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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
217/333

12

自分の肉体に戻って来た少女達は、重力と悪寒に襲われて身動ぎした。

イヤナは目を擦り、サコは胸と肩だけを上下させて伸びをした。

育ちの良いペルルドールは人前では姿勢を崩さないが、居心地の悪さと気だるさを我慢しているせいで眉間に皺が寄っている。


「女神が世界を去った理由は、人間に絶望したからではなく、役目を終えたからだと言う事は分かりました」


セレバーナが落ち着いた声で言う。

半目の寝起き顔なので、彼女も身体の不調を我慢している様だ。

それを態度に出さないのは、知的好奇心を先に解消したいので話を早く切り出したいからだろう。

その言葉を受けた白い少年は、長い杖を振り回してから服の中に仕舞った。

ツインテール少女の身長程も有る杖が見事に内ポケットに収まったので、少女達の好奇心の視線を集めている。


「本当なら、そこで世界は消えていたはずでした。つまり、今は延長戦なんです。それも理解して貰えたと思います」


現実に帰って来たので、テイタートットは敬語に戻っている。


「穂波恵吾、僕、シャーフーチ、戦士のコーヨコ、薬師のマイチドゥーサは相談しました。その結果、新しい女神を作れば良いと言う結論に達しました」


「なるほど。女神が居ないのなら、別の女神を作り、その者に世界を支えて貰えば良いと言う訳ですね。もしや私達が集められたのは――」


「結論を急いではいけない。まだそこではありません。もうしばらく静聴してください」


テイタートットがセレバーナの言葉を遮ると、小さなホワイトドラゴンを抱いているシャーフーチが口を挟んで来た。


「この子達はこの調子で急ぐんですよ。だから半年で彼女が孵ったんでしょう」


納得の頷きをしたテイタートットが話を続ける。


「僕達の仲間には女性が一人しか居ませんでした。マイチドゥーサです。しかし彼女は女神になれませんでした。理由は簡単。その覚悟が出来なかったからです」


「彼女は敬虔な信者でしたからねぇ。今まで信仰していた女神の座に自分が着くのは畏れ多かったんでしょう」


シャーフーチが苦笑いする。


「困った僕達は、装備探しの途中で知り合った王女を頼る事にしました。王家の人脈なら手掛かりを掴めると思って。それがソレイユドールです」


魔王に誘拐された伝説の王女の名前が出て来たのでペルルドールが反応した。

それに黒い瞳を向けるテイタートット。


「ソレイユドールは色々と手を尽くしてくれましたが、女神の代わりは見付かりませんでした。なぜなら、この世界では特別な人間は産まれないからです」


テイタートットは、少女達の表情を見渡しながら「先程の夢の中で、女神がそう言っていたでしょう?」と肩を竦めた。

授業を受けている様な表情で頷く少女達。


「残念ながら、一ヵ月では何も成果は得られませんでした。穂波恵吾は結果を見れずに消えてしまいました」


残された時間は少ない。

普通の人達は気付かなかったが、明らかに世界が狭くなって行っていた。

世界の面積自体は変わっておらず、人口も減っていないのだが、なぜかそう感じた。

事情を知っている者だけがそれを知覚出来るらしい。

穂波恵吾の仲間達は焦燥感に襲われているが、それ以外の者は何も感じていなかった。

だが、その感覚が進んだ先に『世界の消滅』が存在するのだと言う事は、焦燥感の無いソレイユドールにも理解出来ていた。

王女である彼女の許には良くない情報が続々と集まっていたからだ。

特に、自分の命を顧みていない様なやけっぱちな凶悪犯罪が倍増していた。

民の中にも未来が無い事を感じ取っている者が居る証拠だと彼女は判断した。

そこでソレイユドールは強硬手段に出た。

自分が女神になろうとしたのだ。

だが、それにはひとつの問題が有る。

勇者育成の為の魔物が放置されている事だ。

元々は消す予定の世界だったので、勇者達が消えた後の事は考えられていない。

なので、勇者用の装備を得ているテイタートット達以外の一般人が魔物を退治するのはとても難しいのだ。

王族と言う存在も穂波恵吾のイメージが産んだ物だったので、王女以外の王族は居ない。

だからソレイユドールの代わりが出来る人間も居なかった。

何も知らない国民にとっては自分の生活圏が存続出来れば偉い人は誰でも良いが、ソレイユドールにとっては大問題だ。

指導者が居なくなった国では魔物の脅威に対する組織立った対処は出来ないだろう。

世界が残っても国が滅びては意味が無い。

それを解決する為、ソレイユドールは魔物の王、つまり魔王となって魔物を纏め上げた。


「ソレイユドールが魔王?シャーフーチではなくて?」


ペルルドールが驚きのあまりに声を上げ、話を中断させる。


「そうです。城の者達には魔王に連れ去られたと言う自演工作をしたので、伝説では悲劇の王女になっています。ですが、僕達は真実を知っています」


「なぜ魔王に?」


セレバーナが訊く。


「魔物を一か所に集める為に。女神の遺跡に籠って女神になる覚悟をしていた彼女は、女神の力の一部を手にしていました。だからそれは可能でした」


女神の鎧のレプリカを着込めば、自分の意思を世界の理とする事が出来る。

女神達もそうやって自分の国を作った。

そうして魔物を自分の配下としたソレイユドールは、王国と魔物の戦争を起こした。

勇者の敵だった魔物を人間の敵へと変化させ、魔物の敵意を人類全てに固定したのだ。

そうする事で辻褄合わせが発生し、普通の人間でも魔物を倒せる様になった。


「女神候補であり、同時に魔王となったソレイユドールは異次元を作り出し、そこを魔王城としました。それはここ、封印の丘です」

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