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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
177/333

5

少女達は輪になったまま考え続けている。

そんな中でペルルドールが一番に思い付き、輝く様な笑顔になる。


「封筒のみを透明にするのはどうでしょう?それなら中が見えますわ」


「透明化は光線魔法だった。廃案だ。サコは何か案は有るか?」


しょんぼりとしている金髪美少女を慰めもしないセレバーナに話を振られ、軽く慌てる長身の茶髪少女。


「ご、ごめん。何も思い付かない。イヤナは?」


赤髪を三つ編みのおさげにしている少女は、うーんと唸って頬を掻く。


「心の魔法、ねぇ。心、こころ……。テレパシー……。あ、嫌な事を思い出した。うーん。これは反則かなぁ」


イヤナは門の外に目をやった。

正確には封印の丘の下に有る最果ての村を見ようとしたのだが、この位置からは青空と白い雲しか見えなかった。


「何だ?何でも良い、言ってみてくれ」


背の低い黒髪少女から気まずそうに目を逸らすイヤナ。

赤髪少女は、テレパシーを使ったせいで涙が止まらなくなった事が有った。

恥ずかしい勘違いもセットで思い出してしまう出来事だったので、その事に触れずに話を続ける。


「封筒を用意したのはお師匠様なんだから、お師匠様にテレパシーを向ければ良いんじゃない?絶対に中身を知ってるはずだし」


「その発想は無かった。良い案だ。多分それが正解だろう。過去の復習と言う意味で捉えれば試験的だしな。が、私達に彼の心が読めるだろうか」


少女達は一斉に師を見詰めた。

その視線に怯え、顎を引くシャーフーチ。

この試験は弟子達の自主性に全てを任せる為、師匠は不正解時のフォローをしなくてはならない。

具体的に言えば、思い付きで使った未熟な魔法が暴走した時に、その後始末として魔法封じをしなくてはならないのだ。

シャーフーチの弟子達は個性的過ぎて特に何をするか分からないので気が抜けない。


「相手は仮にも魔王だぞ?下手に心を覗いてしまったら、何が見えるのか分かったもんじゃない。あまりにも危険過ぎる」


セレバーナは腕を組み、眉間に皺を寄せる。

しかしイヤナは右手を横に振って自分の考えに言葉を足す。


「ううん、そうじゃなくて、テレパシーって言う魔法を使って正解を聞けば良いんじゃない?お師匠様に。中身は何ですか?って」


小首を傾げたペルルドールが声を潜める。


「そんな試験って有り得ます?正解を出題者に訊くなんて」


「だから反則かなって。他に案は有る?」


イヤナの言葉に全員が黙り込む。

セレバーナも色々と考えてはいるが、具体的なアイデアは出て来なかった。

思い付き、顔を上げるツインテール少女。


「シャーフーチ。質問をしても宜しいですか?」


「何でしょう?」


「ここで失格になった場合、再チャレンジのチャンスは有りますか?」


「はい、有ります。『試しの二週間』は何度でもチャレンジ出来ます。ただし、次の月曜日まで一週間待つ事になりますけどね」


シャーフーチは右手の人差指を立てて言葉を続ける。


「つまり、月曜日の試験に失敗したら、翌日の火曜日の試験には挑戦出来ないんですね。同じ様に、火曜日に失敗したら水曜日の試験は受けられません」


「ふむ。では、私が試してみよう。もしも失格になったとしても私に悔いは無い」


「どう言う意味?一人だけ失格になるつもり?」


セレバーナの肩に手を置いたイヤナの顔は真面目そうに引き締まっている。

普段は感情をそのまま顔に出す赤毛少女だが、気に入らない事が有って不機嫌になると負の心を表に出さない様にこう言う表情になる。


「イヤナの案が不正解ならそうなるな。だが、試してみる価値は有ると思う」


肩に乗っているイヤナの手を握ったセレバーナは薄く笑んだ。


「ここで失格になったら、次のチャンスが来るまで手術跡の治癒に専念出来るしな。この失格は、私にとっては悪い事ではない」


「ダメですわ、セレバーナ」


ペルルドールが少し怒った顔で黒髪ツインテール少女の正面に立つ。


「情けない話ですが、わたくし達はセレバーナのお陰でここまで来れました。わたくし達にはセレバーナが必要なんです」


「そうだね。セレバーナを残して先に進んでも、私達はそこで足踏みしてしまう」


続いて言うサコ。


「結局追い付かれるんだから、ここで全員が失格になっても同じ事だよ」


朗らかに笑うイヤナを見て、そして同様に笑んでいるペルルドールとサコを見て、仕方ないなと諦めるセレバーナ。


「それはそれで問題が有るが、分かった。では、全員で失格になろうか。全員でひとつの力場を作り、シャーフーチに向かってテレパシーを送るぞ」


頷く少女達。

精神を集中させ、複数人でのテレパシー会話が出来る状況を作り出す。


『聞こえるか?みんな』


頭の中に直接聞こえるセレバーナの問い掛けに応える仲間達。


『聞こえるよー』


『うん、聞こえる』


『聞こえますわ』


『では、全員で訊くぞ。意識をシャーフーチに向けて。――シャーフーチ。テレパシーで質問しても宜しいですか?』


『何でしょう?』


『封筒の中身を教えてください』


『教えてください、お師匠様!』


『私にもお教えください』


『わたくしにも教えてください』


少女達のテレパシーを受けたシャーフーチは、思わず笑みを零してしまった。


『中身は、空です』


そう応えた途端、少女達の非難と戸惑いの感情が流れ込んで来た。

特にペルルドールは激しく呆れている。


『どう言う事ですの?まさか、わたくしが精霊魔法を使った事に怒り、敢えて正解を入れなかったと言う事ですの?』


『いいえ、違います。中身が空だと見破るのが正解、と言う事です。そして、貴女達はそれを知った。と言う事は?』


「テレパシーでお師匠様に質問するのが正解、と言う事ですね?」


思わず声に出してしまったイヤナに笑みを向けるシャーフーチ。


「そう言う事です。ここで脱落する弟子も多いそうですが、貴女達は見事乗り越えましたよ」


「やったー!」


両手を上げて喜ぶイヤナに微かな笑みを向けて頷くセレバーナ。


「お手柄だ、イヤナ。君のお陰だ」


「えへへー。イェイ!」


イヤナは継ぎ接ぎだらけの質素なドレスの胸を張ってピースサインをする。

その様子を見たシャーフーチが穏やかな口調で叱る。


「コラコラ、まだ試験は終わっていませんよ。さぁ、正解の報告を自分の口でしてください」


師の前で整列し、気を付けをする少女達。


「封筒の中身が判明しました。空です」


「空です」


「空です」


「空ですわ」


「はい、正解です。今日はここまで。明日も同じ時間、同じ場所で試験をします。封筒を片付け、それぞれのお仕事に戻ってください」


「はい。ありがとうございました」


四人の少女達は揃って頭を下げて礼を言った。

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