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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
224/333

19

「兎にも角にも、ソレイユドールの意識が蘇るのを待たなければなりません。彼女が目覚めなければ話が進みませんから」


そう言うシャーフーチに無表情を向けるセレバーナ。


「問題はソレイユドールの意識が戻らなかったら?と言う部分だと思いますが」


「彼女が復活してまだ一日です。不安ですが、しばらく様子を見るしかないでしょう。彼女が立派な女神になれれば貴女達が悩む必要は無くなりますし」


そこで言葉を切ったシャーフーチは、魔法ギルドの方の都合を考えてから続ける。


「取り敢えず、春まで様子を見ましょうか。それだけの時間が有ればドラゴンも成長するでしょう」


「どうして春までソレイユドールの成長を待たなければなりませんの?冬の間、わたくし達は何をすれば宜しいんですの?」


ペルルドールが小首を傾げる。


「最果ての土地で冬を越すのは難しいでしょう。下の村の人達も自分達が食べるので精一杯でしょうから、バイトも期待出来ません」


「確かに。ちょっとした事故で街道が塞がっただけでも物資不足になる村ですからね。雪が降ったら大変でしょう。迷惑は掛けられないと思います」


頷くサコ。


「用事も無いのにわざわざ飢えと寒さを我慢してもしょうがないので、解散してそれぞれの生活に戻ってください」


「解散、ですか?みんなバラバラになっちゃうんですか?寂しいです」


イヤナがしょんぼりとする。


「貴女達は修行を終えたのですから、貧乏暮しを卒業しても良いでしょう。四人が一纏まりで生活する必要も無くなりましたし」


今食べている夕食も、王都の人から見れば残飯でしかない。

それから解放されるのだから喜ぶべきなのだが、この共同生活が終わるのは名残り惜しい。

そんな少女達の心を見越し、あえて無情に終わりを告げるシャーフーチ。


「卒業は、どんな形であれ、全員に等しく訪れます。夕食が済んだら『巣立ちの儀』を始めましょう。その指輪を外す時が来たのです」


少女達全員が自分の指に嵌っている金色の指輪を見る。


「春までの時間が有れば、落ち着いて将来を考える事が出来るでしょう。その時が来たら私から連絡しますので、安心して越冬してください」


「その事ですが、私は女神になるとすでに決めています。ですので、そのカードを触っても宜しいでしょうか」


相変わらずの無表情で野菜スープを啜っていたセレバーナがそう切り出した。

するとシャーフーチは呆れ顔になった。


「だから、急ぎ過ぎなんです。他の子達の都合も考えてくださいよ。セレバーナが良くても、他の子達は迷っているかも知れないんですよ?」


「あ、私も女神になろうと思うんですけど」


弟子達を心配する師を裏切るかの様に左手を上げるイヤナ。

シャーフーチはヘソを曲げた様な表情を赤髪少女に向ける。


「軽率過ぎますって。もう少し考えなさい」


「考えるも何も、私には行く所が無いんですもん。遺跡を出てアルバイトするのなら、ここに来た意味が有りません」


スプーンを置いたイヤナは背筋を伸ばす。


「私はどこででも生きられますから、ここで冬を越したいです。良いですか?お師匠様」


笑顔で言うイヤナに言葉を失うシャーフーチ。

食料が無い冬の僻地に居続けたいと言い出すとは思ってもみなかった。

だがしかし、下の村の人達と仲良くなり、先頭に立って庭の畑を育てて来たイヤナなら残ると言い出してもおかしくはないか。

身寄りの無い少女を追い出す訳にも行くまい。


「ああ、イヤナが居るのなら私もここに残りたいです。ここなら今まで買い揃えた生活用品が揃っていますし、宿泊費の心配も要りませんし」


セレバーナもスプーンを置き、右手を上げた。

仕方なく許可を出すシャーフーチ。


「こんな所で良いのならどうぞご自由に。でも、決して飢え死にしたり凍死したりはしないでくださいよ?女神候補が居なくなったら世界が消えるんですから」


「頑張ってみます。庭に冬野菜をいっぱい植えれば、多分大丈夫です」


「イヤナと二人なら生存率も高まると思います。――ただ、寒さが心臓に悪影響を与えると自分で判断した場合、どこか温かい所に避難するかも知れません」


赤髪少女に無表情を向けるセレバーナ。


「そうなったら許してくれ、イヤナ。私はまだ死にたくないのだ」


「勿論だよ。私だってセレバーナの死体を見ながら雪解けを待ちたくないもん。気にしないで。って言うか、ぜひそうして」


笑顔で応えるイヤナを見詰めていたペルルドールもスプーンを置いた。


「二人がそこまでの決意をなさっているのなら、わたくしも決めました。わたくしは女神になりません」


「ですから、この場で決めなくても良いと……」


苦笑するシャーフーチに向けて首を横に振るペルルドール。


「わたくしは王城内に渦巻く陰謀を探る力を得る為にここに来たのです。世界の消滅は気掛かりですが、わたくしの目的はそこではありません」


目を瞑って深呼吸したペルルドールは、青い瞳でイヤナを見詰めた。


「ですから、わたくしはソレイユドールの願いを引き継ぎ、王家を存続させます。そして、イヤナの様な貧しい民でも飢える事の無い幸せな国を作りますわ」


「おお、それは良いね。ぜひそんな国にして欲しいな」


イヤナは笑顔で手を合せてお願いした。

それに自信を込めた頷きを返す金髪美少女。


「清く正しい王家を実現し、子子孫孫までソレイユドールの願いを受け継ぐ事を約束しますわ。ここに居る全員に誓って」


「その誓い、重く受け取ろう」


セレバーナの言葉に少女達全員が頷いた。


「ペルルドールと同じく、私も目的が有ってここに来ました。私も女神にはなりません」


サコが胸を張って言う。


「私は魔法ギルドに行きます。そこで治癒の魔法を極めようかと」


「貴女も心はすでに決まっている、と言う訳ですか」


「はい。ギルドに行く決定をするのは、一旦実家に帰り、両親の許可を得てからになりますが。アルバイトで学費を稼がなければなりませんし」


シャーフーチもスプーンを置く。


「みなさんの決意は分かりました。しかし、世界の命運が掛かっている事態ですから、貴女達がどんな覚悟をしていたとしても、はいそうですかとは行きません」


師匠らしく表情を引き締める灰色ローブの男。


「現時点では、女神候補の一番目はソレイユドールです。彼女をおざなりにしての話し合いは許されません」


「ふむ……。私達はあくまでも予備、ですか」


腕を組むセレバーナ。


「言葉は悪いですが、否定は出来ません。貴女達全員が女神にならなかった、なれなかった場合を考えてのドラゴン化ですし」


「ソレイユドールの意識が戻らなかったら、もしくは意識が戻った後の判断次第では女神にならないと決めた彼女達の再招集も有り得ますか?」


「再招集は有ると思っていてください。彼女の計画はまだ途中ですから」


「では、そのカードの知識を得るのもソレイユドールが目覚めるまでお預けですか?気になって仕方が無いのですが」


「機械に興味が有るセレバーナにはそうでしょうね。これに秘められている知識は魅力的でしょう。うーん」


しばらく考え込んだシャーフーチは、面倒臭そうに溜息を吐いた。


「女神になるのは貴女達です。貴女達の思う通りにしても良いでしょう。この世界には女神が複数人居た時も有ったみたいですから、問題は無いでしょう」


円卓に両手を乗せたシャーフーチは、その手触りを確かめる様に表面を撫でる。

こうして確かに有る樹の存在に触れていると、この世界が水泡の様に儚い物だとは信じ難い。

だが、女神がそう言ったのなら、それは真実なのだ。


「明日、いきなり世界が消える可能性も有る訳ですしね。貴女達がやたらに急ぐのも、誰かしらの願いが警鐘を鳴らしているのかも知れません」


「可能性だけなら、一秒後にいきなり消えても不思議ではありませんね」


セレバーナは世界の消滅は真実だと言う前提で話しているが、心の中では女神関係の話が本当かどうかの確証は無いと思っている。

世界が産まれてまだ数ヵ月しか経っておらず、いつ消えてもおかしくないと言う話を真に受けて『わぁ大変だ』と思う方がどうかしている。

しかし、今はそれが真実だと信じて動くしかない。

本当だったら一大事だし。

それに、魔法ギルドの長が第二王女であるペルルドールを騙すとも思えない。

騙したところで意味が無く、そもそもそんな不誠実な事をしたら、王家、魔法使いギルド、教会の三つ巴になっているこの国の政治バランスが乱れる。

世界全体ではなく、人間社会の枠組みの中で判断しているが、それ以外の考え方をまだ知らないので仕方が無い。


「消滅を阻止するのがソレイユドールと穂波恵吾の願い。貴女が女神としての責任を取れるのなら、どうぞ異世界の知識を得てください」


だたし、と続けるシャーフーチ。


「『巣立ちの儀』を済ませてから、ね」

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