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再び場面が変わり、遺跡のリビングに戻って来た。
豪華なソファーに座っている女神ストーンマテリアルの姿が変わっている。
以前は左腕だけに青い甲冑を着けていたのだが、今は右足、腰、そして兜を身に着けている。
「よし、良くやった!」
いきなり立ち上がった女神は、威厳の欠片も無いガッツポーズをした。
女神の目の前に浮かぶ映像の中で、穂波恵吾が見付けた装備を着ている二十人ほどの勇者達が砂漠の中で勝鬨を上げている。
直後、派手な色気を身に纏った女性がリビングに現れた。
ストーンマテリアルと同じく絹のドレスを着ていて、右手と左足に青い甲冑を装備している。
「ああ、負けましたわ。貴女、勢い有り過ぎよ。不正はないんですの?」
派手な女性は、ウェーブが綺麗な金髪を手で払いながら溜息を吐いた。
「審判は問題無しって判定をしているわ。さぁ、サンドマテリアル。鎧をよこしなさい」
「はいはい、どうぞ。で、私をどうするつもり?消滅させるの?」
「いいえ。周りを良く見て御覧なさい」
石造りのリビングには椅子やソファーの数が増えていて、数人の男性が好き勝手に寛いでいる。
「周りの男性が何か?――ん?その草色の髪の子は、グラスマテリアル?こっちはメタルマテリアル?まさか、負けた女神を男性化してるの?」
「正解。一から新しい神を産むのは時間が掛かるからね。折角だから、素材神として活用させて貰うわ」
「ふぅん。吸収でも消滅でもなく、手下とするんだ。悪くないアイデアだわね」
「貴女はサンドだから、薄茶色の髪にしましょう。それっ」
ストーンマテリアルが左手を振ると、派手な女性が派手な男性に変わった。
自分の胸板を触って身体の変化を確かめたサンドマテリアルは、それから人差し指を立てて中空に何かを描いた。
しかし何も起こらない。
「絵画魔法が使えない……?そうか、女神としての能力は無くなるのか。そりゃそうよね」
「ゲームの決着が付くまではね。魔法は後で返すわ。――最後は世界の中心に居るライトマテリアルか。何度か攻めてるんだけど、なぜか失敗するのよね」
ストーンマテリアルはソファーに座り、新たに手に入れた甲冑を身に着ける。
胸の部分が絹のドレスのままなので、残りはその部分だけの様だ。
「ま、ここまで来たら全部の勇者を一点集中出来るし、鎧の魔力も使いたい放題だから、負けは無いでしょう。穂波恵吾の役目も終わりで良いわね」
女神が左手を上げると白い伝書鳩がどこからか現れ、女神の手に留まった。
その脚に手紙を仕込み、半開きの木窓から青空へと飛ばす。
『この鳩が僕達の旅を終わらせた。
ここまでが前振り。
間も無く女神達のゲームが終わり、女神達がこの世界から去る時が来た。
そこで穂波恵吾が異を唱えたんだ』




