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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
137/333

30

串に刺さった焼肉を持ったイヤナが戻って来た。


「あれ?二人共、廊下で何をしてるの?」


「セレバーナも眠ってしまったので、外でお話を」


「ふーん……」


廊下で立ち止まったイヤナは、客室のドアを見詰めながら串肉を食べ始めた。

香辛料の匂いがきついので、寝てる人の横で食事をするのを運慮したのだろう。

そんな赤毛少女から視線を外したペルルドールは、壁の染み汚れを爪先で擦る。


「プロンヤ。お姉様についてですが、何か動きは有りますか?」


「いえ、特に目立った話は有りません。全く関係有りませんが、気になる話がひとつ」


「何?」


「コンムダット高原にございますペルルドール様の別荘が小火を出しました」


聞き馴染みの無い地名に小首を傾げた金髪美少女だったが、すぐに思い出した。


「幼い頃、避暑に一度だけ利用した事が有りますわね。どうしてそんな別荘から火が出たんですか?」


「原因不明です。代々の王家の御子息が利用なさる別荘ですので、管理は万全の筈なのですが」


「そう……。今後何か有ったら、些細な事でも手紙で知らせて頂戴。最果ての村の役所留めにしておけば届きますから」


「は」


串肉を食べ終わったイヤナは、小声で話している二人を廊下に残して部屋に入った。

金髪の少女は相変わらずベッドの中。

偉そうに腕と脚を組んでいる黒髪少女は壁際で椅子に座ったまま寝ている。

ゴミ箱に串を捨てたイヤナは、立ったまま窓から通りを見下ろして時間潰しを始めた。


「……ん」


一時間程した頃、ベッドの少女が吐息を洩らしながら寝返りを打った。

数分後に目を開け、寝惚け(まなこ)で家具の無い狭い部屋を見渡す。


「お目覚めかな?」


赤髪少女がニッコリと微笑む。

金髪の少女は身体を起こし、頭痛に顔を顰めた。


「う……ここは……?」


「ヴァスッタと言う、エルヴィナーサ国の南の方に有る街だ」


椅子に座っていた黒髪少女が応える。

さっきまで眠っていたのに。


「私はセレバーナ。君の名は?出来れば出身地も教えて欲しい」


「あ、私はイヤナ。よろしくね」


「私はセイカ・クルセイダ。コンムダットの街の修道院の者です。あの、貴女はマイチドゥーサ神学校のセレバーナ・ブルーライト様ですか?」


セレバーナを見るセイカの瞳は、第二王女と同じく青い。


「コンムダット修道院か。あんな所まで私の名が伝わっているとは驚きだ」


「セレバーナ様に出会えた女神様の導きに感謝します」


ベッドの上で横座りになったセイカは、胸の前で手を組み、深く頭を下げる。

椅子に座ったままのセレバーナも胸の前で手を組み、頭を下げ返す。


「君がここに来た理由を知ったら感謝など出来ないがな。だが、こうしてセイカさんと話せた事を女神様に感謝しよう」


「目覚めましたの?」


話声を聞き付けたペルルドールがドアを開けて部屋に入って来た。


「まぁ。瞳の色はわたくしと同じですわね」


「名前は、セイカ・クルセイダちゃん。顔は、似てる様な、似てない様な」


イヤナに紹介されたセイカの顔が青褪めて行く。


「ま、まさか、ペルルドール・ディド・サ・エルヴィナーサ様……?」


「初めまして、ペルルドールです。貴女、どうしてこんな所に連れて来られたのかをご存知ですの?」


「ひいぃ~!」


ベッドから飛び降りたセイカは、胸の前で手を組んだまま土下座をする様に平伏す。


「わ、私にも、良く分かりません。気が付いたら、ここに」


「君は修道院でペルルドールに似ていると噂になってはいなかったか?」


「は、はい。申し訳ござません!」


セレバーナが椅子から立ち上がりながら訊くと、セイカは床に額を付けて謝った。

質問に答えていないが、謝っているので噂になっていた事を認めたと受け取っても良いだろう。


「今回の作戦の為に誘拐され、薬漬けでここまで連れて来られただけらしいな。それならかなり衰弱しているだろう。もうしばらく横になっていた方が良い」


「い、いえ。私は大丈夫でございます。ペルルドール様の御前で横になるなど、畏れ多い……!」


土下座のまま動かないセイカ。

セレバーナは、その姿を冷めた目で見下ろしながら腰に手を当てた。

コンムダットは王家の避暑地に使われているから、他の地方よりも王族に対する思い入れが強いのだろう。


「仕方ない。後は任せたぞ、イヤナ。私達はセイカさんの為に何か消化に良い食べ物を買って来る。行こう、ペルルドール」


第二王女である自分が居ると土下座し続けるだろうから、ワンピースを翻して部屋を出るペルルドール。


「そうですわね。セイカ、お大事に」


宿を出たセレバーナとペルルドールは、近くの食べ物屋にお願いして特別に病人食を作って貰った。

プロンヤも警護として付き合う。


『セレバーナ、どこに居る?』


「サコ。ここだ。どうだった?」


妙に可愛い声で送られて来たテレパシーに反応したセレバーナが通りに出ると、大柄な茶髪少女が駆け寄って来た。


「族長さんは部族の聖地近くの遺跡に閉じ込められていた。ちょっとだけ怪我をしてたけど、無事だった。元気だよ」


腕を組むセレバーナ。


「そうか。で?彼はクロか?シロか?」


「今取り調べ中だけど、多分シロだね。何も知らないみたい。警察の人は聖地って言ったけど、あそこは普通の墓場だったよ。人気が全く無かった」


「そうか。なら書類通りだな」


「書類?」


食べ物屋の中に残って注文した品の完成を待っているペルルドールが小首を傾げる。


「族長の家の隠し部屋に有った、この街の協力者に向けた殲滅作戦の指示書だ。族長の家に隠されていたから、族長も共犯である可能性を疑ったのだ」


セレバーナは全員を手招きし、小声になって説明する。


「予定では、族長が君を殺し、実際に殺されるのはセイカさんだが、そして髭のおじさんが乱心した族長を殺すって手筈だった」


「族長も危なかった訳ですか……」


ペルルドールは眉間に皺を寄せる。


「君が暴走したお陰で、結果的には彼を助けた事になるな。あのまま何事も無く朝が来ていたら、彼は族長殺害の指示を出していただろう」


「髭のおじさんは殲滅作戦は起こらないと思っていた様ですが」


「彼は自分が次の族長になると思っていた。乱心した現族長を誅した英雄としてな。だから殲滅の知らせは寝耳に水だった。信じられなかったのも当然だ」


「つまり、彼も騙されていたわけですか……」


「王都側の思惑は当然ながら書類に書かれていなかったから分からんが、朝の状況を見る限りは、王都側は本気で殲滅する気だった」


セレバーナは腕を組む。

気だるそうなのは睡眠が足りていないせいだろう。


「族長が死ねば、当然ニュースになる。そこでペルルドールの死も発表される。そうなると、王都から王女の状態を確認する為に軍が来る」


「どうして軍が?その場合、第二王女護衛団が動くのでは?――あ、だから爺の孫が殲滅部隊の部隊長に?護衛団とは無関係ですが、わたくしと面識が有るから」


「違う。王都の軍が来る理由は、街の人間がデモを起こしたから、だそうだ。デモの詳しい理由は書かれていなかったから、後付けで考えるつもりだったんだな」


「お粗末な……」


呆れるペルルドール。


「実際には王都の軍ではなく殲滅部隊が来て、街の人とセイカさんを殺すんだがな。殲滅の首謀者は狂人なのだから、多少の時間のずれは気にする必要は無い」


「冷静に考えれば矛盾だらけですわ。髭のおじさんは、王都の軍が来る事に疑問を持たなかったんですの?」


「細かい事はどうでも良いんだ。どうせ全員死ぬんだから。殲滅部隊の方の参加者も、髭のおじさんもな。死人に口無しで無理を押し通せば事は終わる」


「なんて酷い……」


その会話にサコが割り込んで来る。


「ねぇ、みんな。取り合えず族長さんの家に行かない?色々と話し合いたいらしいし」


「話し合い、か。事情聴取ならば行かなければならないが、セイカさんを動かせるかどうか」


セレバーナはイヤナ達が残っている宿を見上げた。

もう目覚めているのでセイカを一人残して行っても良いが、それは少々無責任な気がする。

遠方から誘拐されて来た被害者を助けたのなら区切りが付くまで面倒を見るべきだ。


「話し合いが終わったらお昼をご馳走してくれるらしいよ。夜にも何かしてくれるみたい」


「ふむ。もう薬を盛られる心配も無いし、セイカさんを動かせるなら行ってみるか。族長の家なら良い医者も呼べるだろうし」


タダ飯に反応するも無表情のままのツインテール少女に、セクシーな格好のプロンヤが詰め寄る。


「薬?薬を盛られる心配とは何の事ですか?」


「しまった。護衛団団長の前で言う事ではなかった。忘れてください」


「見過ごせません!説明してください、セレバーナ様!」


「サコはイヤナのところへ。君達が泊まった宿だ。この店でお粥を作って貰っているから、それを持って。頼んだぞ」


早口で言ったセレバーナは、スタコラサッサと逃げて行った。


「ええと……待ってください、セレバーナ!」


プロンヤの過剰な護衛には鬱陶しく思うところも有るので、ペルルドールも取り合えず逃げてみた。


「お待ちください!私から逃げられるとお思いですか!」


プロンヤは、少女達の倍のスピードで走って行く。

この街のドレスはスカートが短いので下着が見えていたが、それを伝えようにも、もう姿は見えない。

残されたサコは、店の暖簾を潜りながら苦笑した。


「平和って良いなぁ」

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