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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
213/333

8

穂波恵吾は自分そっくりな人形を見ながらポケットから何かを取り出した。

薄い長方形のガラス板の様だが、その表面が機械的な光を発している。


「しかし、カードから勇者を具現化、か。ソーシャルゲームに良く有る奴だな。――そう思ったんだけど、やっぱり電波は通じてないか」


「また新しい概念ね」


青い甲冑に包まれている左手を振って中空に文字を浮かび上がらせる女神。


「あれ?何も産まれてない。あ、なるほど。今の文化レベルと違い過ぎると無効になる訳ね。イレギュラーの潜在能力でも万能じゃないって訳か」


女神は雑に左手を振り、文字を消す。


「それが貴方の世界の機械?見せてみて」


「良いですよ。画面を指で触れば動きますけど、今は使い物にならないですよ」


女神は、偉そうに座ったまま手招きした。

自分から動く気が無い様なので、穂波恵吾の方が立ち上がってガラス板を手渡す。


「構わないわ。これはなんて名前なの?」


「スマホです」


「ふーん。ああ、なるほど。これを作る為の専用の機械や施設が必要な訳ね。これは産まれないわ」


「持っただけでそこまで分かるんですか」


「中に詰まっている機械は素手では作れないって事くらいはね。使い方までは分からないわ。分かっても使えないみたいだし、もう良いわ。ありがとう」


スマホを穂波恵吾に返した女神は、ソファーの肘掛けに右腕を置いた。

そうして落ち着いてから穂波恵吾に「椅子に戻って」と言った。


「話を戻すわね。この戦いは今日で四日目。勇者も貴方で四人目。本来なら貴方も他の勇者と一緒に戦って貰いたいんだけど、貴方の能力はちょっと特殊なの」


「さすが俺。主役らしく特別な力を持っているって訳だな」


顎を擦っている穂波恵吾は、妙に癪に触る笑顔になった。

女神はそんな彼の鼻っ柱を折る。


「主役は私よ。負けたら脇役になるけどね。で、特殊な貴方には別働隊になって貰うわ」


「俺は何をすれば良い?」


「お?やる気ね。不安とかは無いの?」


「無い訳じゃないけど、折角の異世界なんだ。自由に振る舞ってみたい」


「ふぅん。ポジティブね。良い事だわ。貴方にして欲しい事は、装備集めよ」


「装備か。RPGっぽいな。剣とか鎧とか?」


「他の女神にも勇者が居るって言ったわよね。分かり易く『敵』と言い替えるわね。その敵を倒せる防具って、どんな物が有ると思う?」


「そうだなぁ。ゲーム的に言えば光の剣と魔法の鎧かなぁ。でも、相手が人間なら凶器はまずいか。なら、罠とか、スタンガンとかかなぁ」


「へぇ。それはどんな物?あ、いえ、まだ言わなくて結構。下手に喋ると相手方にもその装備が現れるかも知れないから」


「どう言う事?」


「貴君はこの世界に新しい文化を生み出す存在みたいなの。さっき貴方が学校を出現させてしまったから、下界の時間が数百年位進んじゃったのよね」


女神は金色の頭を掻く。

この世界は、後継者育成を失敗した世界神が即席で作った空間。

だから、世界としては不完全だ。

世界の形は板状で、時間の進み方もその時の都合でコロコロ変わる。

下界の人間の生き様も、穂波恵吾が最初に感じた『原始人』と言う言葉がぴったりだろう。

そんな世界だからこそ、産まれたての女神達でも自分の思うがままに国を作る事が出来た。

しかし世界神の寿命が近いので、あんまりのんびりともしていられない。

だから穂波恵吾の様な存在を今のタイミングで呼ばせ、下界の文化レベルを上げさせたとも考えられる。

ゲームをスムーズに行える様に。


「この時間の動きは他の女神に察知されたはず。貴方の動きを探られて対策を練られると、折角の貴方が無駄になっちゃう」


「それは大変だ。良く分かんないけど」


「だから、貴方はこっそりと装備を集めて頂戴。国境を守っている勇者や隣国を攻めて敵拠点への道を作っている勇者に会って、彼等が欲している装備を」


「ふむふむ。面白そうだ」


「私の名前はストーンマテリアル。私の国は石を使った技術が発達しているの。『敵』もそのつもりで対策しているだろうから、その裏をかく装備が良いわね」


女神は遺跡の石床を蹴る。

素足なのでペチンと言う軽い音がリビングに鳴り響く。


「まずは十年くらいの探索で良いかな。貴方が居れば時代が急速に進み、貴方の世界に匹敵するレベルの文化も産まれるでしょう」


「じゅ、十年?そんなに経ったら、元の世界に帰ったら浦島太郎状態になるんだけど。もしかして、もう帰れないとか?」


「ああ、人間の寿命からしたら驚くわね。大丈夫。ここに居る貴方は魂のコピーなの。貴方は本物じゃない。本体はちゃんと元の世界に居るわ」


「あ、そうなの?死んで転生とかじゃないの?」


「ここに数千年居たとしても、元の世界では一瞬よ。ちょっとボーッとしてたら夢を見たって感覚」


「なら良いや。じゃ、十年くらい冒険してみようかな」


能天気にニヤ付いている穂波恵吾を見た女神は、半目の呆れ顔になった。


「ちょっと軽薄なのが気になるけど、深刻に考え過ぎて腰が重くなるのよりは良いか。――誰か。下界への道案内をお願い」


女神が左手の指を鳴らすと、一人のメイドがリビング入り口に控えた。

この時代でも入り口を塞ぐドアは無い。


「早速装備探しに行って貰うんだけど、下界には戦闘訓練用の魔物が居るのよね。そう言うの、貴方は大丈夫な人?」


「魔物?エンカウントしたら無条件でバトルになっちゃうんですか?」


「勇者を育成する為のシステムから自動で産み出される物だから、かなり凶悪よ。そう言う存在と戦える様な技能を持ってるのかって訊いてるんだけど、どう?」


「無い、と思います。異世界に来て真の力に目覚めた!ってのが有ればなんとかなるかも知れないけど」


「貴方の潜在能力はバトル向けじゃないわねぇ」


「じゃ無理ですね。普通の男子高校生だし」


「ステータスオールゼロだったから、やっぱりそんな物か。じゃ、下界の人間と協力してダンジョン攻略とかして頂戴」


女神は溜息交じりに左手を振るう。

すると円卓の上にとさかが青いニワトリが現れた。


「それは金の卵を産む神器よ。それにエサをあげて卵を産ませればお金には困らないはず。人間はお金で動く物だから、それを利用すれば楽でしょう」


「ほほー。凄いな。子供の頃にこんなアイテムが出て来る話を読んだ事が有るな。アレは――そう、ジャックと豆の木だ」


「へぇ。私の発想は今の世界神から借りている物だから、その関係で似た話が有るのかな」


「俺の世界も、その死に掛けの世界神が作ったんですか?」


「世界神が作った世界からしか勇者は呼べないからね。それはともかく、コレに名前を付けてあげて。それでこの子は貴方の物よ」


「えっと、なら、ジャックで」


「うん。じゃ、良さそうな装備が見付かったら私の名前を呼んで。魔法で回収するから。貴方の働きが良ければ、貴方にも良い事が有るから頑張って」


「へぇ、どんな?」


「コピーの筋力が増えれば、本体の筋力の伸び代も増える。実際に増える訳じゃない。ここでの十年が隠された才能となって現れるだけ」


「ちょっと良く分からないな。結局増えないんですか?」


「言い方を変えると、十年分の努力が短期間の努力で習得出来る、って感じかな。運で例えた方が分かり易いかな、君の世界の大金は、そうね……」


女神は目を瞑って考え始めた。

頭の外にまで思考が広がっている。

目と耳だけになっている少女達が潜んでいる空間にまで近付いて来たので、白い少年の魔力が少女達を引っ張ってリビングの端まで逃げて行く。


「コピーで運を磨けば本体の運も良くなり、宝くじで高額当選しやすくなるとか。どう?コレはお得でしょ?」


「マジで?頑張ります!」


鼻息荒く拳を握った穂波恵吾は、女神に神々しい笑みを向けられて頬を染めた。

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