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『イヤナ!今どこに居る?』
セレバーナは慌ててテレパシーで語り掛ける。
『二階建ての家が見える所だよ。あそこが族長の家だよね。二人に近付けばテレパシーが繋がるかと思って』
『助かった。正面の門からペルルドールが飛び出して行く。追い駆けてくれ。君の足なら簡単に追い付けるだろう』
『はいよ。あと、サコは街の外が見える所に居るよ』
頭の中のイヤナの気配が遠ざかって行く。
「クソッ。本物の王女がこうも扱い難いとは。しかし、本当に殲滅部隊が来たのか?お前達、街の外に怪しい集団が現れていないか確認して来い」
物陰に隠れていた黒装束の男達が、髭のおじさんの指示を受けて窓から出て行った。
隠密行動専門の兵士か。
無策で動いていたらアレにやられていたかも知れない。
忌々しげに自室に戻って行く髭のおじさんを見送った透明なセレバーナは、状況が分からないまま右往左往しているメイドの群れに紛れながら腕を組む。
(さて。状況は切羽詰まっているが、最後の足掻きでもしてみようか。精霊魔法の仕組みをまだ調べられていないしな)
セレバーナは、お守りの紙片をすぐに破ける様に構えながら族長の家のあちこちを探り始めた。
(待てよ……)
二階へ続く階段を見上げたその時、制服の内ポケットに入れたままだった二つ折りの紙の事を思い出した。
階段下に隠れ、周囲に人目が無い事を確認してから、それを取り出す。
全身を透明にしたままだと文字が読めないので、それを持っている右手部分の魔法を解除する。
紙を持った右手だけが空中に浮いている形になっているので、メイドに見られたら悲鳴を上げられるだろう。
(二階。右からふたつめとみっつめの窓の間正面隠し扉。上からふたつめの引き出し二枚底。……まさか)
右手部分を透明に戻したセレバーナは、木製の階段を軋ませない様に注意しながら二階に上がる。
綺麗に磨かれているガラス窓が、一階と同じ作りの廊下に等間隔で並んでいる。
その窓の右奥からふたつめとみっつめの間に背を向け、その正面の壁を手で擦ってみた。
何でもない細い溝が切れ目になっていて、木製の壁板が横にずれそうな手応えを感じる。
メイドが雑巾掛けする程度の力では動きそうもないが、何かしらのギミックが施されているのは間違いない様だ。
「本当に隠し扉が有りそうだぞ?この紙は、一体……?」
疑問は多いが、今はギミックの解析を優先する時だ。
左右上下には動かない。
体重を乗せて押しても、溝に爪を刺し入れて引いても何も無し。
開けるには特殊な鍵が必要なのか?
ペルルドールの潜在能力なら、これもすんなり開くんだろうか。
ピン、と閃くセレバーナ。
ペルルドールの筆跡に似た文字のメモ。
ペルルドールの潜在能力であるアンロックは、時間魔法の可能性が有る。
「まさかと思っても、今の私にはそれを確かめる術は無いな。――時間が無いと言うのに、どうにも雑念が頭を過る」
窓から朝日が差し込んで来た。
壁板が夜明けの光を反射したお陰で、微かに残っている手垢が見えた。
右手が下、左手が上の形で縦に並んでいる。
その手垢を手本にして、両手を壁に押し当てた。
「このポーズは……回すのかな?」
掌が滑らない様に気を付けながら身体を傾けると微かに壁板が傾き、細い木の棒が柱に当たった様な軽い音がした。
そのまま引き戸の様に横にずれる壁板。
すると、大人一人がやっと通れるくらいの通路が現れた。
年齢より遥かに小さな体格のセレバーナなら普通に通れる。
「上からふたつめの引き出し二枚底、か。さて、何が出て来るかな」
隠し通路に入ったセレバーナは、内側には取っ手が有る壁板をそっと閉めた。




