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「いつも通りセレバーナとサコにはお守りの紙片を渡しますが、今回は魔法の修行での遠出ではないので、本当の危機以外では使わない様に」
過去にセレバーナがお守りの紙片を使ったのは、事情が有って師匠を呼び出したい時だった。
結果的にはベストなタイミングで使っているのだが、一度切りのアイテムなのに気軽に使う。
そんな前科が有るので、それをするなと釘を刺したのだ。
「そして、セレバーナにはもうひとつ指輪を渡します。これを弟子の証の指輪の上に嵌めてください」
黒髪少女の前に金色の指輪を置くシャーフーチ。
「これは?」
セレバーナは金色の瞳で金色の指輪を見る。
弟子の証の指輪と同じく、装飾の無いツルリとした表面。
「長期間この地を離れて魔力が下がると、弟子の証の指輪は自壊します。それを私に知らせる為の物です」
「ふむ。自壊したら、私はもうシャーフーチの弟子ではなくなる、と言う訳ですね」
指輪を摘み上げ、左手の中指にそれを嵌めるセレバーナ。
二連になった金の指輪をじっくりと眺める。
「そうです。魔力を抜こうと意識的に自堕落な生活をしても、この遺跡内に居れば自壊しません。つまり出掛けなければ魔力の低下は起こらない」
ツインテール少女を見詰めていたシャーフーチは、言いながら金髪美少女に視線を移す。
「だから修行を長期間ストップさせても平気なんです。ただ、余りにも修行しない期間が長いのも問題ですよね。みなさん、修行したいでしょう?」
「ふぇ?ええと、その……」
師に顔を向けられたペルルドールは、青い瞳を逸らして言葉を濁した。
したいに決まっているが、仲間が欠けた状態ではしたくない。
「一人を気にした結果、全員の魔法使いへの道が閉ざされるのは愚かな選択でしょう。ですので、ストップ期間は三ヶ月とします」
「三ヶ月……。夏が終わってしまいますね」
珍しく眉間に皺を寄せているイヤナが言う。
「それくらいですね。それだけの期間離れれば絶対に指輪は自壊します。現実的には一ヵ月も持ちませんが、余裕を持って設定しました」
「そうなったら私はもうここには入れない、と。侵入者避けの結界が有るから」
相変わらずの無表情で居る黒髪少女に穏やかな顔を向けるシャーフーチ。
「納得してくれますね?セレバーナ」
「はい。みんなの足枷になりたくはありませんので」
「他の皆さんにも分かる様に、その指輪と対になる物をここに置きましょう」
円卓の中心に金色の指輪を置くシャーフーチ。
「セレバーナの指輪に変化が有った時、この指輪も同様の変化を表します。向こうが壊れたら、こちらも壊れます。大切な物なので、絶対に触らない様に」
黒髪少女以外の三人の少女が頷く。
「そしてセレバーナは、この指輪がここに有る事を覚えてください。この光景を向こうで絵に描けるくらいに」
「何か重要な意味が有るんですか?」
訝しむセレバーナに頷くシャーフーチ。
「指輪が自壊しなかった場合に必要になります」
「だったら、絶対に必要になるね。だって、セレバーナの指輪が壊れる事なんか絶対に無いし!」
イヤナが鼻息荒く言う。
「絶対は絶対に無いと言うがな。だが、この光景を覚えよう。絶対に必要にならなければならないからな」
赤毛少女の根拠の無い自信に苦笑を洩らしたセレバーナは、円卓の上に置いてある金色の指輪に力の籠った視線を向けた。




