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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
202/333

30

「朝御飯が終わったらすぐに収穫祭に行くけど、セレバーナも一緒に行く?もう私達と一緒に居ても大丈夫なんでしょ?」


調理の仕上げに入っていたイヤナは、手を止めずに訊く。


「行きたいが、体調はまだ万全じゃないし、杖の箱も開けていない。この場は辞退して置こう」


「おや。まだ開けていないんですか?勿体付けますね」


いつの間にか上座に座っていたシャーフーチが円卓の上で指を組む。


「今日が一週間目ですから、念の為。今朝の時点でも腐臭はしていないので、満を持して開けたいと思います」


「そうですか。まぁ、貴女のやりたい様にやれば良いでしょう。杖の完成は一人前に向けての第一歩ですから、そこからがスタートである事を忘れずに」


「はい」


そして朝食が終わり、下の村に向かう準備を始める三人の少女達。

ほとんどが村人とは言え祭は人出が多くなるので、それなりの防犯対策が必要になる。

関係無いシャーフーチは早々に自室へと引っ込んでいる。


「体調が良くなったら、――具体的には午後か夕方には下の村に行こうと思う。着いたらテレパシーを送るので、それまでは君達のペースで楽しんでくれ」


「うん」


イヤナが頷くと、頭の上に乗っていた妖精がバランスを崩して落ちた。

それを両手の平で受け止めるイヤナ。


「私は布と裁縫道具を買わなきゃいけないから気が重いよ」


溜息を吐くサコの腰に手を当てるペルルドール。


「許されるのならわたくしとイヤナもアドバイスしますから、頑張って」


「ありがとう。アドバイス程度なら禁止されていないと思うから、お願いするよ」


「それと、セレバーナ。わたくし、魔力を込める為に一旦ここに帰って来ます。お昼に何か食べ物を買って来ましょうか?」


「そうだな。そうして貰うと助かる」


準備を終えた仲間達は下の村に出掛けて行く。

玄関に一人残ってそれを見送ったセレバーナは、視線を石床に落として微笑んだ。

何の裏も無く送り出せるのは良いな。


「さて。いつまでも箱に仕舞って置く訳にも行かないから、開けるか」


自室に戻ったセレバーナは、厳かに木箱の蓋を開けようとした。

しかし蓋が固くて木箱全体を持ち上げてしまった。


「む。意外と隙間が無いな。蓋を閉めたら密封される様に、キッチリと採寸して作ってあるのか。これでは腐っていても臭いが漏れないんじゃないのか?」


焦ったセレバーナは、ポケットからペーパーナイフを取り出した。

それを蓋の境目に刺し、捻って蓋を持ち上げる。

そうしてから両手で蓋を開けると、白い綿に包まれた一本の棒が姿を現した。

千本枝の魔法樹の下で拾った時はただの木の枝だったのに、クッキーの生地を薄く伸ばす時に使うのし棒みたいな姿に変わっている。

長さは三十センチくらい。

直径は二センチくらい。


「無事だったか。ホッとした」


一緒に入れた月織玉が見当たらないが、これで良いのだろうか。

棒を手に取ってみる。


「ふむ……手にしっくり馴染む。薬王餌の石と同じく、活力が手に染み込んで来る様だ。いや、この場合は魔力か」


しかし、月織玉の事が気になる。

枝を木箱に入れた時に説明を受けた気がするが、この一週間のゴタゴタのせいで記憶が曖昧になっている。

シャーフーチに訊いてみるか。

廊下に出て階段の下まで移動したセレバーナは大声を出す。


「いらっしゃいますか、シャーフーチ。完成した杖についてお伺いしたい事が有るのですが」


セレバーナの呼び掛けに応え、月織玉の取扱説明書を持って階段を降りて来るシャーフーチ。


「はいはい、何でしょう?」


「杖が完成した様なのですが、月織玉が消えていました。これで良いんですか?」


「ああ、それは大丈夫です。出された条件によって持ち主の精神が高められ、それを受けて枝と玉が融合する、で良かったかな」


説明書を開き、確認するシャーフーチ。


「うん、合ってます。完成した杖は月織玉が持っていた性質を完全に受け継ぎ、それ以上に高められる様になっています。試してみましょうか」


シャーフーチに促され、二人で地下に降りる。

そしてトイレのドアの上にセレバーナが設置した水力発電の電球を二人で見上げる。


「貴女の月織玉は電気を発していましたよね。井戸に沈めた発電装置を止めて、その杖を使ってみてください。詳しい使い方は貴女にしか分かりません」


「やってみます」


セレバーナは、電球と井戸を繋ぐ電線の中央に有るスイッチをオフにした。

これで電気が切れたので、絶縁テープを剥がしてスイッチを分解する。

フリーになった電球側の二本の電線を杖の両端に巻き付け、準備完了。

顔を上げて電球を見るが、明かりは点いていない。


「玉だった時は放電していたので、繋げるだけで良いと思ったんですが……。杖になったら魔力を込めないといけないのかな」


精神を集中し、杖を発電装置にした電気が二本の電線を流れるイメージを脳裏に浮かべる。

すると電球が激しく光り、一瞬で消えた。


「おっと、電流が強過ぎてフィラメントが焼き切れてしまった。なるほど、分かりました」


「思う通りに使えるのなら杖作りは成功ですが、どうですか?」


「ええ、成功だと思います。電球程度の弱い電流を扱うには更なる修練が必要ですが」


「電流以外の魔法はどうですか?例えば、火とか」


シャーフーチは懐から細いロウソクを取り出す。


「そんな物をなぜ持っているんですか。今は朝ですよ?」


「勿論、魔法で取り出しました。リビングの暖炉の上に有った奴です。後で返しておいてください。さ、火を点けてみてください。杖を使ってですよ」


「はい。ええと、絵本で見る様に杖を振れば良いのでしょうか。それとも、電気の時と同じ様に杖で直接触れないといけないのでしょうか」


杖から電線を外したセレバーナは、のし棒の様なそれを片手で持つ。

魔法の杖っぽくない見た目なので気分が盛り上がらない。

まぁ、機械弄りが本職の自分らしい形状だと思えば良いか。

この形なら機械の動力源としては扱い易いだろうし。


「自分がそうした方が良いと思うやり方で。それはそう言うアイテムです」


「なるほど」


取り敢えず『物語に出て来る魔法使いならこうするだろうな』と言う動作を想い浮かべながら杖を振りかぶるセレバーナ。

火をイメージし、上から下へと振り下す。

するとロウソクに火が点いた。

シャーフーチは満足そうに頷く。


「どうやら問題は無い様ですね。結構。後は自分なりに杖を使う練習をしてください」


ロウソクの火を吹き消したシャーフーチは、それを黒髪の弟子に渡す。


「はい。ありがとうございました」


弟子の礼に頷きを返したシャーフーチは、懐から説明書を取り出す。


「杖に名前を付けたり、マジックアイテムで能力補強をするのも有効だと書いてありますね。愛着を持てば、それだけ調和率が上がります」


「マジックアイテムですか?先日頂いた薬王餌の石とかですか?」


「いえ、そう言う事ではありません。例えば、滑り止めとして持ち手にテープを撒いたりするのですが、それを魔法布にしたり、と言う事です」


「魔法布、ですか。この制服に使われている物ですね」


セレバーナが着ている神学校の制服は魔法が掛かった布で出来ている。

制服は毎日着る物なので、汚れ落としの魔法が籠められているのだ。


「要するに、杖の用途に合わせたマジックアイテムを使えばより便利になる、と言う事ですか」


そう言うセレバーナに視線を向けて「その通りです」と頷くシャーフーチ。


「弱いアイテムなら魔法ギルドで売っているそうです。強い力を持ったアイテムは、運が良ければ人生の途中で手に入るかな?くらいに思っていてください」


「運、ですか」


セレバーナは自分の杖を見詰める。

持ち手にテープか。

これには合わないな。

見た目はただの木の棒なので、天地が重要だとは思えないし。

このメリハリの無いボディにはどんなアイテムが合うだろうか。


「では、私は自室に戻りますね」


説明書を閉じたシャーフーチは、思考を巡らしている弟子を残して階段を登って行った。


「ありがとうございました」


自分に背を向けている師は気付いていないと承知しているが、黒髪の弟子は心を込めて頭を下げた。

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