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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
230/333

25

「それじゃ、みんな。元気で」


手提げかばんをひとつだけ持ったサコが、玄関ドアを前にして振り向いた。

転移魔法を使えば一瞬で帰れるが、お世話になった下の村の人達に挨拶したいので、村を出るまでは歩いて行くそうだ。


「サコも元気でな。無理をせずに頑張って欲しい」


「ここから応援してるから!毎日忘れずに応援してるから!」


「困った事がありましたら、わたくしを頼ってください。非公式でならお力添え出来ますので」


仲間達に声援を貰い、照れくさそうに頭を掻くサコ。

防寒目的で伸ばしている茶色の髪が乱れる。


「ありがとう。医者になる気は無いけど、医者の資格が取れるくらいの治癒魔法の使い手になれる様に頑張るよ」


「ふむ。君が一人前になったら私の主治医になって貰おうかな。女神が病院に通うのもおかしな話だからな。まぁ、女神の身に必要かどうかは分からないが」


セレバーナ特有の良く分からない冗談に苦笑を向けるサコ。


「みんなも頑張って。じゃ、再招集が有ったらまた会おう」


玄関ドアを開けたサコは、振り向かずに出て行った。

残された少女達は、閉ざされたドアをしばらく見詰める。


「ちょっと下の村に行って来る、って感じだけど、もう戻って来ないんだよね」


思っていたが言わなかった事をイヤナが呟いた。


「戻って来られない、だがな。と言っておいて、すぐに帰って来たら笑うが。まぁ、無いだろうな」


セレバーナは口の端を上げながらリビングに移動して行った。

その後に無言で続くペルルドール。


「戻って来てくれたら嬉しいけど、それじゃサコの夢が遠くなっちゃうもんね。応援しなきゃね」


イヤナもリビングに移動する。


「うむ。しかし、困った」


自分の席に座ったセレバーナが腕を組む。


「どうしたの?」


お茶を淹れる為にキッチンに向かいながら訊くイヤナ。


「昨夜寝る前に色々と考えていた時に思い出したんだが、来週定期健診なのだ」


「あ。そうですわよ。月一の診断。どうなさいますの?」


自分の席に座ったペルルドールも思い出し、円卓に両手を突いて前屈みになった。

心臓に持病が有るセレバーナの主治医は王都に居るので、転移魔法で病院に行っていた。

なので移動に苦労は無いのだが、弟子の指輪を失ってしまった今は行ったら戻れない。


「遺跡から出られないのならお断りするしかあるまい。その旨を伝えるのは手紙で良いだろうが、薬はどうしようかな」


「お師匠様にお願いするしかないんじゃない?代わりに持って来てくださいって。お薬が無いと命に関わるんでしょ?ならそうするしか」


イヤナがキッチンから声を上げる。


「そうなるかな。師をアゴで使う様で気が引けるが、仕方有るまい」


「何を今更。今まで散々粗末に扱って来たクセに」


呆れた声を出すペルルドールに笑みを向けるセレバーナ。


「まぁな。そう言う訳だから、君の手紙と一緒に私の手紙も出して貰う事にする。構わないかな?」


「ええ、勿論。では、一緒に書きましょう。便箋とペンを取って来ますわ」


「私も行く。イヤナ、すぐ戻って来る」


金髪美少女と黒髪少女は立ち上がり、それぞれの自室に行って道具を準備した。

そしてリビングに戻って来て円卓に便箋を広げる。

お茶を淹れ終わったイヤナは、ペンを走らせている二人を眺めているのも退屈なので、お昼の仕込みを始める事にした。


「ん?まだ書いているのか。何をそんなに書く事が有るんだ?」


手紙を書き終えたセレバーナは、まだ文字を書いているペルルドールの手元を覗いた。

王族である彼女は字が綺麗で、文章を書くのも早いはずなのに。


「最初は下の村まで迎えに来て貰おうと思ったんですけど、それだと日数が掛かるでしょう?」


手を止めずに応えるペルルドール。


「ですが、転移魔法で王都に移動出来れば、その日の内に帰れると思ったんです。それが出来るかどうかはシャーフーチと相談しなければ分からないので」


「なるほど。下の村まで迎えに来てくれと言う手紙と、王都での待ち合わせ日時を指定している手紙の二通り用意しているのか」


「そうです。シャーフーチの返答によって、出す手紙を変えるんです」


ペンを置いたペルルドールは、インクを乾かす為に便箋を円卓の上に広げる。

しばらくの沈黙の後、微かな溜息を吐く金髪美少女。


「ねぇ、セレバーナ。ひとつお願いが有るんですけど、宜しいかしら」


「私に出来る事なら」


「ソレイユドールの自我が良い状態で蘇れば、彼女はきっと目的と想いを語るでしょう。可能でしたら、本人の口から語られたそれを教えて頂けませんか?」


「なぜ」


「より良い国造りには正確な情報が必要だと思うんです。ここに戻れないとなると、世界の状況を知る手立てが無くなりますから」


「時期女王候補として今後の動向が気になる、と捉えて良いのかな?」


「そう思ってくださっても構いません。再招集が掛かればその必要はないんですけど、そうなる可能性は高いと思えないんです」


「私は五分五分と思っているが、どちらにしても不確かな事には違いないか」


「手紙でもテレパシーでも密会でも、どんな形であってもわたくしは応えますので」


「女神になると言う選択がどう言う結果を齎すかが全くの予測不能だから約束は出来ないが、覚えておこう。可能な限り善処する」


「ありがとう。――ああ、イヤナ。わたくしの荷物は置いて行きますので、売るなり作り変えるなりしても宜しいですわよ。好きに使ってくださいな」


「うん、ありがとー」


キッチンから返事するイヤナ。


「さて。やる事も無くなったから、ヒマ潰しでもするか。久しぶりにチェスでもしないか?修行が終わった今なら自由に遊んでも構わないだろう」


「良いですわね。セレバーナの考え方を熟知していますので、以前の様には参りませんわよ?」


「それはこちらも同じだ。では、盤を用意してくれ。私は菓子を用意しよう」


身分が違い過ぎるので、ここを出たら二度と会えないかも知れない。

これが最後の勝負になると思っても大袈裟ではないだろう。

だから二人共本気の試合をした。

一手一手に時間を掛けたから、一局だけで日が暮れてしまった。

結果はセレバーナの勝ち。

ペルルドールは本気で悔しがったが、再戦しようとは言わなかった。

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