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それから一週間が経った。
魔法使いの弟子となった四人の少女は、下の村に毎日通い、無事に農作業をやり遂げた。
体力が有るイヤナとサコが土を耕し、手先が器用なペルルドールとセレバーナが種や苗を植え、と言う感じで役割分担したそうだ。
貰えた給金はスズメの涙ほど。
喜んでいるのはイヤナだけで、懐の寂しさが露骨に食事の質の低下に繋がった。
今朝の食事は、しなびた大根を塩水で煮た物だけ。
食べ盛りな少女達の不満が募る。
特に大柄なサコは一番空腹に悩まされている。
「シャーフーチ。野生動物を捕まえて食べても良いですかね」
髪を切り、ショートカットになったサコが言う。
防寒の為に冬の間だけ伸ばしていたらしい。
「構いませんが、外で行動する時は四人一緒でお願いしますよ」
「それより、魔法の修行はいつから始めるんですの?」
ペルルドールが唇を尖らせて言う。
来たばかりの時は人形の様だった金髪美少女は、この一週間で性格が変わり、普通の女の子みたいになって来た。
空腹と疲労で余裕が無くなり、上品ではいられなくなったせいだろう。
扇子を持つ事も無くなった。
「栄養失調と言う状態をご存じですか?シャーフーチ」
目の下にクマを作っているセレバーナが言う。
疲れ過ぎで眠れない日が有るらしい。
「これくらいなら、まだまだ大丈夫だよ。エヘヘ。限界までお腹が空くと違う世界が見えちゃうから、そうなってから慌てよう」
イヤナだけは、ずっと変わらず笑顔でいる。
「別に食べ物が無くなった訳じゃないんだし。頑張る頑張る!――で、お師匠様。今日から何をしますか?」
シャーフーチは、少女達の様子を眺めながら考える。
「まだ農作業は終わっていないんですよね?」
「はい。半分くらいかな?区切りが良かったので予定通り止めましたが、もう一週間くらいはやって欲しいって言われました」
ペルルドールとセレバーナが血走った眼でイヤナを睨む。
余計な事は言うな、と念を送りながら。
「じゃ、一週間延長しましょうか。出来れば、お給金を増やして貰って。空腹を訴えれば色を付けて貰えるでしょう」
「ちょっと待ってください!魔法のお勉強はどうなりますの?わたくしは野菜を植えに来た訳ではありませんのよ!?」
藤椅子を鳴らせて立ち上がったペルルドールが当然の抗議をする。
しかしシャーフーチは涼しい顔で応える。
「魔法の修行は焦ったら危険なのです。先は長いので、慌てず騒がず、のんびりと体力作りをしてください。これくらいでへばる様では魔法は使えません」
頬を膨らませてイラ付いたペルルドールだったが、イヤナからも仕事をしないとご飯が食べられなくなると説得され、渋々下の村に出掛ける。
「気持ち悪い……、大嫌い……、気持ち悪い……、大嫌い……」
壊れた蓄音器の様に同じ言葉を呟いているモンペ姿のペルルドールは、サコとイヤナが耕した畝に指を突き刺してほじくっている。
それで出来た穴にセレバーナが春キャベツの苗を植えて行く。
金髪美少女の仕事が一番楽だが、等間隔で穴を掘らなければならないので、意外と気を使う。
そうしているとお昼休みになり、いつも通り農家の縁側で昼食をごちそうになる。
これが有るお陰で命が繋がっていると言える。
「今日のゴハンも美味しいね!」
イヤナが明るく言うが、セレバーナとペルルドールは無言で頷くのみ。
仕事中に喋る体力は、まだ付いていなかった。




