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「生活環境が変わった事によるストレスと、栄養状況の悪さが原因だね」
最果ての村のただ一人の医者、もじゃひげ先生が言う。
恰幅が良く、顔を覆う白髪交じりの髭のせいで年齢不詳だ。
年寄りではないが、若い感じでもない。
診察室は消毒薬臭くてとても清潔だが、先生が着ている白衣は年月を感じさせる染み汚れが目立つ。
「ほらな」
制服の上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になって丸椅子に座っているセレバーナは、その後ろに立っている付き添いのイヤナの顔を見上げてドヤ顔になった。
初めて見る小生意気そうな表情だった。
「じゃ、セレバーナは大丈夫なんですか?健康そのものなんですか?」
イヤナが訊くと、先生は髭を撫でながらうーんと唸った。
「封印の丘に来た君達四人の事は良く聞いているよ。セレバーナちゃんは神学校から来たんだよね?」
「はい」
「なら、ちゃんとした医者による毎年の健康診断を受けていたよね。幼い頃から心臓の不調を感じていたって言ったけど、診断で問題は無かった?」
「全く」
「だったら、やっぱりストレスと栄養不足を解消すれば良いと思う。思うけど、健康そのものかと訊かれたら首を傾げちゃうんだよね」
「どう言う事ですか?」
イヤナが前屈みになって聞くと、もじゃひげ先生は自分の髭を撫でた。
「だって、自覚が有る訳でしょ?どんな時にそうなるの?」
「神学校に居た時は、本棚の整理をした時等に息苦しさを感じる事が有りました。遺跡に来た後は、畑で力仕事をした時等に」
無表情で答えるセレバーナ。
「運動して心拍数が上がった時、と受け取っても良いかな?」
「野菜の苗を何往復も運んで汗を掻いた時、と訂正したいですが、それは心拍数に関係していますでしょうか」
「しているだろうね。苦しくなると立っていられない?」
「座ったり横になったりすれば当然楽になりますが、出来ない時は我慢します。その程度です」
「ふーむ」
もじゃひげ先生はカルテに何かを書き込む。
無言の間が出来たので、イヤナが小声で言う。
「だから最初の頃は畑仕事を嫌がってたんだ。動くと苦しくなるから」
「違う。単純に出不精なだけだ。本を開けば自分の実になるが、運動は時間の無駄でしかなかったからな。神学校では」
先生がペンを置いたので私語を止める少女達。
「取り合えずは健康だから、薬とかは必要無いでしょう。日常生活も今まで通りで大丈夫だろうけど、心臓に負担が掛かる様な運動は控えてね」
「はい」
立ち上がったセレバーナは、脇に置いておいた上着を着る。
その様子を見ていたもじゃひげ先生は、おもむろに口を開く。
「セレバーナちゃんは、いくつ?」
「十四です」
「イヤナちゃんは?」
「十五です」
もじゃひげ先生は、小さな目をしばたたせながら髭を撫でた。
「何でしょう。何か気になる事でも?」
セレバーナの金色の瞳で見られたもじゃひげ先生は、髭を撫でていた手を下す。
「王女様は国民全員が十三歳だと知っているが、大きい子は?」
「サコは私と同じ十五です」
イヤナが笑顔で答える。
「そうか。いや。年齢は近いのに、色々な個性が有るなぁと思ってねぇ。面白いでしょう」
薄く笑うセレバーナ。
「とても面白いですね。では、ありがとうございました」
診察室から出た二人の少女は、中年のナースに料金を払ってから帰路に着いた。




