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殲滅部隊は広範囲に展開しているので、作戦の変更を知らせるには伝令兵が馬を走らさなければならない。
撤退するにも手間と時間が掛かる様だが、このまま放置しても問題は無いだろう。
「ところで、お友達とは誰の事ですの?」
危機が去って安堵の吐息を洩らしたペルルドールが小首を傾げる。
するとセレバーナの声でテレパシーが届いた。
『君の死体になる予定だった子だ。君達で迎えに行ってくれ。私はサコの方に行って来る。では、後で会おう』
頭の中のセレバーナの気配が遠ざかって行く。
「わたくしの死体になる予定の子……?もしや、殲滅後に族長の家で見付かるわたくしの死体を、殲滅部隊が持って来ているんですの……?」
「あ、騎士様達が帰って行くよ。友達を迎えに行こう」
先に歩き出したイヤナに続くペルルドール。
「はい」
殲滅部隊が展開していた辺りまで行くと、一人の金髪少女が倒れていた。
敷かれた毛布の上で横になっている。
背格好はペルルドールと同じくらいで、豪華なドレスを着ている。
死体かも知れないので恐る恐る近付いてみたら、胸を上下させて呼吸していた。
良かった、生きている。
眠っているので良く分からないが、王女の死体として王都に持ち帰る作戦だったらしいので、顔立ちはペルルドールに似ているのだろう。
揺すっても叩いても起きないので薬で眠らされているらしい。
「仕方ない、私が背負うか。えっと、私とサコが泊まった宿に連れて行けば良いかな」
「そうですね」
眠る金髪少女を背負ったイヤナと共に街の方へ歩き出すペルルドール。
「結局、真実は……」
「ん?何?」
ペルルドールは朝日に顔を向けて溜息を吐いた。
今日も良い天気になりそうだ。
「色々と大騒ぎしましたが、結局は何も分からなかったなぁ、と」
「でもさぁ、楽しかったよ。冷や冷やドキドキで」
イヤナは朗らかに笑う。
そののんきさに釣られて微笑むペルルドール。
「楽しかった、ですか。貴女と言う人は、なんともはや。しかしまぁ、ヴァスッタ族が無事で良かったです」
「うん!――でも、ひとつだけ残念な事が有るんだよね」
「何ですの?」
「勇者様が封印の丘に来た時の事、覚えてる?」
「勿論。今回の騒ぎも、それが原因みたいな部分もありましたから」
「そうだったんだ。んで、あの時も、ペルルドールは魔物の前に立ち塞がったよね。今回もあの時も、私の言う事を聞いてくれなかった」
「命懸けでないと殲滅部隊は止まりませんでしたから、仕方が無かったんです」
「そうだったんだろうけどさ。でも、なんて言うか、ペルルドールはその時から成長してないなぁって思っちゃった。おんなじ事してるなぁ、って」
「……はい。王位継承者が博打で行動したらいけませんよね。誰に話しても恥ずかしくない立ち居振る舞いを心掛けなければいけませんよね」
「王でも何でも、死んだら終わり。死んだらダメ。みんなが悲しんで寂しくなるから。もうこんな事しないでね。分かった?」
イヤナらしい単純な言葉だが、真理だ。
だからペルルドールは少女らしい笑みになって頷いた。
「はい。もうこんな事しません。みんなで一緒に遺跡ヘ帰りましょう」
「そう言う事」
身分が月とスッポンな二人の少女は、仲良く微笑み合った。




