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「私の名前はストーンマテリアル。貴方の名前は?」
「俺は穂波恵吾です」
「穂波恵吾。さっき学校って言ってたけど、それは何?」
「学校も無いの?」
「いちいち確認し合っていたら時間が掛かって仕方ないから、まずは私の質問に応えて頂戴」
「それもそうだな。分かった。学校って言うのは、大勢の子供が集まって勉強する施設です」
今度は学校の仕組みを説明する若者。
まず、六、七歳の春から小学校に入り、六年修学する。
次は中学に三年通い、そこで義務教育が終わる。
「義務教育って?通う義務が有るの?」
「俺の国はそうですね。税金やらの援助でやってる制度だから、貧しい国とかには義務が無いらしいですけど」
「ふむふむ。国によって違うと。続けて?」
更に学びたければ、受験を受けて高校に三年通える。
もっともっと学びたければ、また受験を受けて大学に行き、四年学ぶ。
「他にも専門学校とか、大学の上の大学院ってのも有るけど、そこんところは良く知らないです」
「さっき、貴方は学校に居たって言ってたわよね。どの階級なの?」
「俺は高校生です。今着ているのは高校の制服で、学生の証みたいな物です」
「証か。学生は全員がそれを着ている訳ね。で、貴方は学びたいから受験を受けて高校に行ったと」
「学びたいって言うか、普通は高校の卒業まで行くのが当たり前って言うか」
「どうして?義務じゃないんでしょ?」
「そうだけど、学歴とか色々有って……」
女神は学校の仕組みについて訊き続ける。
聞いている限りでは、セレバーナが通っていた神学校も異世界の学校と同じ仕組みで進級している。
良い学校を良い成績で卒業すると良い就職が出来るところも同じ。
違うところと言えば、エルヴィナーサ国には義務教育が無いと言う部分くらいか。
地方地方で貧富の差が激しいので、国が通学を義務化したらとんでもない事になる。
「なるほどなるほど。優秀なら飛び級出来る国も有る、と。――やっぱり学校の原型が産まれたわ。世界全体の文化レベルがちょっと上がった」
再び文字を浮かび上がらせた女神は満足気に笑む。
それから緑の瞳で若者を見詰める。
「じゃ、最後の質問。貴方が生まれたのはどんな国?」
「その前に、この世界ってどんな世界なんですか?この世界のレベルが分からないと話し難いんですよ。学校が無いのなら原始時代って感じなのかな?」
「原始時代、か。貴方から見たらきっとそうでしょうね」
「で、貴女は神様?」
「分かる?」
「さっき下界とか言ってたし、どう見ても原始人じゃないし」
ソファーに深く座った女神は、綺麗で長い足を組む。
「じゃ、貴方の質問に応えるわね。文字は有るけど、まだまだ一般的ではないわね。さっきまでは学校が無かったからね」
「文字が有るのか。そうなると、家も普通にドアと屋根が有るレベルなのかな。服は?」
「木材を加工した住宅が存在するし、貴方が着ている物と同じ物を造れるレベルの裁縫技術も有る。貴方の言う教科書、つまり本はまだ無い」
「となると、原始時代と言うより、中世よりちょっと前、って感じかな」
「そのはずだったんだけど――」
女神はセクシーに脚を組み替える。
「ちょっと予定外のイレギャラーが起こって下界の様子が変わったの。それの原因を探りたいから貴方の話が訊きたいって訳。貴方の国の事を教えてくれる?」
「分かった」
頷いた穂波恵吾は質問の答えを考える。
「俺が産まれたのは、日本って言う平和な国ですよ。まぁ、他の国に比べたら、ですが」
「それはどこにあるの?広いの?形は?どんな文化が有るの?」
助け船を出す様に畳み掛けて訊く女神。
「世界地図で見たら、凄く小さな島国ですよ。どこにあるのと言われたら、大陸の東の方、って感じかなぁ。極東って言うし」
「極東の島国ね。それっ」
女神はまた左手を振る。
今度は長方形の紙が中空に現れた。
その紙を円卓に広げた女神は、綺麗な右手で若者を手招きする。
「これはこの世界の地図よ」
「これが地図?まんまるですね。あれ?日本語?」
穂波恵吾は円卓に手を突き、紙を覗き込む。
一本の線で円が描かれていて、東西南北と書き込まれていた。
「その方が分かり易いでしょ?で、貴方の国はどこ?」
「位置的にはここですね」
若者は円の右端の一センチ外を人差し指で突く。
「形は?」
「形?えっと、細長い本州が逆くの字型に曲がっていて、頭に北海道って言う大きな島が有って、下の方にも大きな島が有って……」
「ふむふむ。言葉だと訳分かんないけど、貴方が頭の中で想像しているから形にはなってるわね」
穂波恵吾が突いていた部分に日本の絵が現れていた。
「あ、そうそう。こんな感じ。凄いですね。これ、魔法?」
「無自覚か。ちょっと待ってて。今確認するから。――ジャッジコール。世界設定」
蝶の羽で浮かぶ幼児が再び現れる。
「求む、これの設定の説明」
女神は地図に出現した日本列島を指差す。
「世界の果ての外に有る島国で、今回の戦いには無関係の存在です」
「なぜ戦いに無関係の物が有るの?世界の果ての外が有っても良いの?」
しばしの無言。
「分かりかねます。世界の形については審判の管轄外です」
「これ、さっきのオールゼロの潜在能力が作ったの。たった今。それについての問題点は?」
「ありません。繰り返しになりますが、世界の形については審判の管轄外です」
「確認するわね。オールゼロの特異性を探る為に、私が戦いに無関係な国を作らせた。それが私の評価に影響する可能性は何%?」
「現状では0%です。ただし、他の女神の許にオールゼロが出現し、戦いのルールに改変が起こった場合はその限りではありません」
「ルールの改変、か。改変確率は?」
「オールゼロによるイレギュラーの確率を測定する事は不可能です。よって、その質問には答えられません」
「では、要望。今ここに居るオールゼロ、本名穂波恵吾を使い続けて不具合が起こった場合、私にペナルティが課せられる前に警告して」
「受理します。ジャッジもイレギュラーと知りながら放置しますので、この問題はジャッジによる監視の範疇であると判断します」
「ありがとう。以上」
幼児が消えてから、改めて若者に顔を向ける女神。
「それじゃ、穂波恵吾。貴方がここに呼ばれた理由と、私が、私達が何をしているのかを説明するわね」




