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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
17/333

17

ベッドの中で寝返りを打つと、金色の髪が顔に掛った。

くすぐったいので、目を瞑ったまま後ろに撫で付ける。

そして溜息。

眠いのに殆ど眠れなかった。

だから一晩中悶々と考えを巡らしてしまった。

こうして一人になってみると、自分は何も出来ない事が良く分かる。

手伝い無しの脱衣に、かなり苦労した。

芯が太いロウソクの火を消す事も出来なかった。

寝巻きがどこに有るのかも分からないので、下着姿でベッドに入っている。

寝付けなかったのは、きっとそのせいだろう。

石壁の部屋は結構冷えるし。

眠くなって来た気がしたので、身体の力を抜いてみる。

しかし一向に眠れないので、再び寝返りを打つ。

ふと、鳥の声が聞こえて来た。

鷹や鷲とかに似た、獰猛そうな鳴き声。

外はもう朝らしい。

王宮では、こうしてまどろんでいると、おめざを持ったメイドが起こしに来る。

甘味で目覚めた後は、立っていれば勝手にドレスが着せられ、髪も整えられる。

だが、今居る場所は魔王のお膝元である封印の丘の遺跡。

これからは自分の力で身支度をしないといけない事は、世間知らずのペルルドールでも分かる。

金髪がグシャグシャになっている頭を上げた美少女は、気だるくベッドを降りた。

昨晩脱いだオレンジ色のドレスがそのままの形で床に落ちている。

天女と鶴の彫刻に乗っていたロウソクは燃え尽きていて、溶けた蝋が石のベッドに零れ落ちている。

巨大なロウソクを最後まで放っておくとこうなるのか。

初めて知った。

これらの片付けも自分でしなければならない。

だけど今はそれは後回し。

まずは服を着なければ。

絨毯が敷かれた床を下着姿のままで歩き、木の窓を開けて朝日を部屋に入れる。


「うわぁ……」


窓の外は眩暈を覚えるほど深い崖だった。

崖の底は一面の深い森で、遥か地平線の向こうまで続いている。

大きくて茶色い鳥が眼下で飛んでいる、絶景。

先程鳴いたのはあの子かな?


「これが、魔王の城跡……」


遺跡の真下から小川の水流程度の水が噴き出していて、そのまま崖底へと落ちて行っている。

五百年前、こんなにも大地を削る戦いが有ったと言うのか。

人知を超えている。

しかも封印されている筈の魔王が遺跡の二階に普通に居て、自分はその弟子。

幼い頃に亡くなった実母の暗殺疑惑と姉の病気の真実を探る術を得る為にここに来た訳だけど、まさか魔王が師になるとは。

運命とは分からない物だ。

取り合えず、シャーフーチへの警戒は解かない様にしよう。

彼は王家と世界の敵なのだから。

そう決意したペルルドールは、下着姿のままで廊下に出た。

確か、隣の部屋にドレスが有った筈。


「まぁ、沢山有りますわ。どれに致しましょう。――うう、寒い。これで良いですわ」


一番手前に有った赤いドレスを手に取ったペルルドールは、そこから小一時間程衣装と戦った。

服とはこんなにも着難い物だったのか。


「どうしたの?」


昨日と同じ格好のイヤナがドレス部屋を覗く。


「水を汲みに地下へ行こうとしたら変な声がしたから……。服、着れないの?」


イヤナは、赤いスカートを頭に被っているペルルドールを見て事情を察する。


「もう少しで着られます。大丈夫です」


「ちょっと待っててね。お鍋を火に掛けたままだから。すぐ戻って来るから」


一度キッチンに戻ったイヤナは、間を置かずに帰って来てペルルドールの着付けを手伝った。


「わたくしは真実を知り、自分の足で歩く為に来たんです。これくらいは、自分で出来ます」


「はいはい。じゃ、手伝うのはこれが最後。明日からは着易い服を選ぶと良いかも」


イヤナは妹を諭す様に言う。

年下の子を扱う事に慣れているらしく、赤いドレスもすんなりと着付ける。


「着易い服、とはどう言った物でしょう」


ペルルドールは素足のままでイヤナに訊く。

ぐるりと衣裳部屋を見渡した三つ編み赤毛の少女は、服の海の中から水色の布を取り出した。


「えっと、これかな。ワンピース。頭からペロッと被るだけだから楽でしょ?」


「そうですね。明日はそれを着ましょう」


笑顔で頷いたイヤナがキッチンに戻って行った。

残ったペルルドールは、下着部屋で靴下を穿き、靴部屋で赤い靴を穿いた。

最後の仕上げに香水。

フローラルな香り。


「どうです、わたくしだってやれば出来んです」


満足気に胸を張ったぺルルドールは、すぐに表情を曇らせた。

いちいち部屋を移動しなければ服を着れないのは面倒だ。

特に靴下と靴が離れているのは頂けない。

靴下のままで廊下を歩くと足の裏が汚れてしまう。

どうしたら良いかと考えながらリビングに向かうが、生粋の王女の知恵では良い案は全く浮かばなかった。

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