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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
204/333

32

ペルルドールの月織玉は使い魔になった。

見た目、色合い、大きさ、どれを取ってもモンキチョウそのままだった。

しかしペルルドールの魔力を受けると金色に光る。

過去に精霊魔法を使った時も金色に光っていたので、それが彼女の魔力の色なのかも知れない。

セレバーナの色は、恐らく雷光。

サコは癒しの緑。

イヤナは何だろう。

緑の手が潜在能力との事だが、サコと同系統の魔力を持っているとは思えない。

どんなに考えても、彼女やトンボ羽根の妖精に特定の色のイメージは無い。

やはり彼女は謎だ。


「で、それは何が出来るんだ?」


無事に試練を終えた満足感でホクホク顔になっているペルルドールがリビングに来たので、沸かし直したお茶を出しながら訊くセレバーナ。


「この蝶がわたくしの目と耳の代わりとなり、遠くの様子を調べられる。と言えば伝わるでしょうか」


金髪美少女が身振り手振りで説明する。

使い魔が感じた事をテレパシーでやりとりする様な感覚ではなく、ペルルドールの目と耳を実際に飛ばす感じらしい。

その状態で主人の意のままに操れるそうだ。


「ほう、面白いな。では、それを飛ばせば、ここに居ながらにして村に居るイヤナとサコの様子を直接見れるのか」


「そうなりますね。まだ産まれたてなので詳しくは調べられていませんから、早速飛ばしてみましょう。遠く離れた時はどんな感じに見えるかを試したいですし」


「上空から見下ろせられれば、簡単に彼女達を見付けられる訳だな。視力と聴力次第では実に便利な存在になる」


「どのくらい便利なんでしょうね。わたくしも楽しみですわ。――それ、村に飛んでお行きなさい」


ペルルドールはリビングの窓から蝶を放した。

飛び方はまるっきり蝶だが、ペルルドールの言う事を聞いて真っ直ぐ封印の丘を降りて行く。


「使い魔とは言え、外見はただの蝶ですので、そんなに早くは飛べません。わたくし達はゆっくりと村に向かいましょう」


「産まれ立てだから無理もさせられないしな」


「ええ」


自分達が使ったカップを洗ったセレバーナとペルルドールは一緒に丘を下った。


「見付けましたわ。村の広場に居ます。二人で何かを見学しています。村人達が何かを組み立てている様ですが……これは何でしょうか」


片目を瞑ったペルルドールが言う。

片耳も手で塞いでいるので、本体の感覚を遮断すると使い魔の感覚が知覚出来る様だ。


「説明してくれ、と言おうと思ったが、行けば分かるか」


「そうですわね」


二人の少女は、村と丘の境目を表す農道に入った。

ここまで来れば、もう村の中だ。


「凄い数の出店だな」


ペルルドールとセレバーナは大通りに入り、村の中心に有る広場に向かう。

その道の両側に急造の屋台が並んでいた。

ほとんどが食べ物を売っていて、焼き物の煙や蒸し物の湯気が上がっている。

行き交う村人達は屋台で買った物を食べ歩きしている。


「午前中はもっと人が多かったんですのよ。お昼を過ぎたので、みなさん満腹になったのでしょう」


広場に着くと、本当にイヤナとサコが居た。

村の男衆が組んでいる木の(やぐら)を見上げながら雑談している。


「これは何を作っているんだ?」


訊きながら近付くと、イヤナとサコが振り向いた。


「あ、セレバーナ。ペルルドールも一緒に来たんだね。だから戻って来るのが遅かったのかな?」


「違うんですのよ、イヤナ。実は、わたくしの月織玉が――」


ペルルドールが右手を上げると、その指にモンキチョウが停まった。


「この使い魔になりましたの。だから遅れてしまいましたの」


「わぁ!ペルルドールも使い魔になったんだね!可愛いじゃない!」


三つ編みに妖精を座らせているイヤナが喜ぶと、サコも笑顔になった。


「おめでとう、ペルルドール!私も頑張って杖を完成させないとね」


「おお、そうだ。私の杖はこれだ。見てくれ」


セレバーナはスカートの背の部分に挟んでいた三十センチくらいの木の棒を取り出し、仲間達に見せた。

魔力を込めると火花の様な電気が流れる。


「これ、雷?」


イヤナが不思議そうに杖を指差す。

自分には害が無いが、他人に対してはどうなるか分からないので、セレバーナはすぐに杖をスカートの背に戻す。


「これは電気だ。雷も電気だが、あそこまで大きな電気はまだ作れない。サコの願いは治癒魔法だろう?君の杖はきっと緑色のオーラを発するんだろうな」


「へぇ、そんな事になるんだ。頑張ってローブを作らなきゃ」


「ローブと言えば。私も小さな巾着袋を作りたいと思っているんだ。布が余ったら分けて貰いたいのだが。勿論、その分のお金は払う」


「一発でクリア出来るとは思ってないから、かなりの量の布を無駄にすると思う。だからタダで良いよ。どうせ捨てるし」


「そうは行かない。金銭だけは親兄弟でもしっかりしないと禍根になる。面倒でもしっかりと計算しよう。――で、サコはどんなローブを作るつもりなんだ?」


四人で輪になって裁縫について話し合っていると、初老のおじさんが話し掛けて来た。


「こんにちは。君達は魔王様のお弟子さんだよね?」


「こんにちは。ええ、そうですが」


セレバーナが応えると、おじさんは馴れ馴れしく頼み事をして来た。


「実は君達にカカシ作りの手伝いをして貰いたいんだが、良いだろうか」


向こうは少女達の事を知っているだろうが、少女達の方は彼を知らない。

それを承知の上で旧知の友人の様な態度を取るのは田舎の村人特有の物だろう。

田舎の村出身のイヤナも最初からそんな感じだったし。


「カカシ、ですか?」


サコが訊き返すと、おじさんは櫓を指差した。


「ほら、アレだよ。アレは今年の恵みに感謝する、収穫祭のメインイベントなんだよ。君達も一応は村の一員だし、参加する権利は有るから」


「アレってカカシだったんですか?大き過ぎませんか?」


イヤナは驚いて櫓を見上げる。

カカシと言えば、簡単な木枠に服と帽子を着せた物だ。

つまり人の背と同じくらいが定石。

しかし広場の櫓は三階建ての家くらいはある。


「良く見て御覧、櫓を作っているのは若い男だろう?」


大勢で櫓を組み立てている男性を改めて見てみる。

小さな子供は居ないが、確かに成人前の少年ばかりだ。


「若い男がカカシを作って、若い女がロープを作るんだよ。最後に燃やすから、そんなにキッチリしてなくても良いんだ。気楽に参加してみないかい?」


「収穫祭のメインイベント、か。楽しそう。やってみましょう。良いよね?みんな」


イヤナが輝く瞳で言う。

こう言う騒ぎが好きなんだろう。


「そうだな。折角のお祭りだ、参加してみようか」


セレバーナが承知したので、サコとペルルドールも頷いた。


「ありがとう。ペルルドール様は春生まれでしたよね?他のお三方はどの季節がお誕生日かな?」


おじさんの質問に応える少女達。

イヤナは秋生まれ。

セレバーナは冬生まれ。

サコは夏生まれ。


「見事に全員バラバラなんだね。じゃ、春生まれは頭、夏生まれは左手、秋生まれは右手、冬生まれは胴体の部分に移動して、そこで指示を貰って」


「はーい」


少女達は櫓に登り、言われた所に移動する。

それぞれの部分に巻き付ける為のロープを作っている村の少女達にやり方を訊く魔王の弟子達。

ロープは対応する季節の植物を乾燥させた物で作るんだそうだ。

それを燃やす事で女神に恵みの感謝を捧げるのが本来の祭の姿で、出店は櫓が完成するまでの間を潰す為のオマケらしい。

そうこうしている内に夕方になり、櫓が完成した。

季節毎の干し草をミノの様にして巻き付けているので、カカシと言うより、草で出来た巨大な雪だるまみたいな外見になった。


「お疲れさまでした。これを燃やすのはお祭りの最後の最後なので、ぜひ見に来てください」


ペルルドールを案内した村の女の子達が緊張しながら深く頭を下げる。


「ありがとう。必ず見に来ます」


王女らしい笑みを残したペルルドールは、完成しても雑な造りのままな櫓から離れる。

そして一足先に離れていた仲間達の許に向かう。


「もうそろそろ生地屋さんに行こうと思うんだ。アドバイスくれないかな」


そう言うサコに頷くイヤナとペルルドール。


「まだ行っていなかったのか。もう夜になるぞ」


数歩離れて屋台の様子を見ていたセレバーナは、ツインテールを揺らして振り向いた。


「うん。最初に買うと荷物になっちゃうから。だから店が閉まりそうな時間に行こうって朝から決めていたんだ」


「なるほど。なら、私も一緒に行こう」


「セレバーナはなんで巾着袋を作りたいの?何を入れるかで布を選ばないといけないんだけど」


裁縫に詳しいイヤナに金色の瞳を向けるセレバーナ。


「これを入れようと思っているのだ」


制服の内ポケットから緑色に光る小石を取り出し、イヤナに見せる。


「今回の試練でまた死に掛けたので、シャーフーチが癒しのアイテムをくれたんだ。私の命を繋ぐ大切な物なので、絶対に落とさない様に巾着が欲しいんだ」


セレバーナは、顔を近付けて来る仲間達に小石を良く見せた。

そして思い付く。


「おお、そうだ。みんなもねだれば何か貰えるかも知れんぞ。私だけ貰うのも不公平だしな。一人前になる第一歩へのお祝いだと言えば嫌な顔はされないだろう」


小石を内ポケットに戻したセレバーナは、背の高い茶髪少女に悪そうな笑みを向ける。


「まぁ、そのおねだりをするにはサコの成功が必須だがな。がんばってくれ」


苦笑いするサコ。


「頑張るけどさ。セレバーナって、私に対しては結構辛辣だよね……」


「そうか?そんなつもりは無いんだがな。気を悪くしたのなら謝ろう。済まなかった」


「あ、そんなつもりじゃないんだ」


素直に頭を下げるセレバーナに驚いたサコが慌てて手を横に振る。


「あんな試練が有った後だからな。君達に嫌われるのが怖いだけだ。気にするな」


「セレバーナを嫌う訳ないじゃない。ねぇみんな?」


イヤナは、薄く微笑みながらセレバーナを後ろから抱き締めた。

まるで不安な胸の内を承知しているかの様に、優しく。


「当たり前だよ」


「勿論ですわ」


頷くサコとペルルドール。


「そうか。なら安心だな。では、生地屋に行くか」


「おや?セレバーナが頬を染めているのを始めて見ましたわ。可愛い」


目を細めるペルルドールに向け、のし棒みたいな形の杖を振るセレバーナ。

すると風が起き、金色の前髪が舞い上がった。


「うわっぷ!何をなさいますの!」


「君みたいな美貌の王女様に可愛いと言われるとバカにされていると感じる。やめてくれ」


「照れちゃって」


まだ抱き付いているイヤナが笑う。


「君もいつまで纏わり付いているんだ、歩き難いじゃないか。全く!」


イヤナを振り払い、早足で先を行くセレバーナ。

しかし大きく離れる事はせず、チラチラと振り返って仲間達の様子を気にしている。

その様子を見たサコは、キュートな小動物を前にした時の様な優しい目付きになる。


「照れてる照れてる。でも、あんまりしつこいとセレバーナでも本気で怒るだろうから、これくらいにしておこうよ」


「あんな事が有った後だから、つい。――待ってよ、セレバーナぁー」


イヤナが駆け出す。

ペルルドールとサコもそれに続く。

そして少女達は、四人並んで大通りを進んで行った。

閉店間際の生地屋に向かって。

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