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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
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11

戦いに勝利した女神ストーンマテリアルは、その美しい全身を青い甲冑で包んでいた。

女神候補だった六人の男性は、女神の後ろで扇形に整列して控えている。


「みんな、本当にありがとう。みんなお陰で勝利を得る事が出来たわ」


石造りのリビングでは三十人ほどの勇者が跪いており、女神の言葉を受けて勝鬨を上げた。

単独行動がメインだった穂波恵吾は作法を知らないので一人で戸惑っている。

下界に居た時は普通の人間だったのに、このリビング内での他の勇者達はまるでゲームのNPCノンプレイヤーキャラクターの様に一糸乱れぬ動きを取っている。


「一ヵ月の短い付き合いだったけど、これでお別れです。この世界は消滅するけど、貴方達の活躍は、私の記憶と、貴方達の経験になって残るでしょう」


「え?世界が消滅する?どうして?」


穂波恵吾が前に出る。

しかし他の勇者達は無反応。

自我が消えているらしい。

穂波恵吾が特別なのは本当の様だ。


「だって、この世界は私達の修行の場だもの。修行が終われば用済みでしょ?残しておく意味が無いから、分解して新しい世界の材料にするの」


「用済みって……下界には大勢の人間が居るんだぞ。あいつらはどうなるんだ?」


「勿論消えるわ。ここでは今すぐだけど、下界ではそれなりの時間が経った後にね」


「それなりって、どれくらい?」


「さぁ?私が作った世界じゃないから分からない。けど、眠りに入る様にスッと消えるはず。死の恐怖は無いから問題は無いと思うけど?」


「問題大有りだよ!世界神になろうとしてる神が命を軽く見てどうするんだ!それじゃ意味無いだろ!」


十年もの長い間、下界の人間と共に装備集めの冒険をした事を熱く語る穂波恵吾。

無限に沸く魔物から貧しい村を救ったり、定期的に現れたり消えたりするダンジョンを命懸けで攻略したり。

そんな冒険の最中、淡い恋が産まれたり。

その語りを聞いていた女神は、美しい顔を歪めてつまらなさそうな表情になった。

女神のゲーム時間は一ヵ月だったが、下界では千年近い時間が経過している。

穂波恵吾が考え無しに文化や技術を進化させてしまったから、世界が勝手に時間を進めて辻褄合わせをした。

大幅で急激な時間の変化を人間が知覚すると相当な負担になる為、勇者達を下界の理から外していた。

他の女神達も下界の状況を把握しているので、同じ様に外していた。

なので、勇者達が接していた人達は彼等と時間が同期しているから本人達は気付いていないが、それ以外の命は一瞬で人生を終えている。

下界の人間の命を大切にしたいと思うのなら、そんな世界の在り方自体が間違っている。

しかも、この世界はゲームの進捗状況を表す為だけに存在するので、特別な才能を持つ者や時代を牽引する指導者は産まれない様に設定されている。

つまり、この世界の人間は進化も進歩もしない。

神に近付く可能性を有する人間が現れる事も無い。

実際、特別な命はひとつも発生していない。

そんな世界は世界樹の栄養にならないので、存在価値は全く無い。


「――なるほど。勇者に自我が無い意味が分かったわ。使い捨ての世界に感情移入すると面倒だからなのね」


しばらく何かを考えた後、やっと口を開く女神。

男になった他の女神達も納得して頷いている。


「こっち側にも言いたい事は有るけど、まぁ、貴方の気持ちは分かった。取り敢えず、穂波恵吾以外の勇者を元の世界に戻すから待ってて」


「おう」


女神ストーンマテリアルは跪いている勇者達に近付く。

そして一人の勇者の頭に左手を翳す。


「勇者デーニ・ダウロ。貢献度571。帰還時のステータス再生率57,1%。余り活躍させられなくてごめんなさい。でも助かったわ」


勇者の姿が霧となって消えた。

そうして三十人弱居る勇者一人一人に話し掛ける女神。

丁寧にお礼を言っているので結構な時間が掛かったが、滞り無く穂波恵吾以外の勇者の姿が消えた。

石作りのリビングが静かになった後、女神は豪華なソファーに戻る。


「貴方も座って。メイドも消えたからお茶は出ないけどね」


穂波恵吾は言われるままに皮張りの椅子に座る。

他の神達は変わらずに女神の後ろに控えている。


「貴方の言う通り、命を粗末にしては神の存在意義は無いのかも知れない。世界神には無意味だけど、命も世界の一部と言えなくもない」


「世界神には無意味って、どう言う事だよ」


「世界神は世界を作り、維持するのが仕事。そこに命が産まれるのはただの偶然。命が産まれなくても私は平気。生命が無い世界だって有って当たり前だからね」


「命がどうなっても平気だから、世界神としてはこの世界が消えても良いと?」


「世界神としては消えた方が良いと思っている。――だけど、貴方の存在に意味が有るのなら、貴方にそう窘められるのも古い世界神の目的なのかも知れない」


円卓に肘を突いた女神は、透き通る様な緑の瞳を穂波恵吾に向ける。


「だから貴方に期待しよう。本気でこの世界の存続を望むなら、貴方が何とかしなさい」


「俺が?どうやって?」


「本来なら貴方もすぐに元の世界に帰さなきゃならない。でも、この世界神の鎧のレプリカを貴方にあげれば、下界の時間で一ヵ月は留まれる」


石作りのリビングの中心に有る円卓の脇に、女神が着ている鎧と同じ物が現れた。

勿論中身は空っぽだが、自立している。


「その一ヵ月の間に、下界の人と協力して新しい世界の理を作ってみて。それが出来れば、この世界は存続出来るかも知れない」


「理を作るって、どうやって?」


「貴方の潜在能力は『創造』。貴方が頑張れば何かが産まれるかもね。命の足掻きを新世界神である私に示して頂戴」


ウィンクした女神が立ち上がる。


「私達は居なくなるけど、観察は続けてあげるわ。その結果次第では、この世界も世界樹の栄養になれるかもね」


「栄養になれなかったら消えるのか?どうしても世界樹の栄養にしないとダメなのか?」


「ダメ。それが世界の存在理由だから。栄養になるのが嫌なんてのは通らない。――そうね。納得出来る様に、ヒントくらいはあげても良いかな」


女神が指を鳴らすと、女神達が使っていた豪華なソファーが消えた。

穂波恵吾が座っている椅子はそのまま残っている。


「貴方なら答えられるわよね。木が育たない土はどんな状態だと思う?」


「……死んでる。それか、腐っている」


「正解。栄養にならない土はどこかにやって、健康な土に替えなければ木は枯れる。私が何を言いたいのか、分かるわよね?」


「分かった。俺が何とかして見せる。この世界を良い感じの栄養にしてやるさ」


「良い子ね。じゃ、頑張ってね」


神々しい笑顔を眩しい光に溶かし、女神達は世界の外へと旅立って行った。


『こうして、この世界は穂波恵吾に託された。

彼は青い鎧を着込んですぐに下界に降り、仲間である僕達に相談した。

事実を全て話し、どうすればこの世界が消えずに済むのかと。

ここまでが女神の時代だ。

相談が終わり、穂波恵吾が消えてからが現代になる。

では、君達の意識を元の肉体に戻すよ』

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