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神学校の制服を着ているセレバーナは、近くの定食屋に入って本日のオススメを三人前頼んだ。
プロンヤは姫様と同席は恐れ多いと遠慮しようとしたが、面倒臭いので普通にしろとセレバーナとペルルドールの両方に叱られ、渋々ひとつのテーブルに着いた。
本気で空腹なので、モタモタされると素で邪魔臭い。
「族長のユーリさんが行方不明だから、サコ達に探して貰っているのだ。この街側の黒幕はリョーロ・スーリと言う奴らしいから、そいつもな」
「誰ですの?」
小首を傾げるペルルドール。
「多分、あの人じゃないかな。ペルルドールがキレている時に会った、可愛いパジャマを着た髭の人」
「ああ、あの方……」
この街に殲滅部隊が迫っている事を知らせた時に、避難の準備が出来たと言ったあの人か。
実際には避難指示が出ていなかった訳だが。
「でも、どうしてそんなにも色々と分かったんですの?セレバーナの潜在能力だけじゃ説明出来ませんわよ」
セレバーナの潜在能力は真実の目。
見た物の本質を見抜くその能力のお陰で色々と助かっている。
「この一件にユーリさんが関わっていない事が証明されれば、おっと、来た来た」
定食屋のおばさんが注文した品を持って来た。
焼いた川魚数匹が乗った皿と、豆がたっぷり入ったスープと、パン。
「まぁ、詳しい話はサコが情報を持って帰って来てからだ。食べよう」
ペロリと定食を平らげた三人は、さっさと宿に引き上げた。
プロンヤは二階の廊下で警護をし、入れ替わりでイヤナが朝食に行った。
「ふぅん。この子がペルルドールの身代りか」
ベッドを覗くセレバーナ。
金髪の少女は未だに目を覚まさない。
「あんまり似てないと思いますけど」
「どうせ殺すんだ、そんな事はどうでも良いんだろう。顔の形が変わるほどぶん殴ってしまえば解決だ」
「……酷い事を」
ペルルドールは嫌悪感を表情に出す。
「さて。少し眠っても良いか?私にも薬を盛られた上にあんまり寝てないから辛い。満腹になったから余計にな」
「ベッドはひとつしか有りませんから、この子と一緒に眠りますか?」
「いや。ここで良い」
小さな丸椅子を壁際にくっつけたセレバーナは、気だるそうにそこに座った。
そして腕と脚を組み、壁に凭れながら目を瞑る。
そのまま動かなくなったので、その姿勢で眠ってしまった様だ。
「……器用な子」
呆れた風に苦笑したペルルドールは、眠る二人を残して廊下に出た。
「プロンヤ。貴女はそんな格好で何をしていたの?」
眠りの邪魔にならない様に小声で訊く。
「は。セレバーナ様に言われ、街中に不審人物が居ないか探っておりました」
「で?」
「ご報告申し上げる様な事は、特にはございませんでした」
「そう……。ドナ・ラックソーマンは王都で軟禁されているそうなの。早く帰って彼の無事を確かめて」
「は。サコ様と部下達が戻り次第、直ちに」
ペルルドールは、プロンヤの頬が微かに染まったのを見逃さなかった。
「貴女、まさか……」
「?」
「あー、なるほど……だからそんなに必死でしたのね……」
勝手に納得したペルルドールが頷く。
王女は昔から恋愛話が大好きだった事に気付いたプロンヤは、慌てて否定する。
「違います、姫様!彼は、本当に将来有望で、だから……」
「第二王女付きの爺の孫と第二王女護衛団団長の恋。素敵じゃないですか」
「あうあう……」
こうなるとペルルドールは聞く耳を持ってくれない。
王女相手なので、怒って勘違いを正す事も出来ない。
「顔が真っ赤ですよ、プロンヤ。――何にせよ、貴女が知らせてくれたお陰で一人も死なずに済みました。ありがとう」
王族スマイルを前にした女騎士は、セクシーな格好をしている事を忘れて気を付けをした。
「いえ。ペルルドール様がこうして動いてくださったお陰で、何事も無く済んだのだと思います。感謝をするのは、私共です」
「ドナ・ラックソーマンが無事かどうかはまだ分かりませんから、感謝するのはまだ早いでしょう。それに、解決したのはセレバーナですし」
そう言ったペルルドールは、自分の身体を見下ろした。
着替えのワンピースを何着か持って来ているので、護衛団従者の馬車に戻る余裕が有れば着替えたい。
お風呂にも入りたい。




