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シャーフーチは、試験が終わったので遺跡に戻ろうとした。
しかしセレバーナが師を呼び止める。
「ちなみに、本当の正解は何ですか?後学の為にお教えください」
「貴女達が取った行動そのものが正解ですよ。腑に落ちない事でもありましたか?」
「はい。テレパシーを送った後、シャーフーチは笑われました。仕方が無いな、と言う感じで」
「そう見えましたか。いいえ、そうではありません。貴女達の取った行動が正解例そのままだったので、つい。深い意味は有りません」
「なるほど。もうひとつ質問しても宜しいですか?」
「どうぞ」
「もしも私達が相談せず、正解を導き出した一人だけがテレパシーを送っていたらどうなっていましたか?」
「内緒話が可能なテレパシーが正解である以上、抜け駆けでの合格も有り得ます。むしろそちらがより高得点な様です。ウチは得点を付けないので無意味ですが」
「分かりました。ありがとうございました」
ツインテールの頭を下げるセレバーナ。
「前半で難しいのは初日だけです。明日からの一週間は単純な魔法を使うだけなので、貴女達なら楽に合格出来るでしょう。変に気負わずに、リラックスしてください」
シャーフーチは遺跡に戻って行く。
それを見送ったセレバーナは、腕を組んで溜息を吐いた。
「正解例そのまま、か。私がシャーフーチの立場だったら、私も笑んでしまっていたかも知れないな」
「どうして?」
不思議そうに訊いて来たイヤナを見上げた背の低いセレバーナは、過去を思い出しながら畑の方に目をやった。
緑色の葉っぱを広げて太陽の光を浴びている野菜達が向暑の風に揺れている。
「良く言えば優等生。悪く言えば無個性。可も無く不可も無い。頼もしくもあり、つまらなくもある」
神学校で成績が上位の連中がそんな感じだった。
自分もそれに近い状態になってしまっていたので、そのままではつまらない人間になる危機感を覚えていた。
それも学校を出た理由のひとつだったのだが、結局はそこに戻るのか。
そうならない様に、今後の対策を考えなければ。
セレバーナは個人的な思案を巡らせながらダラダラと歩き、門を出る。
そして封筒を拾って封を開けてみると、確かに空だった。
「……ん?」
薄い封筒だったので、封筒の内側に文字が書いて有る様子が透けて見えた。
良く見えないので、破いて広げてみる。
「どうしたの?」
セレバーナの手元を覗くイヤナ。
封筒の内側には『サコ』と書かれてあった。
「何これ。他の封筒にもあるのかな?」
三通の封筒を拾ったイヤナが雑に破いて行く。
それぞれに『セレバーナ』『ペルルドール』『イヤナ』と書かれて有った。
「全員の名前?これは一体どう言う事ですの?」
ペルルドールとサコも門の外に出て来る。
「もしかすると透視対策かな?文字が見えれば、それが中身だと思うだろうし」
「恐らくサコの言う通りだろう。これを読んでいたら失格だったんだろうな」
ふと思い付いたセレバーナは、持っていた封筒をサコに渡す。
「火曜日か日曜日は光線魔法の日だろうから、みんなはこれを持っていた方が良いだろう。恐らく、火の魔法を使えと言われると思う」
「なるほど。燃えやすい物を用意しておいた方が良い、って事だね」
「うむ」
自分の名前が書かれた封筒をそれぞれのポケットに突っ込む少女達。
試験が終わっても生活に必要な仕事が有る為、そこで解散とした。
「じゃ、私は下の村の畑の手伝いに行って来るね」
「あ、待ってイヤナ。薪を拾う為に下の村近くに有る森に行くから、一緒に行こう。籠とナタを取って来る」
「うん」
イヤナとサコは二人並んで封印の丘を下って行った。
それを見送ったセレバーナは、再び庭の畑を見た。
「私は農具を研いでおくか。ペルルドールはどうする?」
「わたくしはいつも通り、掃除洗濯にお裁縫の練習ですわ」
そう言い残し、ペルルドールは面倒臭そうな表情で遺跡の中に戻って行った。
「そうか。頑張れ」
「お互いに、ですわ」
遺跡の中からの返事を聞いたセレバーナは、畑の脇に建っているみんなで作った農機具小屋に向かった。




