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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
201/333

29

「――と言う訳だったんだ。本当に済まなかった」


セレバーナは腰を90度曲げて頭を下げた。

警戒顔で謝罪の言葉を聞いていたペルルドールとサコは、事情を知って肩の力を抜いた。


「そう言う事でしたの。おかしいと思いましたわ」


「何かの理由が有るとは思ってたけど、そんな条件だったとは。私も昨日魔法ギルドに行って条件を出されたから、その時にもしかしてって思ったけどさ」


「ほう。サコも杖を作るのか。それは喋っても良い事なのか?」


「全然大丈夫。私の条件は『自分の力で自分の魔法使いローブを作る事』だってさ。期限は一週間。普通の布で良いそうだよ」


それを聞いたペルルドールが金色の眉毛を上げた。


「セレバーナとは随分難易度に差が有りませんか?確かに服一着を作るのは簡単ではありませんが」


「サコにとっては難しいんじゃないかな。だって、ホラ」


イヤナがキッチンから出て来た。

そしてリビングに居る仲間達に向けて一枚の雑巾を掲げる。

一回使ったのか、食用油を吸った部分が変色している。


「これ、サコが破けたシャツで作ったの。昨夜、試しにね。これを見てどう思う?」


汚いので、ペルルドールは抓む様にそれを持つ。

すると、折り畳んであった部分が解けて四倍の大きさになった。


「あら、解けてしまいましたわ。ごめんなさい」


「ううん、それでもちゃんと縫ってあるのよ。ただ、縫い目が雑過ぎて雑巾の形を保てないだけ」


イヤナは苦笑いする。

腕を組んだセレバーナは、広がった雑巾を見詰めながら頷く。


「なるほど。それがサコにとってもっとも必要な事、と言う訳か。私達は手が出せないから頑張ってくれ」


「うん……」


男みたいな体格のサコは情けなく肩を落とす。

その様子を見たペルルドールは、鼻息荒く両手で拳を作った。


「この感じですと、わたくしの月織玉ももうすぐ魔力が満タンになりますわね。頑張りますわ」


「急ぐ事はないぞ、ペルルドール。杖になったら、とんでもなく厳しい条件が出されるからな。魔力と体調は万全にしておいた方が良い」


「そ、そうですわね。では、イヤナみたいに妖精が産まれたらどうなりますの?」


雑巾を返してもらったイヤナは、慣れた手付きでそれを元の形に戻した。

サコが一生懸命繕った物なので、縫い直さずに使い続けるつもりらしい。


「えっとねぇ。月織玉に魔力を込めるのが永遠に続く感じかな。この子は私の魔力で生きているんだって」


イヤナは仲間達に背を向ける。

赤髪の三つ編みにトンボ羽根の妖精が座っていた。

少女達の視線を受けた黒髪妖精は、ポニーテールを揺らして三つ編みの影に隠れた。

一丁前に恥ずかしがっている。


「だから、魔力の供給をサボるとこの子は死んじゃう。私が死ぬ時はこの子も死ぬ。そう言う関係なんだってさ」


「杖は持ち主の能力をサポートするアイテム。使い魔は持ち主自身をサポートするアイテムです」


シャーフーチが、そう言いながらリビングに来た。

四人の少女が師に注目する。


「そして、ペルルドールの月織玉が何になるかはまだ分かりません。完成に影響が無い様に、他人を気にしないでください」


「ですが、残るはわたくしだけですので気になって気になって。杖と使い魔以外の結果も有るんでしょうか」


「それは秘密です。月織玉が完成しなければ説明のしようがありませんしね。急いで完成させようとせず、貴女の願いを丁寧に込めなさい」


「はい」


師らしい事を言われたので、ペルルドールは大人しく頷いた。

それに頷きを返したシャーフーチは、腕を組んでいるツインテール少女に顔を向けた。


「で。セレバーナ。みなさんには許して貰えましたか?」


「そう言えば、まだ許しを貰えていませんでしたね。――サコ。ペルルドール。そして、一番酷い事をしてしまったイヤナ。私を許して貰えるだろうか」


手を下して姿勢を正したセレバーナが訊くと、イヤナが口を開いた。


「その前に。ちょっと良いかな、サコ、ペルルドール」


茶髪少女と金髪美少女の視線を自分に集めた赤髪少女は、妹を叱るお姉さんみたいな表情になった。


「セレバーナに『みんなに嫌われる』って言う試練が出たのは、私達がセレバーナに頼り過ぎていたからなんだって。マギがそう言ってた」


「言われてみればそうですわね。何か有るとすぐにセレバーナの発言を待ってしまいますわね」


ペルルドールが小首を傾げながら納得する。


「私もセレバーナに頼る事が合格への一番の近道だと思ってたから、自然とそうしてた。だから、私達にもそんな試練を出させてしまった責任が有ると思うの」


「確かに」


頷くサコ。


「だから。私達もごめんなさいして、両成敗にするのが良いと思うんだけど、どうかな」


「そうですわね。――ですが」


ペルルドールはジト目で師を睨んだ。


「あの卑猥な本の存在だけは許せませんわ」


「ええ?別に誰かに迷惑を掛ける訳でもないから許してくださいよ。セレバーナの役にも立ちましたし」


とばっちりを受けたシャーフーチに笑顔を向けるイヤナ。


「じゃ、お師匠様も謝りましょう。それでお終いです」


「全くしょうがありませんねぇ」


そして全員が謝り、全員が全員を許した。

これで全てが一件落着となったのだった。


「って、わたくしは卑猥な本を許すつもりはありませんわよ!全て処分するまで――」


「まぁまぁ。さ、ペルルドール。朝食を作るの手伝って」


「え?あの、ちょっと……」


ペルルドールの腕に抱き付いたイヤナは、そのまま二人でキッチンの方に行った。


「イヤナには本当に敵わないな。では、私達も手伝うか。イヤナ。今日の朝御飯は何だ?」


薄く笑んだセレバーナは、サコと一緒にキッチンに向かった。

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