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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
209/333

4

「どうぞ、お茶です」


円卓の上座に着いているギルド長と、その斜め後ろで控えている秘書にイヤナがお茶を出した。

ペルルドールでさえ緊張を強いられる相手なのに、何の気後れも無い笑顔を向けられるイヤナは凄いなと思うセレバーナ。


「ありがとう」


「ありがとうございます」


客の二人がお茶を啜っている間に、少女達は朝食を急いで平らげる。

椅子をギルド長に譲っているシャーフーチは立ちっ放し。

椅子が足りないので、秘書も一緒に立ってカップを持っている。


「ごちそうさま。では、急いでヤギのミルクを貰って来ます」


立ち上がって一礼したサコは、転移魔法で下の村に行く為にリビングを出て行った。

魔法に集中する為の防音部屋をセレバーナが遺跡の奥に作っており、そこなら転移魔法を失敗する事は滅多にない。

残った三人の少女は、手際良く朝食の後片付けを行う。


「しかし、思ったより早く復活しましたね。まだ一年経っていないのに」


全身真っ白な少年は、円卓の上で寝息を立てている白いドラゴンを見る。

丁度良い布が無かったので、遺跡に来てから一度も着た事の無いペルルドールの赤いドレスを産着にしている。


「確かにあの子達の成長は予想より早いですが、まだ修行は終わっていないと思うんですけどねぇ。どうして復活したんでしょうねぇ」


首を傾げるシャーフーチ。

そんな会話を横目で見ながらリビングを行き交う少女達。

食器や鍋を洗うには地下の井戸まで行かなければならず、綺麗になった食器はキッチンに仕舞わなければならないから。


「ですが、こうして復活してしまった以上、予定通り事を進めねばなりません。理解していますよね?シャーフーチ」


「勿論。彼女の覚悟を無駄にしたら何と言って罵倒されるか」


肩を竦めるシャーフーチに笑みを向けるギルド長。

そうこうしていると少女達の家事が終わった。


「準備しなければならない事が有りますので、サコが戻って来るまで自由にしていてください。すぐに戻ると思いますから、そのつもりで」


「はい」


師の言葉に頷いた少女達は、揃ってリビングを後にした。

イヤナは洗濯の下準備の為に地下に降りた。

ペルルドールは朝食の材料から出た生ゴミを畑の肥料にする為に、キッチンに行ってそれを砕いた。

セレバーナは自室に行って魔法ギルドに関する資料の再チェックをした。

そうして三十分ほど時間を潰すと、水瓶をミルクで満たしたサコが戻って来た。

その物音に反応して自主的にリビングに再集結する少女達。

しかしリビングに妙な匂いが立ち込めている事に気付いたサコが入り口で立ち止まった。

身体の大きい茶髪少女が入り口を塞いでいるので、セレバーナとイヤナがリビングに入れずに渋滞を起こす。


「お疲れさまでした、サコ。ドラゴンが目覚めたら与える事にしましょう。それは邪魔にならない所に置いてください。――さ、席に着いて。ペルルドールも」


シャーフーチに言われるまま自分の席に座った少女達は、これから何が始まるのだろうかと思いながら変な匂いに顔を顰めた。

全員の動きが落ち着くと、金髪の秘書が円卓の中心を指し示した。


「この香りは『幻夢香(げんむこう)』と言い、幻覚を見易くする香木を焚いた物です。効果を倍増させる魔法処理がされているので香りはきついですが、害はありません」


円卓の中心には小さなランプの様な形をした物が置かれてあった。

普通なら透明なガラスで作られているはずの胴体は真鍮で覆われていて、頭に無数の穴が開いている。

アレの中で香木を燃やしている様だ。


「違えられない盟約に従い、君達がここに集められた目的を話しましょう。ただ、それはとても長い物語なので言葉で説明するのは骨が折れます。そこで――」


白い少年は懐から杖を取り出した。

それはセレバーナの身長程も有りそうな長さだった。

魔法で折り畳んだのか、それとも異空間に押し込んだのか、どちらにせよ普通ではあり得ない方法で服の中に入れていたのだろう。


「百聞は一見に如かずと言う事で、貴女達には夢を見て貰います。シャーフーチがなぜ魔王と呼ばれる様になったのか、その真実を」


少女達の視線が師匠に集まる。

その反応を予測していたかの様に、シャーフーチは無言のままで頷く。


「彼が魔王になった理由と、我々がここに集められた理由に繋がりが有ると?」


そう訊くセレバーナに笑顔を向けるギルド長。


「ええ。不思議に思いませんでしたか?こんなにもやる気の無い男が、なぜ魔王なのかと。そして、なぜ無差別に弟子を集めたのかと」


ペルルドールがそれに応える。


「思いました。ですけれども、わたくし達にも目的が有りましたので、細かい事は気にしていられませんでした。一応は師らしい方でしたし」


サコとイヤナも同意見だと言う視線をギルド長に向ける。


「我々があえて触れなかったその謎が、今、解き明かされると?」


セレバーナが無表情を白い少年に向けると、彼は杖の頭を円卓中央のランプに向けた。


「はい。彼はこの時の為に貴女達を一人前に育てたのです。なので、ここまで辿り着けた貴女達に拒否は許されません」


「拒否したら?」


ツインテール少女に黒い瞳を向けたギルド長は、シャーフーチが抱いている白いドラゴンに視線を移して肩を竦めた。


「さぁ?何が起こるか分かりません。最悪、ここでの生活が無かった事になるかも知れません」


「無かった事になる……?意味が分かりません。危険な事をなさろうとされているのですか?」


「危険はもう乗り越えたでしょう?それはもう無いと思いますよ」


笑顔で言うギルド長。

凄く怪しいが、この弟子入りは全てが計算尽くらしい。

少女達は視線で会話した後、セレバーナが代表して口を開く。


「分かりました。それも修行の内なのでしたら、その夢、見せて頂きましょう」


「ありがとう。――では、目を瞑ってください。リラックスして、香りに身を任せてください」

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