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風邪と発熱のせいでベッドから出られないセレバーナは、食欲が無かったが無理をしてリンゴを食べた。
瑞々しい甘さが乾いた口内に染みる。
しかし、二口食べたところでギブアップ。
残りは後で食べよう。
そうこうしていたら夕日が沈み、部屋が暗闇に包まれた。
思ったより時間を掛けて食べていた様だ。
まぁ、起き上げれないんだから時間なんてどうでも良いか。
「セレバーナ。起きていますか?」
ドアの向こうでシャーフーチの声。
眠る体勢に入っていたセレバーナは、真っ暗な中で目を開けた。
「はい」
「過度のストレスでダウンしたと聞きまして。入っても?」
「どうぞ」
火の付いた燭台を持ったシャーフーチが部屋に入って来て、ベッド脇で立ち止まった。
「すみません、横のままで」
「構いませんよ。私こそ、気付かなくてすみませんでしたね」
ロウソクの明かりに照らされるセレバーナの顔。
発熱のせいで紅潮している。
「そんな大袈裟な物ではありません。ただの風邪です」
「風邪は万病の元ですよ。――話は変わりますが、杖の完成はまだ確認していませんか?」
「はい。起き上がれない物で」
「それなら仕方が有りませんね。しかし完成はしているみたいなので、昨日言っていたアイテムを差し上げましょう」
「いや、それは……」
「まぁまぁ。私自らが魔王城に行き、苦労して探し出して来た一品なんですから、無駄にしないでください。レアアイテムなんですよ?」
シャーフーチは、灰色のローブの袖から緑色に光る小石を取り出した。
勉強机とベットしかない石造りの部屋が淡い緑色に染まる。
「その色は、治癒の魔法ですか?」
「ええ。治癒魔法が込められた『薬王餌の石』です。さ、手を出して」
セレバーナは布団から右手を出す。
そこに石が置かれる。
「へぇ、温かいんですね。癒される感じがします」
「吐き気や違和感が有ったらすぐに身体から離してくださいね。それは体質に合っていないと言う事ですから」
「大丈夫です。とても良い気持ちです」
「それは良かった。――さて。これからサコの月織玉を見て来ます。魔力が満タンになったとの事なので」
「はい」
熱のせいでボンヤリとした顔になっている黒髪少女の頭を撫でるシャーフーチ。
かなり熱い。
「ひとつだけ質問に応えてください、セレバーナ。色々と辛い目に合っている貴女ですが、この世界が嫌いになったりしていませんか?」
「嫌いにはなっていません。楽しい事もあるので。例えば……」
セレバーナは珍しく笑顔になって発言する。
笑えば年相応の少女の顔になる。
「またペルルドールが最後なのか、と言うところで笑わせてくれますから。きっと彼女は内心で焦り、不貞腐れているでしょうね」
「でしょうね」
「しかし、彼女は笑顔で仲間を祝福する。そして自身も絶対にやり遂げる。それが彼女の良いところです」
「そうですね。では、お休みなさい」
「お休みなさい。薬王餌の石、とても助かりました。ありがとうございます」
ロウソクの明かりが遠ざかって行くのを感じながら目を瞑るセレバーナ。
もうすぐ夕飯だろうなぁ、と思いながら眠りに落ちた。




