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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
130/333

23

しばらく沈黙していたペルルドールは、暗闇の中で立ち上がった。


「わたくし、もうブチ切れましたわ!真実を知りたくて色々と我慢していますのに、分かったのはプリィロリカが私の先祖と言う事だけ」


「落ち付け。短慮は怪我の元だ」


「もうすでに殺され掛けましたわ。紅茶に入っていたのが毒でしたら、とっくに死んでいます!」


足を上げ易くする為にワンピースの裾を捲ったペルルドールは、棺桶みたいな形の座席下の収納スペースから出た。

そして勢い良く馬車のドアを開け、地面に飛び降りる。


「どこへ行く」


「わたくしにも分かりませんわ!」


大股で進み、身体全体を使って観音開きの入り口ドアを開けるペルルドール。

外は月光でそれなりに明るかった。


「ふん!」


鼻息荒く歩いて行くペルルドールに感心するセレバーナ。


「ほほう。ペルルドールのアンロックは(かんぬき)も開けるのか」


セレバーナも馬車を降り、寝癖で乱れている金髪の後を追う。

正面に古い木造二階建ての家が見える。

ここは族長の家の敷地内だったか。

小屋を出る時に入口の鍵がどうなっているのかを確認してみたら、閂を差し込む金属部分が腐り落ちていた。


「腐敗と言う事は、地面魔法か?いや、他の鍵は腐らせずに開けているから違うな。時間魔法で時を操ったのかも知れん」


閂自体はただの木の棒で、鍵ではない。

だからアンロックの対象外だ。

ならば時を進めて金具を腐食させれば、障害になっていた閂が外れる。

つまり、閂が閂でなくなる状態まで時を動かせば鍵は閉まっていない事になる、と言う理屈か。

そう考えれば辻褄が合う。


「時間魔法だったとしても、そんな使い方は可能なのか?これがコントロール出来たら、色々ととんでもない事になると思うんだが……」


セレバーナが考えている間に、ペルルドールは族長の家に乗り込んでいた。

玄関ドアの鍵も開いた状態になっていて荒ぶる王女の障害になっていない。


「誰か!誰か居ませんか!」


廊下の真ん中で立ち止まったペルルドールは、力の限り大声を張り上げた。

あちこちで電気が点き、メイド達が集まって来た。

殆どが寝巻き姿だ。

セレバーナは、念の為に透明になってから屋敷内に入った。

手にはお守りの紙片が握られている。


「こんな時間にどなたですか?」


「バカ!ペルルドール様ですよ!」


「ペルルドール様!?」


「え?」


「本当に?」


メイド達は、ザワザワと囀りながら廊下を右往左往した後、思い出した様に跪いて行く。

その様子を仁王立ちで眺めていた寝癖金髪美少女がおもむろに口を開く。


「ユーリ・ターリを呼びなさい」


再びザワついた後、中年のメイドが代表して応える。


「そ、それが、族長様は一昨日のお昼過ぎから行方不明で」


一昨日?

と言う事は、一日以上眠っていたのか。

その間セレバーナはずっと警戒してくれていたのか。


「なぜ行方不明に?そもそも、貴女達は避難している筈ではないのですか?」


「避難、でございますか?」


キョトンとするメイド達。

仲間と顔を合せ、小声で何やら囁いている。

『王女様はご乱心かな?』と言う雰囲気で、話が全く通じていない。


「これはひょっとして、避難指示が、出ていない……?」


ペルルドールは愕然とする。


「これはこれはペルルドール様。ご無事でしたか。行方不明になられたとの報告を受けた時は肝が冷えましたぞ」


髭が立派なおじさんが廊下奥の階段を降りて来た。

異様に可愛いパジャマを着ているので分かり難かったが、彼は馬車を手配した兵士だ。


「どうして貴方達は避難していませんの?」


「それは避難する必要が無いからですよ」


「どう言う事ですの?」


「今は真夜中。お話は夜が明けてからにしましょう」


髭のおじさんは跪かずに近付いて来る。

無礼者、と一喝しようと口を開いたところで頭の中にイヤナの声が響いた。


『おーい。どっちでも良いから返事してよぅー』


『どうした?』


そのテレパシーに返事をしたのはセレバーナ。

ペルルドールにも聞こえる様に念じている。


『あ、やっと通じた。良かったー。って喜んでいる場合じゃないよ。殲滅部隊が街を取り囲んだみたい』


表情を強張らせるペルルドール。

その顔が異様に怖かったのか、髭のおじさんは足を止めて訝しんだ。


『誰が見付けたかは知らないけど、かなりの人数で街を囲んでるって騒ぎになってる。夜明け前だから、一部の人だけだけど』


『予想より大分早いな。訓練された軍隊の行軍を甘く見過ぎていたか』


消えたままで族長の家の玄関付近にいるセレバーナは、東の空を見上げた。

空が白み始めている。


『奇襲作戦は夜明けか黄昏時がお約束だからな。街の人は避難しているか?』


『全然。避難しなさいって言う指示も無い。二人の交渉は失敗したんだね』


「そんなバカな事って……」


ペルルドールは、思わず絶望を声に出す。


「どうされましたか?ペルルドール様」


髭のおじさんは、怖い顔の王女を刺激しない様に柔和な表情を作る。


「この街はお終いです。殲滅部隊がこの街を取り囲んでいます。――なぜ、避難しなかったんですか?」


ガッシリとした身体を揺らして笑う髭のおじさん。


「意味の無いハッタリはお止めください。有り得ません」


「どうしてですの?」


髭のおじさんは肩を竦める。


「廊下で出来る話ではありません。奥の部屋でお話しします」


『罠だ。行くな』


セレバーナのテレパシー。

それにテレパシーで返すペルルドール。


『わたくしは真実が知りたいんです』


『彼が本当の事を喋ると思っているのか?私が彼の立場なら、絶対に言わない。彼は真実を知っているだろうから、尚更だ』


『どうして彼が真実を知っていると思うんですの?』


『避難準備が完了したと言った同じ口で避難は必要無いと言っている。これは、怪しいを通り越して、今回の騒動の中心に居ると思って間違いない』


『確かに……』


『むしろ、殲滅作戦の混乱に乗じて消される可能性が有る。この街側の人間もグルだった説が正解だったな。逃げよう。私達に出来る事はもう無い』


唇を噛むペルルドール。

人生を左右する覚悟をしてまで南の国に出張って来たと言うのに、真実を知る事の無いまま撤退しなければならないのか。


「……くっ」


情けない。

こんな緊急時でも何も出来ない自分が心底嫌になり、涙が滲む。

だが、王族は泣かない。

人前では、絶対に。


「ええい、貴方ではお話になりません!当事者に直接伺います!」


ヒステリック気味に叫んだペルルドールは、全速力で族長の館を飛び出した。

自分でも愚かだと分かっているのに、まだ諦められないから。

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