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「はぁ、食った食った。寝る」
満腹になったセレバーナがソファーで横になった。
始めからそうするつもりだったのだろう、すでに靴を脱いでいる。
「食べた後にすぐ寝ると太っちゃうよ」
残っている物を食べ、空になった皿を積み上げているサコが言う。
「構わないさ。逆に脂肪を付けないといけないくらいだ。遺跡に帰ったら嫌でも痩せてしまうからな」
「そりゃそうだ。食い溜め食い溜め」
満腹で背凭れに寄り掛かっていたイヤナが復活し、残り物を別腹に入れ出す。
その隙に熟睡するセレバーナ。
そんな仲間達を眺めていたペルルドールは、食後のお茶を啜ってから一区切りの気持ちを込めた吐息を洩らした。
「では、セレバーナが目覚めたら帰りましょうか。プロンヤ。帰る準備をお願いします」
「畏まりました。団員と共に帰りの食糧等の買い出しに行って参ります。サコ様、姫様の警護をお任せします」
「はい」
着替える暇が無くて未だにセクシーな格好をしているプロンヤは、一礼の後に退室した。
「プロンヤがあんな事を言うなんて珍しい」
驚くペルルドール。
警護団長と言う立場なので、王女の警護を他人に任せたりしない筈なのに。
「騎士様達と族長さんの解放に行った時、賊との戦いっぷりに感心されて。なんか気に入られてしまったみたい」
「ふぅん。サコってやっぱり凄いんですねぇ。その働きで彼等に認められるとは」
「謙遜したいけど、騎士様に認められると自信になるよね。素直に喜ぶ事にするよ」
サコは照れながら頭を掻く。
「それに引き換え、わたくしは……」
生まれながらに与えられた権力を使っているだけだ。
努力をしていないし、真実にも辿り着けていない。
今回の事件も、無かった物として永遠に失われてしまった。
結果だけを見れば大成功な旅だったが、どうしても不満感は拭い切れない。
「どうしたの?ペルルドール。溜息なんか吐いちゃって。ゲェプゥ」
「なんでもありませんし、食べながらゲップを吐いているイヤナは行儀の悪さを改めて欲しいですわ」
沢山有った御馳走は、少女達の胃袋に綺麗サッパリ収まった。
食後のまったり感に包まれながら子供みたいな寝顔のセレバーナを眺めていると、ようやく族長が帰って来た。
その後ろには三時のおやつを持ったメイド達が居る。
「ペルルドール様。街の者達が感謝の意として祭を披露したいと申し出ておりますが、いかがいたしましょう」
「感謝の意、ですか」
「街を救ったプリィロリカの再来だと皆が称えております」
「やめてください。作戦を止められたのは仲間達のお陰です。わたくしだけの功ではありません」
ペルルドールは仲間達に笑顔を向ける。
イヤナとサコは照れ、セレバーナは爆睡中。
「プリィロリカと言えば、私達、お祭の資料館を見学したんですけど」
イヤナの言葉を聞いたユーリが破顔する。
「民族資料館を」
「本当にあそこに飾ってあった衣装で踊るんですか?」
「はい。踊り手の家々に伝わる独創的なデザインも見所です。今日は急なので山車は出せませんが、精霊の舞いをぜひペルルドール様にと」
太い眉を上げて「勿論お仲間達にも」と言うユーリ。
「ねぇ、ペルルドール。折角だから見てみたいよ。良いでしょ?」
「イヤナがそう言うなら……良いですか?サコ」
「私も見てみたいかな。でもセレバーナは……」
応接間に居る全員が黒髪少女に目を向ける。
完全に熟睡しているらしく、反応が無い。
「文化を見たいと仰っていましたし、多数決、と言う事で納得して貰いましょう。分かりました。精霊の舞い、喜んで見学させて頂きます」
「ありがとうございます。祭の関係者全員、気合を入れて準備を始めるでしょう」
深々と頭を下げたユーリが下がる。
再び仲間だけになったので世間話を始めるペルルドール。
「貴女達、民族資料館に行ったんですか」
「うん。国だった頃の地図とか、遺跡のリビングに敷かれてる絨毯に似た模様の旗とかが飾ってあったよ。ペルルドールそっくりな人の絵も有った。ね?サコ」
「さっきユーリさんが言ってた、プリィロリカって人の絵」
「へぇ。そちらの絵はちゃんとわたくしに見えるのですか。その方は、わたくしの曾お婆様なんだそうです」
「ほほー。曾お婆ちゃんってのは、お婆ちゃんのお母さんの事だよね?だから似てたのかー」
納得したイヤナとサコは、メイドによってテーブルに並べられた色んな種類のケーキに手を伸ばした。
勿論セレバーナの分は残して置くつもりだが、その消費スピードは先程の昼食よりも早かった。




