表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
195/333

23

朝食後、出掛ける準備をしている仲間達を呼び止めるセレバーナ。

緊張を悟られない様にしているため、ついつい斜め下に視線を落としてしまっている。


「すまないが、しばらくの間アルバイトを休む。先方にもそう伝えてくれ」


「どうしたの?具合が悪いの?」


予想通り、イヤナは黒髪少女の体調を心配する。


「そうではない。優先しなければならない事があるだけだ」


「月織玉関係ですか?」


ペルルドールが察した。

まぁ、普通は気付く。


「そうだな」


身体を横に向けて腕を組み、敢えて素っ気なく言う。

態度が悪いと無条件でイラっとするだろうとの考えからだ。

余計な事を言わないで済む利点も有る。


「アルバイトより修行が優先だからね。分かった」


サコが言い、他の二人も同意する。


「じゃ、私達だけでお手伝いに行って来るね。ところで、それってどんな修行なの?」


イヤナが無邪気に瞳を輝かせて聞いて来る。

夏の間中、ずっと玉に魔力を込めて来た。

その単純作業に飽きている頃だから、どんな変化が訪れるかが知りたいんだろう。

気持ちは分かるが、心を鬼にして突き放す。


「君の月織玉に悪影響が出るから、他人の事を聞いてはいけない」


「あ、そうだね。ごめんごめん。じゃ、行って来ます」


物凄くトゲトゲしく言ったのに、イヤナは全く気にせずに笑顔で手を振った。

他の二人は少し首を傾げたが、それ以上の反応はしなかった。

これも予想通りだ。

取り敢えず改めて休みを詫び、玄関まで出て申し訳なさそうに仲間達を見送る。

今はまだ悪意を感じさせるまでの態度を示す時じゃない。


「セレバーナ」


仲間達が丘を下って行き、その背中が見えなくなったところでシャーフーチに名前を呼ばれた。

玄関ドアを閉めたセレバーナは、ツインテールを揺らして振り向く。


「コレ、頼まれていた本です。取り敢えず二冊。表紙が強烈なのは意外と少ないですね」


「ありがとうございます」


薄い本を受け取り、その表紙を見てみる。

上半身裸の女性が困った顔をしている。


「これが俗に言う巨乳と言う奴ですか。人としての常識的なサイズを逸脱していますね。性的誇張を目的としたデフォルメ、ですか」


「冷静に分析しないでください、そんな事。貴女は未成年なんですから、内容は大人し目ですよ?」


「ええ、それは構いません」


二冊目を見てみる。

寝転んだ裸のお姉さんが何だかヌルヌルしている。

頬を染め、恍惚な表情を浮かべている。

意味が分からない。

内容が想像出来ない。


「……これが言葉を失うと言う状態ですね。私がシャーフーチに抱いた気持ちをペルルドールも持ったのなら、きっと嫌われるでしょう」


「それはつまり、今まさに私はセレバーナに嫌われた、と言う事になるのでは……?」


「当たり前です。私だって思春期真っ盛りの少女なんですから。こんな物を好んで読む様な輩は普通に気持ち悪い」


肩を竦めたセレバーナは、薄い本を両手で持った。

本好きなので、こんな本でも大切に扱ってしまう。


「ですが、私の為に適切な本を選び、ワザワザ届けて頂いた事には感謝します。ありがとうございます」


深く頭を下げたセレバーナは、一呼吸置いてから顔を上げる。


「ペルルドールの反応次第では、もう二,三冊程貸して頂くかも知れません。サコにも嫌われそうな物をお願いします」


「どう言った物が良いですか?」


「さて。こう言った物に疎くて分かりませんね。興味を持って調べたとしても人生の役に立つとは思えませんし」


「まぁ、そうでしょうけど。ですが、丸投げするのなら私は協力しませんよ?」


セレバーナは半目になって師匠を見上げる。

面倒臭いが、彼の言う通りだ。


「確かに、丸投げではあまりにも失礼ですね。では考えてみましょうか」


性的な視点で物を考えた事が無いので、とても難しい。

ついつい口がへの字になる。


「うーん。サコに嫌われそうな本と言うと、犯罪物でしょうか。サコは治癒特化を目指しているので、無慈悲で猟奇的な殺人物とかを嫌いそうです」


「そう言った物は持っていませんねぇ。絵と言えど、痛そうな物を見るのは、ちょっと……」


「ああ良かった。そんな物を持ってたら……いえ、何でもありません」


「今、とんでもない事を言おうとしましたね?仕方が無いですけど。まぁ、それっぽい物を探しておきます」


「いえ、やはり結構です。標準的な内容でお願いします。余りやり過ぎると後のフォローが大変そうなので。私の心の平穏も乱されそうですし」


「そうですね。修行はこれで終わりではないので、後の事を考えるのも大切ですね」


「無事に杖が完成したら、今度は真面目な本をお借りしたいですね。――マンガと薄い本しか持っていない、って事は無いですよね?」


セレバーナの金色の瞳に疑いが宿る。


「え?えっと……」


言い淀み、視線を泳がせるシャーフーチ。

図星だった様だ。


「まぁ、面白そうなマンガでも良いですけど。――では、枝を腐らせない様に頑張ります。協力、お願いします」


溜息混じりでそう言ったセレバーナは、姿勢良くツインテールの頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ