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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
139/333

32

「では、わたくしとヴァスッタ族の連名で書類を作成してください。以上です」


事後処理が終わり、解散となった。

大人達は王女に一礼してから退室して行く。


「はー、終わった終わった。一件落着だ」


王女の脇で凛々しく立ち、テレパシーで参謀役をやっていたセレバーナは、二人きりになった途端近くのソファーに座った。

神学校の制服はスカートなのに大股を広げているので見苦しい。

まぁ、気持ちは分からなくもない。

ペルルドールも一人きりだったら似た様な格好になっていただろう。

とにもかくにも、疲れた。


「やっと終わったね。ご苦労様」


イヤナが応接間に来た。

続いてサコも入って来る。


「セイカさんはどうした?」


セレバーナが脚を閉じながら訊くと、イヤナが玄関の方向を指差しながら応えた。


「一緒に来たけど、玄関で別れた。長時間薬浸けだったから、色々と検査するって。見た感じは元気だから大丈夫だろうけど、念の為に」


「彼女の扱いはどうしましょう」


ペルルドールが小首を傾げると、セレバーナは大あくびをした。


「故郷に戻るのならプロンヤさんに、この街に移住するならユーリさんに頼むしかないだろう。遺跡に帰らなければならない私達にはどうにも出来ん」


「彼女も被害者だから、保護される権利?みたいな物が有るしね。本当、何事も無くて良かったよ」


立ったままでいるイヤナが笑顔でそう言うと、ユーリが戻って来た。


「昼食の準備が整いました。どうぞ、ごゆっくり寛いでください」


事の後始末の為に街の方に出掛けなければならないので家を開けると言い残したユーリが退室すると、大勢のメイドが御馳走を運んで来た。

肉と魚が殆どで、野菜の類は豆とポテトしかない。

最後にプロンヤが入室する。


「調理場は私が監視し、毒見も済ませて有ります。どうぞご安心を」


「毒と言えば、私達に薬を盛ったメイドはどうなりましたか?」


セレバーナが訊くと、機械の様に動いているメイド達が一瞬だけ動揺した。

応えたのはプロンヤ。

若くして護衛団長になった有能な女性なので、情報収集はそつ無くこなしている。


「実行犯なので牢の中です。薬を盛る判断が異様に早かったとセレバーナ様が証言されたので、それがなぜなのかを調査する必要が有ります」


それを聞いたペルルドールは、料理を眺めながら口を開く。

良い香りのせいで腹が鳴りそうなので、はしたない音がしない様に王女の精神力で抑え込む。


「上に命令されただけでしたら、減刑をお願いしてください。出来るなら無罪に。共犯なら然るべき処置を」


「は」


メイド達が退室すると昼食が始まった。

ソファーに座ったイヤナとサコは凄い勢いで肉の皿を空にして行く。

上座のペルルドールも行儀良く鶏肉の唐揚げに手を伸ばす。


「プロンヤさん。ひとつ質問しても宜しいですか?」


セレバーナは、料理に手を付ける前に立ち上がる。


「何でしょう?」


「今回の殲滅作戦の事を誰から聞きましたか?ペルルドールの爺が偶然聞いたからと仰られましたが、それはウソですよね?」


入り口ドアの前に立っている質素でセクシーなドレスを着た女騎士は、ツインテール少女の金色の瞳で睨まれた。


「なぜウソだと?」


「そんな偶然は有り得ない。有ったとしたら、この国の情報管理はズタボロです。機密情報が漏れている訳ですから」


「なるほど。しかし、それは言えません」


「疾しい事がお有りで?」


セレバーナは、ゆっくりとプロンヤに歩み寄る。

その様子に警戒感を見たプロンヤが表情を引き締めた。


「もしや、セレバーナ様は私をお疑いに?」


「はい。貴女が黒幕の一味なら、問題無く極秘の殲滅作戦を知り得ますから。貴女の潔白を晴らす材料をくださいませんか」


「きっと愛の力で知り得たんですわ。ドナがプロンヤだけに打ち明けたんですわ」


ペルルドールは、白身魚のバター蒸しを食べながら青い瞳を輝かせる。

その言葉を否定するプロンヤの頬が僅かに赤くなる。


「違います!……仕方有りません、ご内密にお願いします。この事が公になると、また別の責任問題が発生しますので」


「決して洩らしません」


身を屈めたプロンヤは、低身長なセレバーナの耳に囁く。


「実は、ドナ・ラックソーマンの母、姫様の爺やの義理の娘からです」


「ふむ」


「ドナ・ラックソーマンは、母親だけに作戦の内容を話してしまったのです。もしかすると今生の別れになるかも知れないからと」


「なるほど。ドナさんは母親を信用して機密情報を漏らした訳ですね。それを、なぜ貴女に?」


「他に頼れる者が居なかったからだと思いますが」


「親公認、と言う訳ですね?」


「セレバーナ様まで姫様の様な事を!意味が良く分からない作戦に参加する息子が死ぬ覚悟をしているから助けてくれ、とお願いされただけです!」


微笑むセレバーナ。


「ふふ、冗談ですよ。分かりました。これを。貴女が黒幕の一味なら渡せない物ですが、貴女を信用しましょう」


セレバーナは、神学校の制服の下に隠していた紙の束をプロンヤに渡す。


「これはこの族長の家に隠されていた殲滅作戦の指示書です。ドナ・ラックソーマンの解放が困難だった場合の切り札になるでしょう」


「ありがとうございます。有効に利用させて頂きます」


「そして、ペルルドール」


踵を返したセレバーナは、金髪美少女に歩み寄りながら内ポケットを探った。

そして二つ折りになっている紙を取り出して見せる。


「この紙は、やはり君がくれた物だった。とても助かった。指示書が手に入ったのは君のお陰だ」


「ふぇ?」


ペルルドールは、ナプキンで手を拭いてからその紙を受け取る。


「これは……出発の時に見せて頂いた謎の暗号?ですが、やはりわたくしには身に覚えが無いんですけど」


「今はまだそうだろう。だが、君は必ず真実に辿り付ける。その紙の意味が分かった時にな。それまで大切に保管しておく事だ」


セレバーナは無表情でソファーに戻り、おもむろに豚カツのサンドイッチを掴んだ。

そして小さな口を大きく開けて齧り付く。

溢れる肉汁が舌を包み、その旨みが笑みを誘う。


「どう言う意味ですの?」


訊いても金色の瞳を動かすだけで食事を中断しないセレバーナ。

まぁ、今は御馳走の方が優先か。

仕方なく、ペルルドールも食事に集中した。

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