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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
205/333

33

生地屋で目的の品を購入した少女達が村の広場に戻って来た。

そこでは豊作を祝う即席巫女の演舞が行われていた。

空色のゆったりとしたドレスを翻して鈴付きの拍子木を鳴らしている。

それを見学していると、間も無く世界が夜に包まれた。

出店もほとんどが片付けられ、出店を解体した時に出たゴミを燃やした焚き火が広場のあちこちで行われている。

だから大分明るい。

残っている出店で野菜たっぷりシチューを皺くちゃの無料券で分けて貰ったセレバーナは、沢山の松明に照らされている櫓を見ながらそれを食べた。

他の三人も売れ残りの揚げパンを安価で譲って貰い、立ったまま食事をして祭を眺めている。

しばらくそうしていると、どこからか小太鼓を叩く音が聞こえて来た。

すると大勢の村人が広場に集まって来た。

最果ての村の住人全員が居るんじゃないかと思うほどのギュウギュウ詰めになる。


「お。お待ちかねのメインイベントが始まるのかな?」


白いローブを着た中年の女性が櫓に向かって跪いている様子に気付いたイヤナが弾んだ声で言う。

女性は不思議な調子の歌を歌い、何度も頭を下げている。


「今年一年の恵みを女神様に感謝します。やがて来る冬も嵐無く過ごせます様、お願いいたします」


再び不思議な歌。

さっきの歌と調子は同じだが、歌詞が違う。

歌が終わると小太鼓の数が増えた。

直後、村の若い男によって櫓に火が点けられた。

干し草のミノを着ているのであっと言う間に全身に炎が行き渡り、広場が昼間の様に明るくなる。


「あー。私達が編んだのが燃えちゃうー」


イヤナが嬉しそうに言う。

火を見て興奮している様だ。


「これにはどう言う意味が有りますの?」


金髪に黄色の蝶を留めているペルルドールが訊くが、セレバーナは無表情でシチューを啜り続ける。

ここで応えるからみんなが自分を頼るのだ。

彼女達にはもう自分の魔法具が有るのだから、自分で考え、自分で調べるのが正解なのだ。


「まぁ、難しい事は考えなくても良いじゃない。お祭なんだから、みんなと一緒に楽しめればそれで良いんだよ」


赤髪の三つ編みに座っている妖精を全く動かさずに笑むイヤナ。

無反応だったセレバーナがそれに頷く。


「……そうだな。それで良いんだ」


満足感と共にシチューを完食するセレバーナ。

その皿を屋台に返し、燃え盛る櫓を再び見上げたその時、村人達が歓声を上げた。

仲間達も口を開けて櫓を見上げている。


「ふむ。これがシャーフーチのイタズラか。中々粋な事をするな」


無表情のまま腕を組んだセレバーナは、金色の瞳で夜空を彩る炎を眺めた。

木を組んでロープを巻いただけなのに、櫓を包んでいる炎が花火を仕込んでいるかの様に弾けている。

至近距離で見上げている村人達や、女神に捧げる歌を歌っている白ローブの女性に火の子が降り掛っていて危なそうだが、彼等は全く気にしていない。

熱くないのかと良く見てみたら、火の子の方が人々を避けていた。


「おお!女神様が祝福しておられる!ありがたや、ありがたや!」


腰の曲がった老婆が両手を空に向かって付き上げた。

直後、村人達の拍手喝采が巻き起こる。

魔王の弟子達も、誰の仕業かを承知しながらも、女神の祝福に感謝の拍手を送った。

第六章・完

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