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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第五章
170/333

29

「お帰りなさい。どうでした?」


遺跡のリビングに帰るなり、イヤナに質問された。

三人の弟子達は、自分の席に座らないまま師の帰還を待ち構えていた様だ。


「セレバーナは、確かに危機的状況でした。ですが、もう大丈夫でしょう。もっとも、それと手術の結果は別問題ですが」


円卓の上座に座ったシャーフーチは、片手で持っていた食べ掛けの皿を置く。

それに続いて三人の少女もそれぞれの席に座った。


「セレバーナに何が有ったんですの?」


ペルルドールが心配そうに訊く。


「勝手にバラしたら一生恨まれそうですから、それは彼女が帰って来てから、本人に直接訊いてください。恐らく口を割らないでしょうが」


「そんな事を言って、本当は説明するのが面倒なだけだったりして」


師匠の性格を把握して来たイヤナが笑顔で言う。


「まぁ、あの状況を説明するのはかなり面倒臭いのは事実ですがね。ん?貴女達、まだ朝食を食べていないんですか?」


円卓に並んでいるスープは、全く手が付けられないまま冷め掛けている。


「はい。セレバーナが心配で」


サコが言う。


「スープを食べたセレバーナは、イヤナの料理は最高だと褒めていましたよ。病院食がまずいから尚更だと。危機が去った後の彼女はいつも通りでした」


師の言葉を聞いた弟子達の表情から不安が薄れて行く。


「では、頂きましょう」


「はい」


揃って頷いた少女達と一緒に朝食を始めるシャーフーチ。

しかしペルルドールは師匠が持って帰って来た食べ掛けの皿が気になり、食事が進まない。


「ところで、それはどうしましたの?かなり残っていますが。セレバーナは、それを全て食べ上げる事が出来ない状況なんですの?」


「これは今回の呼び出しの報酬ですよ。彼女は無一文でしたので、苦肉の策です。報酬ですから、私が一口は食べないといけません」


「……あの。セレバーナは、それを食べたんですよね?味の感想を仰ってましたし」


青い瞳で皿の中身を見詰めるペルルドール。


「はい。食べましたよ?」


「女性の食べ掛けを報酬として受け取り、それを食べるなんて……。気持ち悪い」


シャーフーチはガックリと肩を落とす。


「そんな言い方をしたら本当に気色悪いじゃないですか。先程も言いましたが、苦肉の策なんです。放っておいてください」


そんな二人を見てアハハと笑うイヤナ。


「でも、セレバーナはもう大丈夫なんですよね。良かった良かった」


うんうんと頷いたイヤナは、円卓の中心に置いてある指輪を見た。

つるりとした表面が金色に輝いている。


「早く帰って来ないかな。セレバーナ」


イヤナが笑顔で願っている丁度その頃。

王都に居るセレバーナは、病院を抜け出した事をナースにこっぴどく怒られていた。

しかも春キャベツの卵スープを食べてしまったので麻酔が掛けられず、手術は数日後に延期された。

胃の中に物が入っている状態での麻酔は危険なんだそうだ。

キーサンソン先生にも平謝りしたセレバーナは、病室に戻って大切な祖父の発明日記を胸に抱いて祈った。


「お爺ちゃん。私、あの遺跡に帰りたい。だから、私を守って」


楽園でも地面の下でもどこでも良い。

もしもお爺ちゃんが私を見守ってくれているのなら、私の願いを聞いて欲しい。


「私は、生きたい」

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