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何か良いヒントは無いかと自室の机で本を流し読みしていると日の光が赤くなって来た。
そろそろ仲間達が帰って来るな。
これと言った作戦はまだ無いので緊張する。
気が散ってページが進まない読書を続けていると、遠くで玄関ドアの開閉音がした。
その後、足音と話し声。
石造りの遺跡だから音が良く響く。
帰って来たか。
普段なら夕飯の準備を手伝いにリビングに顔を出すのだが、敢えて無視をする。
フフ、これではまるでシャーフーチだな。
楽で良いとは思うが、退屈だ。
ヒマ潰し用に新しい本が欲しくなるが、アルバイトをサボったのでそれは無理だな。
お、良いアイデアが浮かんだ。
日の光が弱くなって来たので、目が悪くならない様に本を閉じる。
母譲りの金の瞳は何よりも大切なので、視力は絶対に落としたくない。
悪者に誘拐されて両目を潰すか両腕を落とすかの二択を迫られたなら、迷い無く腕を捨てる。
そんな有り得ない状況を想像しながら時間を潰し、夕飯が始まりそうになるまで待ってから部屋を出る。
「シャーフーチー!いらっしゃいますかー?」
可愛らしい声が廊下に響き渡る。
今日はサコが夕飯の出来上がりを知らせているのか。
薄暗くなった廊下を進み、階段前まで行く。
「あ、セレバーナ。帰って来てたんだ。もうすぐご飯だよ」
背の低い黒髪少女に気付いたサコが、いつもの調子でもうすぐ夕飯が始まる旨を伝えて来る。
何も知らずに。
「私はシャーフーチに相談が有るので、ここで少し待つ。先にリビングに戻ってくれ」
「分かった」
いつもの調子で頷いたサコがリビングに戻って行く。
その場に残ったセレバーナは階段脇の石壁に凭れ掛かり、ツインテールの毛先を弄りながら師の登場を待つ。
む、枝毛が有る。
貧乏生活や病気のせいで身形までは手が回らなかったからな。
明日は久しぶりに髪の手入れでもしてみるか。
たっぷりと時間を掛けて。
「おや、セレバーナ。どうしました?」
数分後、シャーフーチが石の階段を降りて来た。
黒髪少女は失礼の無い様に姿勢を正す。
「シャーフーチ。お借りしたい本が有ります。お耳を拝借」
手招きし、サコと同じくらいの身長の師を屈ませる。
その耳元で囁く。
「例の薄い本を何冊か。内容ではなく、表紙がドギツイ奴が好ましいですね。ペルルドールを引かせるくらいの物をお願いします」
「まさか、それをあの子達の前で読む気ですか?」
「はい。リビングで。ペルルドールはアレを徹底的に嫌っていますので、手っ取り早いかなと。一先ずの取っ掛かりです」
「うーん。アレ、18禁なんですけど。貴女、十四歳ですよねぇ」
「魔王が何を気にしているんですか。それに、内容ではなく、彼女に見せ付ける為の表紙が大事なんです。お願いします」
「修行に必要みたいですから仕方ないですけど……。分かりました。貴女は耳年増みたいですから、現実とマンガ的な誇張の区別は出来るでしょう。今すぐ?」
「いえ、明日の朝か昼に受け取ります。今日は普通にしておきます。初日からいきなりでは不自然ですから」
「そうですね。では夕食にしましょう」
「はい」




