


「危険性を知っていて野放しにし、犯人の罪を問わずに放置なさったのですか?」


唇をわななかせるペルルドール。

実母を見殺しにした父に怒りを向けない様に平常心を保つには苦労した。

ここが遺跡内だったら、戸惑い、父を問い詰めていた。

人の命を何だと思っているのだ、と。

だが、今居る場所は姉の姫城の寝室。

しかも王と同室している。

声を荒げたら警備の者が突入して来て、妹姫と言えども拘束されて王と姉から引き離される。


「それがペルルドールの母の願いだったからな。真実がアッサリと露見したらペルルドールは家出をしなかっただろう?」


「それは……そうですが」


「救出クエストの件も、トロピカーナの母が勝手に出したんだろう。それが上手く行っていたら、考えるのも恐ろしい事件が起こっていた可能性が有った」


「セレバーナも、単純な救出作戦ではない事を感じ取っていましたわ。そんな裏が有ったとは思っていませんでしたが……。なんて事でしょう……」


「そのクエストの発注は、王城内の誰が出したのかを特定出来ない様に細工されていた。だからそれはそのままほとぼりが冷めるのを待った」


「……その場で真相を追及すると、わたくしの家出や暗殺事件のスキャンダルが表沙汰になるから、ですか?」


「そうだ。しかし、ヴァスッタ襲撃事件まで引き起こしたらそうはいかん。王都の軍を勝手に動かした事を不問にするには不都合が大き過ぎる」


膝の上で拳を握る王。


「ワシが沈黙している事を良い事に、ヤツは政権争いの黒幕になっておったのだ。どうしても自分の娘を次期女王にしたかったらしい」


「もしもわたくしが健康でしたら、お母様と共謀していたでしょう。わたくしにも野心が有りますから」


天井を見上げる姉姫。


「しかし、異教徒とは言え、ひとつの街を滅ぼそうとしたのは許せませんでした。なので、一計を案じてわたくしの潜在能力をお父様とお母様に使ったのです」


「お義母様の罪を、実の娘であるお姉様が暴いたのですか?」


ペルルドールが前のめりになる。

姉姫も辛い行動をしていたとは思ってもみなかった。


「信じていたんですけどね。お母様は人の道を外れていない、と。――ですが、お母様の言い訳はウソしかありませんでした」


目を瞑ったトロピカーナは力の無い溜息を吐いた。


「今、お母様は地方の別荘で軟禁されています。表向きには療養となっていますが、実際は王城を追放された形です」


「そう、なのですか。つまり、わたくしが欲していた王城内の真実は、すでに解決されていた、と言う訳ですか」


脱力感に襲われたペルルドールは肩を落とす。


「わたくしは母の手の上で動かされていた、と言う訳ですか……」


一瞬、この半年間は無駄だったのかと思うペルルドール。

しかし思い直す。

母の命を掛けた想いはそんなに単純ではない。

違和感も解消されていない。

これで終わった気になっていると大事な物を失ってしまう予感がする。

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