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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
179/333

7

火曜日。

昨日と同じく、朝食後に石門の前に全員が集まった。


「では、本日の試験を始めます。その試験に必要なので、それぞれ適当な小石を拾ってください。一個で十分です」


少女達は、師に言われるままに周囲に落ちている小石を拾い、門の前に戻って来た。

その様子を棒立ちで眺めていたシャーフーチは、整列している弟子達の視線が自分に集まっている事を確認してから口を開く。


「火曜日は時間魔法が強くなります。なので、みなさんに時を操って貰います」


その言葉に少女達が動揺する。

イヤナだけは理解出来ずに普段通りの笑顔でいる。


「その石を放り投げ、時間魔法を使って地面に落ちるスピードを遅くしてください。可能なら、完全に止めても結構です」


「時間操作のやり方は教わっていませんが」


セレバーナが片手を上げて言うと、シャーフーチは微笑んだ。


「教わっていなくても、時間の概念は分かるでしょう?それを魔力で操作するだけです」


師の言葉を受けた少女達は、各々の掌に乗っている小石を見詰める。

操作するだけと言われても……。


「勿論、世界全体の時間を操作する必要は有りません。出来る訳がないですしね。小石の回りだけです」


戸惑っている少女達に構わず、マイペースに話を続けるシャーフーチ。


「時間を早めても良いのですが、それだと成否の判別が困難なので、なるべく遅くしてください」


「ふむ……これも試練か。では、テレパシーの時と同じ感じでチャレンジしてみるか。イメージを力の源とする方法しか知らないからな」


仲間達へのヒントになればと思いながらそう言ったセレバーナは、目を半開きにして想像する。

それは、面白い本を見付けた時の喜び。

文字を目で追う事が楽しく、ページを捲る一瞬さえも惜しい。

気が付くと数時間もの時が一瞬で過ぎ去っている。

今回必要なのは、それの逆。

つまらない本を読んだ時のイメージ。

文字を目で追う事が辛く、ページを捲る拍子に全てを閉じてしまおうかと言う葛藤。

一分一秒が猛烈に遅い。

その苦痛を想い浮かべながら小石を掌から落とす黒髪少女。


「ふんっ!」


退屈な本に対する恨みと怨念を込めた気合を小石にぶつける。

すると小石の落下スピードが遅くなった。

無風の屋内で遊んだ時のシャボン玉の様に、ゆっくりと落下する小石。


「はい、セレバーナは合格です」


シャーフーチの言葉と同時に小石の落下スピードが通常に戻り、地面に落ちた。


「ふぅ……。ありがとうございました」


「凄いですわ、セレバーナ。一発で出来るなんて。どうやりましたの?」


黒髪少女の礼が終わるのを待ってから訊くペルルドール。


「つまらない事をしている時は時間が過ぎるのが遅いだろう?その感覚を小石にぶつけたのだ」


足元に落ちた小石を拾ったセレバーナは、それを通行の邪魔にならない所に放り捨てる。

うっかり蹴飛ばして畑の中に紛れ込んだら後の邪魔者になるから。


「私は、まず楽しい事からイメージした。悪い想像は難しいから、反動を利用したのだ。そこは好みの部分なので、参考にするかどうかは君達の自由だ」


「なるほど。わたくしもやってみますわ」


ペルルドールは苦手な掃除洗濯を思い浮かべた。

遺跡内やワンピースが綺麗になるのはとても大好きなのだが、それを始めるまでは腰が重い。

『やらなきゃ』『でも面倒臭い』と葛藤している間は時間の進みが遅い気がする。


「私もやってみよう」


サコは寝付けない夜の退屈さを思い浮かべた。

気晴らしに筋トレして疲れればすんなりと眠れるだろうが、汗臭さが布団に移るのが嫌でそれも出来ないもどかしさ。


「うーん。イメージ、ねぇ。難しいなぁ」


イヤナは特に思い付かなかったが、こうして悪い頭を使っている時が一番つまらないと気付き、そのイライラを小石にぶつけた。

三人は一発では成功しなかったが、繰り返し小石を落とす事でなんとか時間魔法を使う事が出来た。


「はい、これで全員が今日の課題をクリアしましたね。では、明日も頑張ってください」


「ありがとうございました」


翌日の水曜日は空気魔法の試験だった。


「魔力を使って風を起こし、この旗を左右両方にはためかせてください。――あれ。ここは堅くて刺せませんね。畑の方なら柔らかいでしょうか」


シャーフーチは、手に持っていた高さ一メートル程度の旗を地面に立てようとした。

しかし門前の土は踏み固められていて棒が刺さらなかった。


「風、ですか。聞く限りでは簡単そうですが、単純な発想のままに試験に挑んでも良いのですか?」


庭の方に移動する師の後に続きながら訊くセレバーナ。

他の少女も庭に向かって歩く。


「それが正解だと思うのなら。正しい魔法を選択出来るかも試験の要素なので、良く考えてから実行してください」


畑に着いたシャーフーチは、畝の端に旗を立てた。

それは魔法ギルド土産の安物で、三角の布に三日月のマークと女神の横顔がシルエットで描かれている。

いわゆるペナントと呼ばれている奴だ。


「ふむ。今回はみんなに初手を譲ろう。私ばかりが考えるのも不公平だからな。さぁ、どうぞ」


道を譲られ、困惑する仲間達。

しかし、意外にも金髪美少女が最初に名乗り出た。


「確かにセレバーナの後追いばかりでは情けないですし、わたくし達の成長も有りませんわね。わたくしが挑戦してみます」


ペルルドールは青い瞳で旗を睨み、精神を集中させる。

身体を動かすと精霊魔法が発動してしまう為、直立不動でイメージする。

魔力と言う見えない力で扇を作り、それを使って空気と言う見えない物体を押すイメージを。


「まずは右」


畑にそよ風が訪れ、固い布で出来ている旗が右方向にはためく。

近くに有るピーマンの葉も風に揺れる。


「そして左」


ペルルドールの宣言通りに風の向きが変わり、旗が逆方向にはためく。


「出来ましたわ!」


金髪美少女は、鼻息の荒い笑顔を師に向けた。

初めて一番に魔法が成功した事に興奮している。

それに頷きを返すシャーフーチ。


「はい、合格です」


「次は私が」


サコはペルルドールと立ち位置を交代し、同じ様に左右に旗をはためかせる。


「じゃ、私も」


続けてイヤナも風を吹かせる事に成功する。

腕を組んでその様子を眺めていたセレバーナが口の端を上げる。


「読めた。この試験、旗を倒したら失格だな」


「どう言う事ですの?」


試験をクリアして安心していたペルルドールが小首を傾げる。


「安っぽい素材の旗をはためかせるには、それなりに強い風を吹かせなければならない。それは魔力が強い事を意味する。だが、それだとダメなのだ」


「魔力が強いと失格ですの?」


「違う。魔力をコントロールし、丁度良い風を吹かせられなければ失格、と言う事だ。魔力の強弱を操れない者を見付け出す試験なのだろう」


「分析も結構ですが、後は貴女だけですよ、セレバーナ」


「では」


師に促された黒髪少女は、腕を組んだままでアッサリと旗を左右にはためかせる。


「はい、これで今日も全員合格ですね。お疲れさまでした」


「ありがとうございました」


木曜日は生命魔法を使って適当な雑草の成長を早め。

金曜日は汚穢魔法で成長を速めた雑草を腐らせ。

土曜日は地面魔法により手を使わずに土団子を作成。

日曜日は光線魔法で初日に使った封筒に火を点けた。

こうして前半の一週間が無事に終わり、少女達はお互いの体調を気遣った。

知恵と魔力をフル稼働させているので、全員が疲労の蓄積を自覚している。


「後半は何をするか想像も出来ない。より一層気を引き締めよう」


口を一文字にしているセレバーナに向けて、少女達は一斉に頷いた。

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