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石造りのリビングは無人の静寂に包まれていた。
時折、夕方を知らせる鳥の声が開いた窓の外から聞こえて来る。
そんな中、紙袋を抱いたツインテール少女が円卓の上に現れた。
「おおっと、またここに出るのか。次に転移する時は出現位置を特に意識しなくてはな」
重い紙袋をその場に置いたセレバーナは、リビングの中心にある円卓から飛び降りた。
すぐさま土足で汚れた円卓を布巾で拭く。
「あ、セレバーナ。おかえりー」
新鮮なナスが山盛りになっている籠を持ったイヤナがリビングに来た。
「ただいま。頼まれたコショウと、村に売る為の塩と砂糖を買って来たぞ。ただ、量が無いのでこずかい程度の儲けにしかならないだろうが」
「ありがとう。どれどれ?」
絨毯が敷かれていない部分の石床に籠を置いたイヤナが紙袋を覗く。
コショウが二百グラム五袋。
塩と砂糖が一キロ三袋ずつ。
そして、セレバーナの飲み薬が入った小さな袋と使わなかった銀貨二枚。
「今の私の魔力では、これ以上の重量を持っての転移が出来なかったのだ。非常に残念だ」
「そっか。まぁ、村で困っている人が居たら売って、売る必要が無かったら私達で使おう。銀貨三枚でこの量なら、そこそこお得だし」
「畑の方はどうだ?何か手伝う事は有るか?」
紙袋から薬の袋を取り分けたセレバーナが窓の外を見る。
もうすぐ太陽が地平線に沈むが、草取り程度の農作業なら、気温が下がって来る今時分が一番やり易い。
「もうちょっとやる事が有るけど、セレバーナが着替えてまでやる事は無いかな。洗濯の手間を考えると、今日は何もしなくても良いよ」
「そうか。では、自室に戻って休むとしよう。遠距離の転移魔法は体力を使うからな。その代わり、夕飯の手伝いは積極的にする」
「うん。お願いするね」
籠を持ったイヤナはキッチンに、薬を持ったセレバーナは自室に向かって歩いて行き、リビングは再び無人となった。
その中心に置かれてある円卓は、変わらず静かに佇み続けた。




