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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
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14

無言のままでいる少女達の表情を見るシャーフーチ。

イヤナとサコは特別何かを考えてはいないだろうが、セレバーナとペルルドールの心の内は不気味である。

そんな重苦しい空気の中、テイタートットが声を出す。


「最後に。貴女達に見せた夢の中で、女神の遺跡と下界では時間の流れが違うと言う話が出て来ましたね。覚えていますか?」


頷く少女達の顔を見渡したテイタートットは、おもむろにイヤナを指差した。


「魔王が封印されてから何年が経ちましたか?」


「え?えっと、五百年です」


慌てて伝説を思い出し、応える赤髪少女。


「そう、五百年です。その頃から生きているシャーフーチは五百歳だと、君達は思っている。当時を知っている僕も年寄りだと思っている。そうですね?」


「もしや、この遺跡内ではそんなに時間が経っていない?」


片眉を上げて言うセレバーナに頷くテイタートット。


「その通り。僕達は五百歳ではありません。人間として当たり前な年齢なのです」


「え?お師匠様って、五百歳じゃなかったんですか?」


頷くシャーフーチ。


「そうなんですよ、イヤナ。最初に遺跡に来たのはイヤナでしたね?その時に私も確認しましたが、遺跡は汚かったですよね?五百年の年月を感じさせるくらい」


「はい。とても汚かったので、ペルルドールと一緒に来たメイドさん達が掃除してくれました」


赤髪少女はおさげを揺らして頷いた。


「実は、私が魔王になり、ソレイユドールが転生したのは、貴女達が来る前日だったんですよ」


驚く少女達。

その後、セレバーナが無表情で訊く。


「世界の消滅が近い事を焦ったソレイユドールがそう願ったから、世界の時間がそうなったと言う事ですか?」


テイタートットが応える。


「その通り。彼女が起こした魔物との戦争と王国をひとつに纏める戦争も一瞬で終わっています。僕達は何年も戦いましたが、ソレイユドールの認識では数分です」


「理解し難いですが、この遺跡内なら起こり得る訳ですか……」


歯切れ悪く言いながら腕を組むセレバーナ。


「そうです。一番に気付いたでしょうが、ここは女神が住んでいた拠点です。ここが女神魔法の源である『女神の座』なんです」


「なんと……」


セレバーナはツインテールを揺らして天井を仰いだ。

生活し易い様に遺跡を弄っていた黒髪少女は、常々不思議に思っていた。

誰がどうやってこの遺跡を造ったのかと。

材料である石材をどこから持って来たのかさえ分からなかった。

魔王城の一部分だから凄い魔物が凄い魔法で造ったのかと思って適当に流していたが、まさか女神様が造っていたとは。


「ただ、君達がここに来てからは、ここは下界と時の流れを同じになりました。この場での主役である君達が、それを常識だと思っているからです」


喋り続けで喉が渇いたのか、テイタートットは冷めたお茶を一気飲みした。


「それはこの遺跡に残っていた女神の力も失われた事を意味します。ここと下界が地続きになったからです。世界が消滅する時は近い。君達の誰かが女神にならない限り」


仲間と顔を見合わせる少女達。

この中の誰かが新しい女神になる……?


「この世界が不安定であるが故に発生する異常性を示しましょう。これは穂波恵吾がこの世界の文化を彼好みに造り変えた事でこうなってしまった物です」


テイタートットはツインテール少女を指差した。


「君に質問します。君は、僕からの質問を受けるとある言葉を思い出します」


「……?意味が分かりませんが」


「今はまだ誰もその言葉を知りません。本にも書いていません。それは穂波恵吾の世界の言葉だからです。ですが、私がそれについての質問をすると都合良く思い出します」


「誰も知らないのに、私はそれを思い出すと?」


「そうです。それが異常性です」


「面白いですね。それは一体?」


「まず、夢で見せた事を簡単に纏めますよ」


この世界は、新しい世界神を育てる為だけに作られた場所だ。

古い世界神の寿命が迫っている為、女神の拠点と下界の時間の流れが同一だと時間が掛かって仕方が無い。

だから、召喚された勇者達の活動に支障が出ない様に、下界も有る程度文明が進んでいる状態から一日目が始まっている。


「それはどう言う事でしょうか?」


「……ギルド長のお言葉を拝聴したところ、確かにある言葉を思い出しました。ですが、これがどんな意味を持つのでしょう」


セレバーナは、眉間に皺を寄せて腕を組み直す。


「その言葉とは?」


「五分前に世界が突如として現れたと仮定した時、それを否定する事は出来ない。それを『世界五分前仮説』と言う」


他の少女達が首を傾げる。

ツインテール少女は何を言っているんだろう。


「記憶の全てを持った人間が五分前に突如として出現したと仮定した場合、例えば彼等が五百歳だったとしても、彼等は五分前に突然現れた事を否定出来ない」


セレバーナは分かり易い様に言い直したが、仲間達は全く理解出来なかった。


「有り得ない仮説ですが、思考遊びとしては面白いですね。それが?」


「ここと下界の時間の流れの違いがそれだとしたら?」


「……ん?」


珍しくセレバーナが小首を傾げた。

しかしすぐに眉間の皺を消し、無表情になって組んでいた腕を解く。

そして思い付いた仮説を口にする。


「つまり、時間の流れが違うのではなく、下界の時間は途切れ途切れ、と言う事ですか?」


「さすが天才少女。すぐに理解しますね。勇者達の進軍も、通常なら街から街へと移動するだけで何日も掛かる。そう言う無駄な時間も遺跡内ならスキップ出来ます」


「便利ですね。そんな魔法が外でも使えたら旅が快適に出来る」


「女神が下界を知覚した時、望んだ時間が経過し、その間の歴史が自動で作られます。それはソレイユドールが半女神状態だった時も有効でした」


「……なるほど。辻褄合わせの発生という言葉はそう言う意味でしたか。主役である私達がここを特別だと思わなかったから、遺跡が一晩で五百年分汚くなった、と」


早口で言うセレバーナ。

他の少女達の頭の上にはハテナマークが浮いているが、今はそれに構っていられない。


「その通り。君達の五百年は、僕とシャーフーチにとっては一瞬前の出来事なのです。それを君達は否定出来ない」


「むぅ……」


円卓に拳を突いたセレバーナは、小さな頭で思考を巡らせた。

だが、その答えが出る前にテイタートットが口を開く。


「女神がこの世界に居た時間は一ヵ月。穂波恵吾が貰った時間は一ヵ月。合計二ヵ月。それがこの世界が産まれてから経過した時間です」


「この世界が産まれてから……二ヵ月しか経っていない?それはどう言った意味の冗談ですの?」


ペルルドールが理解せぬまま訊く。

自分は十三歳。

ソレイユドールが生きていたのは五百年前。

悲劇の王女が産まれる以前にも王家の歴史が有る。

何十にも渡る世代のリレーの末に今が有る事は、どんなに学の無い人間でも分かっているはずだ。

それなのに、テイタートットはゆっくりと首を横に振った。


「君達が修行をした日数を足して、合計九ヶ月。十ヶ月かな?どちらにせよ、それが現実に進んだ時間です。それがこの世界の年齢なのです」

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