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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第五章
147/333

6

「セレバーナ。おやつにしよう」


イヤナがドアをノックし、大き目の声でそう言った。

普通の音量でも十分聞こえると何度も伝えてあるのに、彼女はいつも大声を出す。

ドア越しで話し掛ける時にそうなってしまうのは気持ち的に分かるので、今は口うるさく修正したりはしない。


「ああ。すぐ行く」


手紙を丁寧に封筒に戻し、適当な引き出しに仕舞う。

これについては後でゆっくりと考えよう。


「身体も大事だが、今は野菜と魔法の知識に集中する方が重要だしな。修行が終わったらユキ先生に返事でも出してみるか。いつになるか分からんが」


上着を着てドアから出ると、笑顔のイヤナが待っていた。

じっとセレバーナの顔を見ている。


「どうした?」


「寂しそうな顔をしている。返事にも元気が無かった」


「そうか?顔に出してしまうとは、私もまだまだだな。……何をする」


ツインテール少女をいきなり抱き締めるイヤナ。

背が低いセレバーナの頬がイヤナの胸に埋まる。


「大丈夫。私達が居るよ。何か有っても、きっとお師匠様が何とかしてくれるよ」


「ふむ。ここに来る前は限界近く飢えた生活をしていたと言っていたのに、イヤナは意外におっぱいが大きいな」


「ぅえへっ?そう?」


予想外の言葉に驚き、変な声を出すイヤナ。


「私には胸が無いからな。もしも私の心臓が本当に悪く、胸を切り開く手術をする事になったとしても、邪魔にならなくて良い」


イヤナから離れたセレバーナは、自分の胸を軽く擦った。

引っ掛かりが全く無い。


「そう思ったら、ちょっと落ち込んでしまっただけだ。少しくらいは膨らんで欲しい。私だって女だから」


「まだまだこれからだよ。きっと成長する」


ガッツポーズを取るイヤナの胸を凝視するセレバーナ。

継ぎ接ぎだらけの質素なドレス越しでも、腕を上げる拍子で揺れている様子が見て取れる。


「期待しよう」


二人並んで石造りの廊下を歩く。

セレバーナは、目線の高さに有るイヤナの胸をまだ見詰めている。

程良く膨らんでいる部分が歩く振動で揺れている。

下着を着ていない様だ

恐らく何年も同じドレスを着続けているせいでサイズが小さくなり、胸の形が見て取れる様になっているんだろう。

いや、違うな。

脇の部分を良く見ると、裁縫した跡が有る。

胸の成長に合せて自分でリファインした結果、胸の膨らみを包む乳袋みたいになったのか。

だから下着を着けなくても揺れが気にならないんだろう。


「しかし、その大きさでノーブラだと形が崩れると聞くぞ。今は若くて膨らんでる最中だから良いかも知れないが」


「だって下着って高いんだもん」


「ふむ。羨ましい悩みだ。揺らすと垂れるとも聞くから何とかした方が良いと思うが……。他人事ながら、余計なおせっかいをしたくなるな。どうした物か」


「でしょう?気になると心配になるんだよ。だからしつこく病院に行けって言っちゃう」


イヤナは胸を見られている事を全く気にせずに笑む。


「なるほどな。物凄く納得した」


リビングに入った途端、隅に置いてある藤椅子に座っているペルルドールの胸を凝視するセレバーナ。

その視線に驚いたペルルドールが自分の身体を見下ろす。

薄緑のワンピースに汚れは無いし、虫がくっ付いてもいない。


「な、何ですの?わたくしに何か気になる事でも?」


「ペルルドールは、勿論ブラジャーを着けているよな?」


「へ?ええ、はい。それが何か?」


突然で予想外の質問に戸惑う金髪美少女。


「そうだろう。ヴァスッタで踊り狂った時、結構な迫力だったからな。胸が」


「あの時の事は酔っていて覚えていないんです。もう言わないでください」


ペルルドールは胸を腕で隠しながら顔を赤くする。

しかしセレバーナは平然と腕を組む。


「イヤナがノーブラでな。美容的な意味で問題が有ると思うんだ。君の下着を貸せないかな?カップはともかく、アンダーが違うから無理かな?」


「何の話?」


湯気立つポットを持ったサコがキッチンから出て来た。

今日も運動がし易いシャツとズボンと言う格好だ。

その胸にも鋭い視線を送るセレバーナ。


「サコの胸は目立たないが、どうしてる?」


「え?邪魔にならない様にサラシを巻いてるけど……」


セレバーナは「ふむ」と唸って不機嫌そうに口をへの字にする。


「成長期に胸を潰しているのも問題だ。全く、女だらけだと言うのに色気が無いな」


「何の話ですか?」


シャーフーチがリビングに入って来た。

胸を抱える様に隠しているペルルドールが師匠にジト目を向ける。


「普段は部屋に籠っているくせに、何と言うタイミングで来るんですか。女同士の話に興味を持たないでください、気持ち悪い」


「おやつだって呼ばれたから来たのに、いきなり罵倒されるなんて……」


情けなく肩を落とすシャーフーチ。


「まぁまぁ。ほら、お師匠様。セレバーナが極東のレシピを手に入れてくれたから、今日は桜餅を作ってみたんですよ。お茶も緑茶です」


イヤナが取り成す様に明るく言う。


「いつもの事だから良いですけどね。――これは美味しそうだ」


シャーフーチは円卓に並んだ緑とピンクの和菓子を見て機嫌を直す。

早く食べたいのか、大人げなく一番に上座に座る。


「みんなも座って。今、お茶を淹れますからね」


「ありがとう」


笑顔のイヤナに礼を言ったセレバーナは、仲間達と一緒に円卓に着いた。

心配事は有るが、今現在、毎日が充実している。

それで良い。

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