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「ただ、一週間ほど全員一緒に行動させてみたらどうかな?と思いました。貴女達は、お互いの事を全く知らない訳ですから」
円卓の上座に座っているシャーフーチがそう言うと、派手な籐椅子に座っているペルルドールが頷いた。
王女として躾けられているせいか、足を組んだり肘掛けに寄り掛かったりしておらず、姿勢が良い。
「つまり、わたくし達が仲良くなる様な生活をさせたい、と言いたい訳ですね」
「そうです。一週間も有れば、誰がどんな人間か分かるでしょう」
「仰る通りですわね」
「早速、明日にでも下の村で仕事を探してみてください。条件は、四人一緒に出来る仕事。魔法が使えなくても、仕事は沢山有るでしょう」
「春ですしね」
切ったパンをバスケットに盛ったイヤナがリビングに戻って来た。
そのバスケットを鍋の横に置く。
「私の実家は農家でしたから、春の農作業の忙しさは良く知っています。ただ、儲けは少ないと思いますけど」
「構いません。まずは四人がお互いを知る事が目的ですから」
「儲けと言えば」
ふと思い出したセレバーナが円卓の縁に手を置き、テーブルクロスの皺を伸ばした。
「弟子入りの際の支度金を用意して来たのですが、入学金の様な物は必要無いのですか?」
「そうそう。私も数ヵ月分くらいの月謝は持って来ました」
サコは腹の辺りを軽く叩いた。
そこにお金を入れている様だ。
「え?お金が必要なんですか?もう弟子入りしちゃってますけど、私、無一文です」
イヤナが慌てる。
ペルルドールは相変わらず下々の話題には興味を示さない。
しかし、意外にもシャーフーチはトンチンカンな事を言い出した。
「支度金や月謝とは、つまりは仕事に対する報酬みたいな物ですよね。師弟関係でもそう言った物が発生するのですか?」
瞬間的にサギまがいの悪だくみを思い付いたセレバーナだったが、先にサコが口を開いた。
「発生しますよ。師の技を教えて貰う謝礼として、弟子が払います。例外も有りますけど」
セレバーナは内心で舌打ちをした。
ここでシャーフーチを騙せれば、師匠から支度金をふんだくれたのに。
プロスポーツ等では、弟子の立場で給金が貰える例も有るし。
後でバレると自分の立場が悪くなりそうなので、結局は黙っていたと思うが。
「そう言った習慣も有るのですか。知りませんでした。なので、お金は頂きません。そのお金は貴女達の生活費に回してください」
イヤナが安堵の笑みを零す。
それを見たシャーフーチが自分の懐を探り出した。
「しかし、無一文はさすがに不都合が大きいかな。女の子は色々と入り用でしょう?」
「あ、大丈夫ですよ。貧乏には慣れています。何とかなります」
イヤナは、貧しい日々を元気に生きて来た農民らしい屈託の無い笑顔を見せた。
「例えば村での仕事中にお菓子を買う流れになった場合、一人だけ何も買わないでは気まずいでしょう。他の三人から奢って貰うのも」
「良く有る事ですよ。そんなのいちいち気にしていられません」
「健気ですねぇ。こう言う善良な農民の暮らしが良くならないのは政治が悪いからです」
と言ったシャーフーチは、横目でペルルドールを見た。
当の金髪美少女は意味が分からずキョトンとしている。
「自分の弟子に嫌味を言ってどうするんですか、シャーフーチ。無意味が過ぎます。王家が嫌いなのは分かりましたが」
セレバーナのもっともなツッコミを受けたシャーフーチが拗ねた顔をした。
ツインテールの少女は、そんな師匠に無表情を向ける。
「男が拗ねても気色悪いだけです。止めてください」
「手厳しいですねぇ、セレバーナは。そんな訳で、朝から良く働き、夕飯まで作ってくれたイヤナには、特別にお駄賃をあげたいと思います」
「え?」
思ってもいない展開に、イヤナは驚きの表情を隠せない。
「特別扱いでも、施しでもありません。私の弟子となる前の仕事に対する報酬です。セレバーナ、サコ、ペルルドール。そう良い事で宜しいですか?」
三人の少女は揃って頷いた。
代表としてサコが口を開き、気持ちを言葉にする。
「イヤナには受け取る権利が有ると思います」
「そ、そんな。悪いですよ。私がやりたいからやっただけなのに」
「今回だけですから。少ないですが、どうぞ」
シャーフーチは立ち上がり、イヤナの手を取って銀貨一枚を握らせる。
「こ、こんなに?」
銀貨一枚は、神学生が出来るバイトの日給くらいの価値だ。
報酬として順当なのに、イヤナは目に涙を溜めて感謝した。
「ありがとうございます、お師匠様!このご恩は一生忘れません!」
「大袈裟な……。使い切ったら忘れてください。さぁ、夕飯にしましょう。冷めたら勿体無い」