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いつもより早いペースで食事が終わり、少女達が無言で役割分担した後片付けも速攻で終わる。
円卓の上座に座っているシャーフーチは、早足で行ったり来たりしている四人の少女達を見て淡く微笑んだ。
「みなさんやる気満々ですねぇ」
「当然ですわ。やっと魔法の修行っぽくなって来たんですもの。楽しみで仕方がありません」
鼻息荒く言う金髪美少女に苦笑するシャーフーチ。
片付けが終わった者から円卓に着いて行く。
「ペルルドールはそうやって急かしますが、セレバーナの体調の事も気に掛けてくださいね」
「そ、それは勿論承知していますが……」
ペルルドールが黒髪少女に申し訳なさそうな青い瞳を向ける。
セレバーナには生まれ付きの心臓疾患が有った。
その病気を治す為に王都の大病院に入院して心臓の手術をした。
あえて肋骨を折り、心臓を空気に晒すほどの大手術だった様で、遺跡に帰って来てからもしばらくは歩くのも辛そうだった。
今は畑に出られるまで体力が回復しているが、まだまだ無茶は出来ない。
「それに、魔法使いギルドに行ったら驚かれましたよ。もうコレを配るのか、と。言外に不正を疑われました」
肩を竦めるシャーフーチ。
「普通の弟子は何度も『試しの二週間』を失敗し、何ヶ月も掛けて失敗した所を学ぶ物なんだそうです。貴女達みたいに全てを一発クリアは有り得ないと」
「言われてみれば、確かにそうですね。教わっていない時間魔法や生命魔法を使えたのは、不正を疑われても仕方が無い」
セレバーナが腕を組む。
神学校で天才と称されていた頃は順調に物事が進むのが当たり前だったので感覚が麻痺していたが、初見の試験は失敗して当然なのだ。
本来は敢えて失敗させ、教わっていない魔法を自力で調べる様に仕向けているんだと思われる。
普通の師匠なら何かとイチャモンを付けて何度かの失格を混ぜるのだろうが、シャーフーチはそれをしなかった。
失格にしてもおかしくない場面が何度も有ったのに。
多分、言い訳を考えるのが面倒臭かったんだろう。
合格者と不合格者で進行度が分かれるのも面倒そうだし。
「魔法の基礎は全て女神の教えに隠されているので、神学校出身の者が居れば不自然ではないとフォローしてくれた人も居ましたけれどね」
「もしや、シャーフーチは魔法ギルドで肩身の狭い思いをしているんですか?」
金色の瞳を丸くするセレバーナに首を横に振るシャーフーチ。
「まぁ、それは仕方ないでしょう。封印されているはずの魔王がホイホイ顔を出していればね」
それに、太陽を象徴する王女と星を象徴する神学生を手元に置くのも、月を象徴する魔法ギルドとしては有り得ないので、そこを妬む者も居る。
なぜ妬むのかを説明しても時間の無駄以上の意味はないので、それを口に出す事は無い。
言っても本人達の心を乱すだけだし。
「さて、本題に入りましょう。――最初に確認をします。無意味な質問ですが、必要な行為らしいので、真面目に答えてくださいね」
シャーフーチは、椅子の下に置いておいた布袋を円卓の上に持って来る。
その行動を眺めながら小首を傾げるペルルドール。
「何ですの?」
「これから始まる修行は、とても退屈な反復行動を長期間に渡って行います。それを乗り切る覚悟は有りますか?」
「今までも十分退屈でしたけれど」
ペルルドールが溜息交じりに言うと、シャーフーチも苦笑しながら肩を竦めた。
「ですから無意味な質問だと言ったでしょう?覚悟を持って意思表示をしてください。これはそう言う儀式です」
「儀式なら真剣に応えなければならないな。――覚悟は出来てます」
小さな唇を引き締めているセレバーナに続き、ペルルドールも心構えを言葉で示す。
「覚悟しますわ」
そして、サコ、イヤナと続いて口を開く。
「覚悟します」
「覚悟しています」
円卓に着いている少女達に頷いて見せたシャーフーチは、おもむろに灰色のローブの下から一冊の本を取り出した。
「結構。――ちょっと失礼して虎の巻を開きますね。これからの修行はやり直しが効きませんので、間違いが無い様に。えーっと……」
本を開いたシャーフーチは、噛み砕く様に文字を読んで行く。
「貴女達は『試しの二週間』をクリアした事により、魔法の属性と強弱関係、その使い方を知りました」
シャーフーチは本から顔を上げ、少女達に視線を向ける。
「知りましたね?」
「あ、はい」
慌てて返事をする少女達。
「これからは、貴女達の得意分野、いわゆる個性を伸ばして貰います。その第一歩として、将来こう言う魔法使いになりたいな、と言う夢を語って貰います」
背筋を伸ばして椅子に座っている少女達は、ページを捲っている師匠の言葉を真剣に聞いている。
「この修行が貴女達の魔法使い人生の方向を決定しますので、良く考える様に」
一旦本を伏せたシャーフーチは、布袋からよっつの箱を取り出した。
一般的な指輪を入れておく小箱と同じサイズ。
「サコ。貴女はどの様な魔法使いを目指しますか?」
いきなり質問されて驚いたサコだったが、自分には明確な目的が有るのでハッキリと応えた。
「治癒が得意な魔法使いになりたいです。そして、身体を壊した父を健康な状態に戻して差し上げたいです」
「なるほど。ええっと……」
本を持ち、ページを捲るシャーフーチ。
「サコには明確な目標が有りますが、そこを目指す事に迷いは有りませんか?」
「有りません。治癒魔法は今後の私に必須な技術でもありますので、父を治す事が出来なかったとしても無駄にはなりません。父にもそう言われました」
「結構」
頷いたシャーフーチは、小箱のひとつをサコの前に置いた。
「まだ箱に意識を向けない様に。どうしても気になるなら畑の事でも考えていなさい。――次はペルルドール。貴女はどの様な魔法使いを目指しますか?」
「わたくしは真実を知れる魔法使いになりたいです」
ページを捲るシャーフーチ。
質問に対するあらゆる応えが書かれている様だ。
「真実は、時に残酷な現実をペルルドールを見せるでしょう。心に傷を負うかも知れません。それでも構いませんか?そこを目指す事に迷いは有りませんか?」
「心の傷など、元より承知の上。迷いも有りません」
「結構」
ペルルドールの前に小箱が置かれる。
「イヤナ。貴女はどの様な魔法使いを目指しますか?」
「私は……」
貧しい村から出たかっただけなので、明確な目的は無い。
敢えて言うのなら……。
「どんな状況でも生き残れる、何でも出来る魔法使いになりたいです」
「七属性を適切に使い分ける事はもっとも難しいでしょう。それでもそこを目指す事に迷いは有りませんか?」
返事をしようと口を開いたイヤナだったが、声が出なかった。
ついつい『自分は何がしたいのだろう?』と考えてしまい、間が出来てしまったのだ。
シャーフーチはその一瞬を見抜いて赤髪少女の瞳を厳しく睨んだ。
「イヤナには迷いが有る様ですね。考え直しなさい」
「……はい」
「セレバーナ。貴女はどの様な魔法使いを目指しますか?」
「私は偉大な祖父を越えたい。その夢を現実の物とする為に、この世界に存在するあらゆる知識が欲しい。それを可能にする手段を持つ魔法使いになりたいです」
「知識は膨大です。時が過ぎる度に情報は増えて行く。それは無限地獄とも言える追及の道。そこを目指す事に迷いは有りませんか?」
「有りません。むしろ、その地獄に落ちる事は私の喜びになります」
セレバーナの前に小箱が置かれる。
「結構。――イヤナ。考えは纏まりましたか?纏まっていませんか?正直に言ってください」
「私が目指す物は、やっぱり何でも出来る魔法使いです。他のみんなみたいに、ひとつの目標が有ってここに来た訳ではありませんから」
イヤナは酸っぱい物を口に含んだ様な顔になって続ける。
「でも、それになる為にはどうしたら良いのか、全く分かりません」
「……そうですか。何でも出来る魔法使い、ですか。望みが高い様で掴みどころの無い、あやふやな夢ですねぇ」
シャーフーチは困りながら本に視線を落とした。
イヤナも困りながら師匠を見詰めた。
他の少女達は、ハラハラしながら成り行きを見守っている。
石造りのリビングは、居心地の悪い静寂に包まれた。




