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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第五章
149/333

8

天気が良い封印の丘を降りながらサコが訊く。


「私は産まれた時からずっと健康だから良く分からないんだけど、心臓が悪いってどんな感じ?」


「私としてみれば、サコの様に力が強い状態が良く分からないから何とも言えないな。あえて例えるならば――」


しばらく考えたセレバーナは、ようやく口を開く。


「全力疾走して息苦しくなった時と同じ感じかな。問題は何もしていないのにそうなる事だ。心臓の動悸も激しくないから不自然さが気持ち悪い」


「珍しくセレバーナの例え話が分かり易い。なるほどー。それは立っていられないねぇ」


何度も頷くイヤナ。


「神学校に居た時はほとんど座っていたから、自分の心臓を気にした事はなかった。ここに来なければ医者に行く事はなかっただろうな」


一日中本を読み、必要な授業だけ出て、神学校の予算で思い付く限り実験をする。

思えば理想的な毎日を送っていたもんだ。

それでも遺跡での生活の方が充実していると感じるのも変な話だが。


「ここに来てからは身体を使う事が多くなりましたものね。わたくしも最初の頃は筋肉痛に悩まされました」


ペルルドールがしみじみと言う。

王宮での生活は、朝起きて着替え、勉強する為に着替え、昼食を食べる為に着替え、夜の会食の為に着替えていた。

今考えると、良くもまぁ黙って着せ替え人形になっていたもんだ。

誰に見せる訳でもないのに。

遺跡に来て初めて自分の意思で動けたので、ここからが人生のスタートの様な気がする。

ただ、それだとシャーフーチが第二の父親みたいな物になってしまうので、物凄く気持ち悪くて認めたくない。

ペルルドールとセレバーナが同時に溜息を履く。


「どうしたの。息ぴったり」


面白そうに言うイヤナにつまらなそうに応えるペルルドールとセレバーナ。


「別に」


「何でもありませんわ」


間も無く下の村に着いた少女達は小さな診療所を目指す。


「こんにちは。先生に呼ばれたので来ました」


セレバーナが代表し、受付に座っている若いナースにそう言う。


「はーい、お待ちしておりました」


「私達の師匠から、ついでに仲間達の健康診断もお願いしたいと言われました。私を含め、四人です。結果を書類で頂きたいのですが、構わないでしょうか」


「えっと、先生に窺って来ますので、少々お待ち下さい」


若いナースは奥に行く。

他の人が居ない待合室で待っていると、ナースがすぐに戻って来た。

許可が下りたので、誰からでも良いので一人ずつ来いとの事。


「私は一番最後だな」


腕を組んでいるセレバーナは、ソファーに深く座ったまま他の少女達を見渡した。


「じゃ、まずは私から」


イヤナが立ち上がり、診察室に行く。

恰幅が良く顔中髭だらけの先生が待っていた。


「こんにちは。なぜか私も診察を受ける事になっちゃいました」


三つ編み赤毛少女はが笑顔で挨拶する。


「はい、こんにちは。そこに座って」


「健康診断は初めてなので、緊張します」


イヤナは、ドキドキしながらもじゃひげ先生が勧めた丸椅子に座る。


「ははは。リラックス、リラックス。すぐ終わるから」


目や口の中を調べられ、胸や背中に聴診器を当てられる。

顔色や爪の色も見られる。


「痛い所や気になる所は有る?」


「全然有りません。元気です」


「そうか。君は大丈夫そうだ。健康その物だ」


「ありがとうございます!」


次に診察室に入ったのは、ペルルドール。


「宜しくお願いいたします」


金髪美少女の礼儀正しさに苦笑いするもじゃひげ先生。


「俺が王女様の診察をする事になるとは思いもよりませんでしたよ。座ってください」


「はい」


イヤナと同じ診察が行われる。

顔色とか目の下のクマとかに疲労の様子が見て取れるが、王族が田舎の村に来たら環境が違い過ぎて疲れるだろう。


「痛い所や気になる所は有りますか?」


「いえ。全く」


「夜はちゃんと眠れていますか?」


「時々寝付きや寝起きが悪くなりますが、体調を崩すほどではありません」


「そうですか。なら問題ありません。畑仕事に疲れたら、無理せずにお師匠さんやお仲間に言って休ませて貰ってください」


「はい。ありがとうございます」


次はサコ。


「君か。骨折は大丈夫かい?」


「はい。違和感も有りません。完全に治りました」


「そうか。今、骨折で入院している男が居るんだが、いい年こいてビービー泣いて情けないったらない」


「あはは……」


愛想笑いするサコも一通り診察を受ける。


「はい、君も健康そのものだ。ただ、筋肉を鍛え過ぎると骨が負けて折れる事も有る。バランスに気を付ける事」


「分かりました。ありがとうございます」

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