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「では、卒業の証を授与します。先日も言いましたが、これだけではお店を開けないので注意してください。まずはセレバーナから。儀式をクリアした順です」
シャーフーチは立ち上がり、妙に量が多い黒髪をツインテールにしている弟子の許に移動した。
それを受け、セレバーナも立ち上がる。
そして気を付けをする。
背筋が伸びた姿勢は神学校の制服にマッチしていて、とても様になっている。
「セレバーナ・ブルーライト。シャーフーチ・ロマンソリオの名において、貴女の修行の終わりを認めます。その証として、これを授けます」
無表情な少女は、月の形をしたバッジを両手で受け取った。
「貴女が持っている星のブローチと同類の役割を持つ物です。大切にしなさい」
「はい。ありがとうございます」
再び気を付けをしたセレバーナは、深く頭を下げた。
腰を折ったまま数秒間固まり、やっと姿勢を正す。
「私は卒業を一度も体験しませんでしたが、神学校の卒業式には在校生として出席した事が有ります」
手の中のバッジを感慨深げに見詰めるセレバーナ。
堅くて軽い金属で出来ていて、黄色い表面に名前が彫ってある。
「卒業生が流していた涙の意味は分かりませんでしたが、なるほど、満足感と寂しさからの涙だったんですね」
言葉とは裏腹に無表情のままでいるセレバーナは、静かに椅子に座った。
「次はサコですね」
「はい」
妙に可愛い声をした長身の少女は立ち上がり、緊張した面持ちで師が歩み寄って来るのを待つ。
「サコ・ヘンソン。シャーフーチ・ロマンソリオの名において、貴女の修行の終わりを認めます。その証としてこれを授けます」
「ありがとうございます」
バッジを受け取り、深く頭を下げるサコ。
「ペルルドール・ディド・サ・エルヴィナーサ」
「はい」
この国の第二王女である金髪美少女が立ち上がる。
「シャーフーチ・ロマンソリオの名において、貴女の修行の終わりを認めます。その証としてこれを授けます。貴女は無理に頭を下げなくても良いですよ」
「いいえ。貴方は紛れも無くわたくしの師です。感謝と尊敬を込めて礼をします。ありがとうございました」
バッジを胸に抱いたペルルドールは、人生で最初で最後の最敬礼をする。
それに無言の頷きを返したシャーフーチは、継ぎ接ぎだらけのドレスを着た赤髪少女の前に立つ。
「何でもう泣いてるんですか」
「だって、なんかそんな雰囲気ですしぃ~」
「はい、起立、気を付け!イヤナ。シャーフーチ・ロマンソリオの名において、貴女の修行の終わりを認めます。その証として、これを授けます」
セレバーナの真似をして背筋を伸ばしたイヤナは、目に涙を溜めながらバッジを受け取った。
しかし堪え切れず、バッジを受け取った途端に大粒の涙が零れる。
「これで貴女達は名実共に一人前です。ですが、修行には終わりはありません。生涯を掛け、魔法の追及に励んでください」
師の言葉を受けたセレバーナが再び立ち上がる。
それに習ってペルルドールとサコも立ち、姿勢を正した。
「ここでの半年強は生涯忘れる事が出来ないでしょう。ここでの思い出を胸に、私達は人生と言う歩みを清く正しく続けます」
答辞の真似事をするセレバーナ。
そして、改めて頭を下げた。
他の三人も万感の想いを込めて頭を下げた。




