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「んっ、んっ、んんーっ!」
赤髪のイヤナが顔も真っ赤にして踏ん張ると、左手の薬指に嵌められている指輪が金属の霧となって暗闇に溶けた。
「ふんっ!ん……ん……」
眉間に皺を寄せたイヤナは、円卓の淵に座っている黒髪ポニーテールの使い魔を睨み付ける。
トンボの様な羽の邪魔にならない様に背中が大きく開いているワンピースを着ている妖精型の使い魔は、頑張っている主人を静かに見詰めている。
「はぁーん、はぁっ、はん!」
妙に艶めかしい声を洩らしながら拳を握る。
ツギハギだらけの質素なドレスを着ている少女の全身を覆っていた貴金属の気配が動物性の気配へと変わって行く。
直後、リビングに充満していた魔力がその拳に収縮した。
「ふぅ。これで、良いのかな?」
固く握っていた拳を開いたイヤナは、土弄りと水仕事で荒れた農民の手を細いロウソクの明かりに差し出した。
そこには星の形をした小さな粒が乗っていた。
「あ、出来てます。出来ました!成功しました!」
興奮気味に笑んだイヤナは、その手を師匠に向けた。
「おめでとう。それは何ですか?」
「ちょっと大きいですけど、星の砂です。下の村に来た旅人さんに見せて貰った事が有って、良いなぁって思っていたんです」
「なるほど。ただ、魔法を使う時は声を洩らさない方が良いですね。威厳の欠片もなくなりますので。一人前の魔法使いは威風堂々と魔法を使う物です」
「あ、ごめんなさい。私、頭の中でイメージするのが苦手で、つい」
「まぁ良いでしょう。とにかく、これで全員が卒業した事になります。おめでとう。明かりを増やしましょうね」
シャーフーチが指を鳴らすと、暖炉の上とキッチンへの出入り口に設置してある燭台に火が点いた。
石造りのリビングが明るくなり、全員の表情が判別出来る様になった。
少女達は、やり遂げた満足感が窺える良い表情をしていた。
ツインテール少女だけは無表情だったが、彼女も喜んでいる事は疑い様の無い真実だった。




