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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第五章
162/333

21

応接セットに座って味の薄い昼食を食べているセレバーナは、ふと考える。

最果ての村を出発したのは早朝だった。

そして王都に着いたのが四日後の昼前だった。

病院の玄関でサコを見送ってから同じだけの時間が過ぎたので、彼女の足ならトラブルが起きていない限りは最果ての村に着いている。


「サコが遺跡に着いたら、庭の野菜の収穫が始まるんだろうな……。初めての栽培だったから、私も立ち会いたかったな……」


イヤナとペルルドールは今日も畑に出ているんだろうか。

他の何かをしているのだろうか。

それとも――


「ふ……全てを覚悟してここに来たつもりだったのに、未練たらしくこんな事を考えてしまうとは。私もまだまだだな」


セレバーナは、左手の中指に嵌っているふたつの指輪を見る。

指で弄ってみると、いつも通りに固くスベスベしている。

自壊の気配は無い。

ここでも多少は魔法を使ってみた方が良いのだろうか。

遺跡に残った仲間達も、テレパシーで会話したりしているのだろうか。

彼女達の指輪の自壊も防がなければならないし。

それとも、セレバーナ抜きで新たな魔法の修行を始めてしまっている?


「私達四人の肩を並べたいと言っていたからそれは無いと思うが……」


そう呟いた事で、自分の気持ちに気付いた。

セレバーナは焦燥感に襲われている。

なぜ焦る事が有る?

あの遺跡の中に居れば魔力の低下は起こらないと師は言っていたではないか。

だから三ヶ月間は修行をしないと。

まぁ、好い加減なシャーフーチはあまり信用出来ないから、そのせいで妙な気持ちになっているんだろう。

自己分析と食事を終えたセレバーナは、パジャマの襟元を直しながらベッドに戻った。

やきもきしてもどうにもならないので読書を始めよう。

別室で検査をしている間にナースが綺麗にメイキングしたベッドの座り心地は最高だ。


「……むぅ」


三ページほど活字を目で追ったが、どうにも内容が頭に入って来ない。

ツインテールの位置や髪止めのゴムの具合もいつもと違う気がする。

いつもと同じな事は分かっているのだが、気になるので整え直す。

本当はポニーテールが一番楽なのだが、髪の量が多くて重いので頭皮が痛くなる。

重さを分散させると言う意味ではトリプルテールが良いのだが、見た目を良くするには手間が掛かる。

同じ手間を掛かるのならイヤナの様な三つ編みも有りだが、後ろに垂らすと椅子の背凭れと背中で挟んだり引っ掛かけたりして痛い。

前に垂らすと視界に入って読書や食事の邪魔になる。

だからツインテールで落ち着いたのだ。


「スゥー……フハァ……」


ツインテールを縛り直した後、心のもやもやを消す為に音を立てて呼吸する。

いつも無表情なセレバーナも人間なので、イラ付く事もムカ付く事も有る。

だが、ここまで自分の感情をコントロール出来ない事態は初めてだ。

大袈裟な呼吸をしながら病室を歩き回っているとドアがノックされた。

ナースが食器を下げにやって来たのだ。

部屋は豪華だが、ナースは普通のナース服だし、病院食も別に特別ではない。

なのに入院の料金は何倍も取る。

一人になった時から、そんなどうでも良い事が気になって仕方が無い。


「あの。もし有れば、工具一式を貸して貰えませんか?」


自分の心情がばれない様に、意識的に無表情になったセレバーナがソファーに座る。

綺麗に空になっている食器を重ねていたナースが不思議そうに訊き返す。


「工具、ですか?何をなさるんです?」


「お風呂の湯沸かし器の調子が良くないので、ちょっと見てみたいんです」


「まぁ。そんな事は業者に任せてくださいませ。すぐに手配しますから」


本当は湯沸かし器の調子は悪くない。

ちょっと分解して中身を見てみたいだけだ。

自力で作成可能なら、遺跡の風呂に取り付けてみたい。


「ヒマでヒマで仕方が無いので、やらせてください。何かやっていないとストレスが溜まってしまいます」


「うーん。では、キーサンソン先生と相談してみます」


「お手数お掛けします。宜しくお願いします」


ナースが退室してからお茶を淹れるセレバーナ。

この病室に備え付けられているお茶っ葉は特級品らしく、いくら飲んでも飲み飽きない。

お陰で美味しいお茶を淹れる技術が身に付いてしまった。

お茶淹れだけならイヤナに勝てる自信が有る。


「……みんなは、今何をしているかな……」


育った野菜の収穫かな。

下の村の手伝いもしてるかな、

本当に私の帰りを待ってくれているのかな。

むむ。

思考がループしているな。

いかんいかん、私らしくない。

立ち上がったセレバーナは、再び部屋の中を歩き出した。

しかし何日も過ごしている部屋なのですぐに飽きて足を止め、王都を見渡せる窓の外に目を向けた。

巨大な王城が、相も変わらずに無言の威厳を放っていた。

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