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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
218/333

13

その戦争は最初から人間側の勝利が約束されていた。

強い魔物に魔王城を護らせ、弱い魔物に人間の街を襲わせたからだ。

勇者装備を身に着けているテイタートット達が先頭に立って戦った事も有り、魔物軍は度重なる撤退を強いられた。

ソレイユドールの魔王化はとっさの思い付きだったので我が強い魔物は従わなかったが、数が少なかったので被害は局地的だった。

間も無く魔物のほとんどが魔王城に閉じ込められ、世界に平和が訪れた。

そして、管理する女神が消えた事によって放置されていたななつの国もひとつの王国に纏まった。


「これで王女が居なくなっても大丈夫かと思われましたが、またしても問題が発生しました」


女神の鎧のレプリカを着てそれを使いこなす事が女神になる第一歩なのだが、異次元を作り出した事でその力のほとんどを使い果たしてしまったのだ。

これでは世界の維持は出来ない。


「しかし、長い冒険の中で将来の危機を予想する警戒心を育てていた穂波恵吾は、最後の手段を残してくれていました。それがこれです」


テイタートットは、魔法を使って空間に穴を開けた。

その穴から一枚のカードが落ちて来て、円卓の上で少女達の視線を集めた。

それには穂波恵吾の姿が描かれていた。


「穂波恵吾が召喚される時に使われた勇者カードです。これには彼の潜在能力である『創造』の力が秘められています。これが女神の鎧の代わりになります」


これをこの世界に残すと、元の世界に帰った後に運が良くなる等の報酬を受け取る事が出来なくなる。

だが、穂波恵吾は報酬よりこの世界の存続を選んだ。

だからこそ、ソレイユドールはその想いに応えたかった。


「王女はこれを使って女神になろうとしましたが、無理でした」


彼女には、もう魔王として生きる道しか残されていなかったのだ。

一度人ならざる物に変化したら、それで終わり。

それが世界のルールだった。

ルールを変更しようにも、もう鎧には力が無い。

勇者カードを使えばなんとかなるだろうが、それに込められている魔力はレプリカ鎧よりも少ないかも知れない。

ルール変更をしただけで力を使い果たしたら、今度こそ世界は終わりだ。

やはり新たな女神を作るしかない。


「だから彼女は僕達に手紙を出しました。人類の代表となって魔王を倒してほしいと。勿論実際に倒す訳ではなく、民衆にその事実を広める目的で」


「魔王と言う存在を消そうとした?」


小首を傾げるペルルドールに向けて首を横に振るギルド長。


「そうするはずだったんですけど、それも無理でした。魔王を倒すと魔王城が消える。つまり、魔物が再び解き放たれてしまう」


「だから私が魔王を引き継ぎ、彼女は改めて女神になる事にしたんですよ」


シャーフーチが苦笑いしなが言う。

それでは言葉足らずだと叱ったギルド長が説明を続ける。


「魔王のままではソレイユドールは女神になれない。だから一度死に、別の存在に生まれ変わる必要が有ったのです。その生まれ変わりが、そのドラゴンです」


「え」


少女達の視線がシャーフーチの腕の中で眠るドラゴンに移動する。

最初に声を出すのはペルルドール。


「それが、ソレイユドール?」


頷いたシャーフーチは、愛おしそうな顔でドラゴンを見下ろす。


「ええ。ソレイユドールの転生体です。私達の魔力を総動員して転生を行いました。ご覧の通り、人間だった頃の記憶が有るかどうかは分かりませんけどね」


テイタートットは真顔で語り部の主役に戻る。


「彼女は記憶を失う事も想定していました。だから再び手紙をバラまいたんですよ。魔法使いの弟子になりませんか?と言うね」


「それに私達が応じた、と」


腕を組むセレバーナに頷いて見せるテイタートット。


「そうです。ソレイユドールが女神になれなかった場合、招集された誰かに女神になって貰う為に」


「やはりそれが目的でしたか。しかし、それは詐欺なのではありませんか?私達は女神になる為にここに来た訳ではない」


「いいえ、詐欺ではありません。貴女達の修行は間違いなく魔法使いになる為の物です。女神になる為の物ではありません。――そうですね?シャーフーチ」


「魔法ギルドが用意した魔法使い育成の手引きに従いました。間違い無く、貴女達は魔法使いの弟子です」


「だから嘘は言ってないと?」


「ええ。ただ、ひとつだけ嘘を言っています。最初に女神は居ないと言う話をしましたね。それは魔法使いの弟子全員が知る事実だと言いましたが」


話声がうるさいのか、腕の中のドラゴンが身動ぎした。

驚いて下を見るシャーフーチ。

しかしドラゴンは目覚めていない。


「実際は、そんな話はしません。それを知るのは、この場に居る私達だけです。だから他言無用としたのです」


ドラゴンを刺激しない様に、シャーフーチは少し声を抑えている。


「貴女達が他の魔法使いの弟子に会わない様に気を付けてもいました。そこのところの調整はテイタートットの仕事でした」


「他の弟子と交流すると矛盾点がバレるからですか?」


無表情で腕を組んでいるセレバーナが言う。


「そうです。失敗したら世界が消えてしまうんですから、絶対に失敗は出来ないんです。そこのところを酌みとってください。お願いします」


弟子に向かって軽く頭を下げるシャーフーチ。

しかし少女達からの返事は無かった。

何と応えたら良いか分からなかった。


「ソレイユドールの転生が理想の形で成功する確証が有ったのなら、そんな心配をする必要は無かったんですけどね。でも、結果はご覧の通り、最悪でした」


五百年前の悲劇の王女は、土鳩サイズの爬虫類になって寝息を立てていた。

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