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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第七章
207/333

2

「はいはい、おはようございます。朝っぱらから元気ですねぇ、貴女達は。良い事ですけど」


灰色のローブを着た男性がリビングに現れた。

彼が少女達の師匠で、封印されている真っ最中の魔王である。

どう言う訳か弟子を募集して、それに応じた四人の少女を育てている。

彼のお陰で少女達は成長し、サコとセレバーナは魔法の杖を、イヤナとペルルドールは使い魔を得た。


「おはようございます。――あ、そうだ。あの、お師匠様。今朝早くに二階で物音がしたんですが、何か有りましたか?」


スープ鍋を持ってリビングに来たイヤナが訊く。


「物音、ですか?」


「はい。椅子に躓いて、勢い良く倒した感じの。マギに訊いたらお師匠様は寝てらっしゃるって言うから、どうしたのかなって」


上座に着いた黒髪ロンゲの男は赤髪少女を見て首を傾げる。

そうしている間にも、サコが円卓に皿を並べて行く。


「寝ている間の物音ですか。気になりますね。朝食を終えたら調べてみます」


「はい」


円卓に並んだスープ皿に朝食を装いながら頷くイヤナ。

間も無く朝食の準備が完了する。


「いただきます」


王族のペルルドールと神学校出身のセレバーナが恵みを感謝する祈りを女神に捧げ、それが済んでから全員揃って温かいスープを食べ始める。


「あ、シャーフーチ。そろそろ冬の支度を始めたいと思うんですが、この辺りはどれくらい雪が積もりますか?」


格闘家らしく、ハキハキとした発音で訊くサコ。

男の様な体格の彼女だが、声が妙に可愛い。


「雪ですか?うーん、分かりませんねぇ。寒い時に窓を開けたりしませんから」


「何と言うぐうたら。よくそれで五百年も生きて来られましたわね」


ペルルドールが冷静に師を非難する。


「封印されていたんだから仕方が無いじゃないですか」


シャーフーチは子供みたいに唇を尖らせて反論する。

その時だった。

ドアをノックする様な音を聞いた全員の動きが止まる。

少女達が修行している封印の丘は、その名の通り魔王を封印しているので一般人は入る事が出来ない。

無理に入ると異次元に飛ばされ、魔王の城に迷い込む。

そんな理由で今まで客が来た事が無いから驚いた訳だが、それよりもおかしい事に気付いた少女達は顔を見合わせた。

訪問者が玄関をノックしたのならリビング脇から音がするはずだ。

しかし、音は上の方からした。

二階の方向から。


「……先程、イヤナが物音がすると言っていたが、それかな?」


セレバーナはスプーンを置きながら考えを巡らせ、神学校の制服の内ポケットに手を入れる。

そこには所有者に癒しの効果を与えるレアアイテムが入っている。

心臓の手術を受けたせいで激しい運動は命に関わる身体になってしまった。

万が一魔王の城から魔物が出て来たら、なりふり構わず逃げなければならないだろう。

魔法による瞬間移動は出来るが、今はまだ数分間の精神集中無しでは飛べない。

だから場合によっては走らなければならないので、そうなったらこれが命綱になる。


「ううん。あんな音じゃなかった。でも、上に何か居るのは間違いなさそう。マギ、何の音か教えて――」


自身の三つ編みに座っている妖精に質問しようとしたら、シャーフーチに制された。


「待ちなさい、イヤナ。二階については訊いてはいけません。何が起こるか分かりませんから」


「え?今朝、お師匠様がどうなさっているかと訊いてしまいましたけど」


「それは運が良かっただけです。以後禁止します。二階は私が見に行って来ます。みなさんはここで待機している様に」


立ち上がったシャーフーチは、早足でリビングを出て行った。


「あんなに動きが早いシャーフーチを見るのは初めてだ。みんな、何が有っても良い様に気を引き締めよう」


サラリと酷い事を言ったセレバーナは、スカートの背の部分に差していた魔法の杖を取り出した。

三十センチほどののし棒の様な形をしていて、魔力を込めると雷光が走る。

それに習い、サコもベルトに挟んでいた緑色の輝きを放つ杖を手に持った。

こちらはシャモジの様な外見をしていて、二十センチほどの長さ。


「マギは戦いには不向きだから、後は頼むね!」


イヤナはリビングの奥に有るキッチンに避難する。

ペルルドールもその後に続く。


「わたくしのアリストも戦えませんわ!」


美少女の金髪には、髪飾りの様なモンキチョウが停まっている。

それが彼女の使い魔だ。

魔法生物とは言え、見た目通りのただの蝶なので、人の力でも簡単に潰せる。

魔物の相手が出来る訳が無い。


「もしもモンスターが湧いて出たら転移魔法で逃げよう。今の内に精神集中を。行き先は下の村で良いだろう。転移出来なかったら走れ」


セレバーナは、先程考えていた避難方法を簡潔に纏めて言葉にした。


「だ、大丈夫かな。二階にモンスターが現れたんなら、こんな遺跡なんか崩れちゃうと思うんだけど」


キッチンから顔を覗かせたイヤナが怯えた声で言う。

ここに来た最初の頃、第二王女であるペルルドールが魔王に攫われたと勘違いした王家に救出クエストを出された事が有る。

そのクエストを受けた勇者一行が封印の丘に攻めて来て、丘に施されていた結界が不安定になった。

結果、一匹の魔物が現れ、危機的状況に陥った。

あの時は本当に怖かったので、それがまた起きるのかと思うと少女達の冷汗は止まらない。


「そうなったら困るが、まずは我々の命を第一に考えよう。遺跡はシャーフーチが守ってくれるはずだ」


言ってから耳を澄ませるセレバーナ。

二階からシャーフーチの声が聞こえて来たからだ。

遠くなので何を言ったのかは分からなかったが、驚いた様な声だった。

サコにも聞こえたらしく、格闘の構えを取っている。


「気を付けてくださいね、二人共!」


キッチンに居るイヤナの後ろに隠れているペルルドールが力強く応援する。

頭の上で一匹の蝶が舞っているので微妙に間抜けだ。

彼女は件の魔物騒ぎで死の一歩手前まで行ったので、人一倍怯えている。


「来る!」


何かが接近して来る気配を感じたサコが身構える。

超反応で頭を引っ込めるイヤナとペルルドール。

次の瞬間、リビングに白い物体が飛び込んで来た。


「……鳥?」


構えを解いたサコは、石の天井スレスレを飛んでいる白い物を見上げて呟く。

大きさは土鳩くらい。

昼間は開けっ放しにしてる窓枠に小鳥が留まる事は良く有るので、あれくらいの鳥が遺跡内に迷い込んでもおかしくない。


「いや、違うな」


金色の瞳で飛行物体を見詰めているセレバーナは、腕を組んで冷静に言った。


「あれはドラゴンの赤ちゃんだ」

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