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「……ん?王城に向かうにしては時間が掛かっていますね」
第二王女の対面に座っているプロンヤが異変に気付き、窓から外を見る。
二人が乗っている馬車は式典パレードや敷地内を走る為の車両なので安定性重視設計になっており、速度を犠牲にしている。
それを考慮しても走行時間が長い。
「これは……王城ではなく、トロピカーナ様の姫城に向かっていますね」
「お姉様の?」
ペルルドールも馬車の外を見る。
確かに王城とは別の方向に向かっている。
「ペルルドール様。姫城に着きましたら私が状況を確認致しますので、馬車から降りられません様に」
「ええ」
頷いたペルルドールは片目を瞑り、使い魔が見ている王城内の様子を探る。
行き交う人々に不審な点は無い。
隠し部屋とかそう言う場所も探れたら良いのだが、所詮は蝶。
閉じられた空間には入れない。
そう言う場所にこそ悪事の芽が有ると思うのだが、出来ない物は出来ない。
何か良いアイデアを出さなければ。
何気ない表情を装って思考を巡らせていると、馬車が止まってプロンヤが降りて行った。
「あれは、国王様の馬車?」
赤い全身鎧を着ているプロンヤが馬車の外で驚いた声を出す。
ペルルドールも開いたドアから顔を出す。
姫城の前に、もう一台の馬車が停まっていた。
こちらが訝しむのを予想していたかの様に宰相が待ち構えている。
白髪がダンディな宰相は、プロンヤの前に立ちはだかって何かを言った。
それが済むと、宰相は王の馬車のドアを守るかの様な位置に戻って直立した。
「国王様は姉妹お二人揃っての謁見を望んでおられるそうです。しかしトロピカーナ様はベッドから降りられない為、こちらで、との事です」
ペルルドールの馬車の前まで戻って来たプロンヤがそう報告する。
「お姉様の容体は、そんなにお悪いの?」
「さて……」
第二王女護衛団団長であり正規の女騎士であるプロンヤは、王族の不都合を口外する事はない。
そんな決まりが有る訳ではないが、王室に対する忠誠心に溢れる彼女は姉姫の不調を憶測で判断したりはしない。
「お会いすれば分かるわね。王が望むなら、その様にしましょう」
プロンヤの手を借りて馬車を降りるペルルドール。
そして二人で姫城の中に入り、メイドを先導させて赤絨毯の廊下を進む。
「こちらのお城に入るのは初めてですわね」
ペルルドールは、視線だけを忙しなく動かしながら言う。
自分の城とは造りが全く違う。
階段や部屋の位置は勿論、避難用の隠し通路の場所も分からないので少し怖い。
「私は全ての城の造りを把握していますので、心配ご無用です」
プロンヤは姫の不安を察し、自信満々である事を示す様に赤い甲冑に包まれた胸を張る。
「本当に?全てと言う事は、使われていない城も?」
「使われていない城も含め、全てです。どこで何が有ってもペルルドール様をお守りするのが私の役目ですので、当然の事です」
「今のわたくしならプロンヤの凄さが理解出来ますわ。それは途方もない努力の結果なんですよね。みんな、みんな頑張って生きているのね……」
メイドが立ち止まり、脇に控えて頭を下げた。
その先に黄金の全身鎧を着た女騎士が立っていた。
エルヴィナーサ国第一王女護衛団団長、ジアナ・カカーリン。
「国王様はすでにご到着されています。プロンヤ・ウヤラ殿は、私と共にこちらへ」
目礼し合った女騎士達は、門番の様にドアの前に立った。
「ペルルドール・ディド・サ・エルヴィナーサ様、ご到着です!」
ジアナが良く通る声で言うと、ドアが内側から開けられた。
すると、大きなベッドに横たわっている姉姫と目が合った。
枕を高くし、来客と視線を合わせ易くしている様だ。
「おかえりなさい、ペルルドール」
姉姫は横になったまま笑む。
妹と同じく金髪だが、その瞳の色は珍しい紫色だ。
ベッド脇の椅子には王が座っている。
「ごきげんよう、お父様。お姉様も、お加減はいかがですか」
無言で頷く父に頭を下げた後、姉を気遣う妹。
「最近は発作も無く、落ち着いています。ですが、無理をすると具合が悪くなるので、ベッドから降りられないのです」
「ご無理をなさらずに」
「ペルルドール。ワシに話が有るのだろう?その為に魔王に弟子入りしたのだろう?」
父が威厳の有る声で姉妹の挨拶を遮る。
「……はい」
決意が籠る堅い表情になった娘を見詰める父。
「まず、ペルルドールがどんな日々を過ごしたのかを聞かせて貰えるか?お前の勝手を黙認したのは、それを聞く為でもあるからな」
「黙認、ですか?わたくしが魔王に攫われたと勘違いした救出クエストが出されていましたが」
「その事については後ほど語る事になるだろう。座りなさい」
「はい」
礼儀正しく頭を下げたペルルドールは、父の隣に用意してあった椅子に座る。
その前には小さなテーブルが有り、メイドがお茶を淹れた。
姉姫のカップには、別のポットで白湯が注がれる。
お茶の成分が身体に障るからだろう。
「……日に焼けたな。下々の者と交流していると言う話は伝え聞いていた。充実した日々だった様だな」
「ええ。飢えと不便しかない毎日でしたが、仲間のお陰で色々なお勉強が出来ましたわ」
ペルルドールは、遺跡での暮らしを父と姉に話して聞かせた。
仲間の事。
師匠の事。
遺跡の庭に畑を作り、自分達で作った野菜を自分達で食べた事。
最果ての村でアルバイトをした事。
仲間達と旅をしたり遊んだりした事。
大きな街には悪者が居て、弱い人が泣かされている事。
そして、ヴァスッタを襲った事件の事。
全てを語り終えるのに紅茶を三杯もお代わりをした。
やはり王室のお茶は美味しい。
だが、セレバーナが淹れた最後のお茶の方が何倍も美味しかった。




