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「あの方がセレバーナの先生か。優しそうな人だね」
「女神に仕える聖職者は概ね慈愛に満ちているが、ユキ先生は特別だ。先生の深い愛が無かったら今の私は無い。私の恩人だ」
空のカップを片付けるサコを見ていたセレバーナは、あっと声を上げてツインテールの頭に右手を乗せた。
「今の出来事を赤いノートに書こうと思ったが、忘れて来てしまった」
「赤いノート?自分の過去と未来を書く課題の奴?」
「うむ。だが、良く考えてみれば、ノートを持って遠出した事は無かったな。書きたい事も無かったし」
「多分、ノートを持って出掛けた子は居ないと思うよ。私も持って出た事は無い」
言いながらキッチンに行ったサコは、蛇口を捻ってカップを洗う。
さすが王都、水道がキチンと整備されている。
「まぁ良い。メモに取っておいて、帰った時に纏めて書こう。万が一帰れなかった時は、サコが中を見ずに処分してくれ」
「またそう言う事を言う。でも、覚えておくよ」
「うむ。病気だけは私がどうこう出来る物ではないからな。どんな可能性も捨てきれない。――さて。宿泊の準備をするか」
セレバーナは、小さいリュックをベッド脇の小さいタンスの上に置いた。
肌着等はタンスの中に仕舞った方が良いのだろうが、それよりも先に貴重品入れを探さなくては。
ここは立派な部屋なので、火事にも耐えられる金庫くらいは有りそうだ。
「私は付き添いがどこで寝るかを聞いて来るよ。それから、食事はどこでする?とか」
キッチンから戻って来たサコも、イヤナから借りた大きなリュックをソファーの裏に置いた。




