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キルビの村で郵便隊の馬車に乗せて貰ったセレバーナとサコは、街から街へと乗り継いで移動した。
夜になったらその街の宿屋に泊り、翌朝は別の郵便隊のお世話になる。
そうして旅を続け、人口の多い街に入った後は乗り合いタクシーの馬車に変更した。
王都への街道は街中かと思うほど状態が良いので、こっちの方が早く移動出来る。
なので、予想より早く王都に到着した。
さすがエルヴィナーサ国一番の街、通行人の密度が尋常じゃない。
「さて。王都の空気に圧倒されている場合ではない。日が暮れる前に病院と宿を見付けなければ」
旅の疲れを我慢しながら大通りを進むセレバーナとサコ。
昼食の時間を少し過ぎたところなので、食べ物屋らしき建物に人が群がっている。
人口が多過ぎるので、行列を作らないと外食が出来ないのだ。
「宿?入院するんじゃ?」
「まだ入院すると決まっていない。普通は通院だ。王都に知り合いが居ない私達は、宿を取ってそこから通院しなければならない」
「まぁ、そうだね。心臓が悪くて、しかも魔法使いになる為に必要な試練が待ってるって話だったから、自然と入院するって思い込んでた」
「入院するならそのまま病院に留まるから、まだチェックインはしない。だが、診察にどれくらいの時間が取られるか分からないから、目星だけは付けなければ」
都会人らしいオシャレな服を着た王都の住人に道を訊きながら病院を目指す二人。
旅人向けの施設ではないので、王都の入り口からは大分遠い様だ。
逆に、宿はすぐに見付かった。
予算は潤沢なので、どこに泊まっても問題無いから気楽だ。
「しかし、私達の仲間の一人があそこから来たんだなぁ」
どこを歩いていても見える巨大な王城は、王都の中心に有る小さな山の上に有る。
それを見ながらしみじみと言うサコ。
「信じられないな。雲の上の人が身近に居るなんて」
「しかも意外にコンプレックスの塊だしな。一番成長が遅いのを気にしている」
セレバーナは立派な街灯に掛っている看板の番地を見ながら言う。
昼過ぎなので、当然明かりは点いていない。
「ついこの間なんか、間引いた野菜を齧ったしね」
笑うサコ。
その時のペルルドールの言い訳は『育っている最中の野菜がどんな味をしているか知りたかったから』だった。
だが、本当の理由は空腹に負けたからだと全員が察している。
「あれは傑作だったな。小さいキュウリだったから食べられそうな気もするが、王女のする事ではないよな」
セレバーナも笑みながら王城を見る。
「ちなみに見えるのは王城で、国王が住んでいる。二人の王女はその下に無数に有る小さな城のどれかに住んでいるらしいな。通称姫城と言う」
「どれか?どう言う意味?」
「世継ぎが暗殺されない様に、どこに住んでいるかは最高機密とされている。まぁ、妹姫は魔王によって誘拐されている最中だが」
「ふーん。今度、みんなと一緒に観光したいね。ペルルドールと一緒ならあそこに入れるかな。無理かな」
「それは良いな。一度は最高の贅沢と最高の芸術が詰まっている城内を見学してみたいもんだ。イヤナも王都に来たがっていたしな」
そんな会話をしながら人混みの中を一時間ほど歩くと、二階建ての巨大な建築物が見えて来た。
レンガ造りで、とても趣の有る外見をしている。
「王都記念病院。あそこだ」
サコが指差す巨大な看板に病院名が書かれて有るので間違い無い。
「着いてしまったな」
セレバーナは気持ちを落ち着かせる様に深呼吸した。
「怖い?」
「ああ。病院は健康になりに行く所だとは分かってはいるんだが、魔法の修行中の私は事情が違うしな」
「女は度胸だよ。行こう」
「そうだな。制限時間も有る事だし、さっさと用事を済ませよう」




