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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
123/333

16

「じゃ、進もう」


「ああ、そうしよう」


イヤナとサコは大通りを進んだ。

進むにつれて家と家の間隔が狭くなって行く。

数十分ほど歩くと広場に辿り着いた。

円状にくりぬいた様に何も無い。

こう言う場に付き物な噴水も無い。

ここが街の中心か。


「かなり広いね。祭で大勢の人が集まっても大丈夫そうだ」


サコは立ち止まり、周囲を見渡す。

確かに宿や土産物屋が何件も有る。

それらの屋根は干し草ではなく、ちゃんとした木材で出来ている。


「ここは広いけど、街自体はそんなに広くないかもね。入り口からここまで一時間くらいだったし」


ここが目的地ではないので、イヤナは足を止めずにそう言う。

それを承知しているサコも小走りでイヤナに追い付く。


「そうだね。人も多くなって来たから、道に迷う事は無さそうだ」


広場を通り過ぎると再び大通りになる。

迷わずまっすぐ進む。

こちら側の大通りには通行人が大勢居て、色々な人に挨拶された。

タダで揚げ立てのドーナッツを貰ったりもした。


「旅行者に気さくな人達だね。最初に視線を感じていたのは、祭の時期じゃなかったから何事かと思っただけっぽいね」


遊んでいる子供達が手を振って来たので、イヤナはそれに手を振り返す。

その子達が着ている服の布地も若干少ない。


「そうだね」


サコは建築中の民家を見る。

筋骨隆々の男達が数人で柱を組み立てている。

建設が好きな新婚の旦那様と言う設定になってしまったので、自然とそっちの方に興味を持つ単純な性格の茶髪少女。

この街の家は簡単な骨組みで出来ていて、数日で完成させられる仕組みらしい。

安く、そして素早く建てられるが、耐久度に疑問が有りそうだ。

そこまで考えて気付く。

もしかすると、アッサリと壊れても良いのかも知れない。

例えば、修行の場である石造りの遺跡は何百年も建っている。

その柱が歪んだり壁が壊れたりしたら、シャーフーチの様に魔法でも使えない限りは修理に手間が掛かる。

修理費用もバカにならない。

しかし安く建てられるのなら、壊れる度に建て直した方が良いだろう。

いつでも新築になるし。

そんな事を考えながら進むと、隣街との仕切りらしき小川に着いた。

とんでもなく大きな橋が掛っている。

川幅より橋の幅の方が広い。

そんな橋の欄干に黒いパンクズが置いてあった。

朝、騎士の従者達が焼いたライ麦パンだ。


「セレバーナとペルルドールはもう来ているみたいだね。そう言えば、お昼、まだだった。近くにご飯のお店は無いかな」


イヤナは軽い足取りで橋を渡る。


「こっち側には人が居ないね」


サコも周囲を見渡しながら橋を渡る。


「そう言えばそうだね。うーん。名物の食べ歩きって奴をしてみたかったんだけど」


橋を渡り切ると、再び民家が連なっている大通りになった。

民家の屋根が干し草ではなく、宿と同じ木材で出来ている。


「こっちは身分の高い人の街かな」


「みたいだね。家の造りにお金が掛かっている」


イヤナとサコは両脇の建物を観察しながら歩く。

先程までとは一転し、人通りが全く無い。

食事が出来る様な店も無い。


「おや。旅人さんかな?こんなところで何をしてるんだ?」


一軒の家から身なりの良いおじさんが出て来て、二人の少女に話し掛けて来た。

と言っても生地が少しだけ上等なだけで、ペルルドールが着ている物に比べれば十分に貧乏臭い。


「あ、いえ。お食事が出来るお店が無いかなーって思いまして」


川の向こうに居た人達とは微妙に雰囲気が違うので、イヤナは警戒されない様にニッコリと笑んだ。


「この辺りには旅人さん向けの店は無いなぁ。住宅街だからね。祭のルートにも入ってないし」


また祭と言う単語が出て来た。


「この街の人達って、凄くお祭が好きなんですね。どんな事をするんですか?」


赤髪少女の質問に残念そうな顔を返すおじさん。


「教えてあげたいのはやまやまだけど、私はこれから仕事でね。急いでるんだ。済まない」


「あ、ごめんなさい。じゃ、最後にひとつだけ。族長さんのお家はどこですか?立派な建物を見学したいので」


「彼の家はそんなに立派じゃないけど、この街で唯一の二階建てだから、向こうの方に歩いて行けばすぐ分かるよ」


おじさんが指差す方向を見る二人の少女。

目立った特徴が有るのは有り難い。


「わっかりました。ありがとうございました。お仕事がんばってくださいね」


赤毛の頭を下げるイヤナに笑みを向けてからわき道に入って行くおじさん。

直後、イヤナとサコの頭の中でセレバーナの声が響く。


『近くで話を聞いていた。二人は川の向こうに戻ってくれ。こっち側に旅人が来るのは不自然みたいだからな』


『りょーかい』


反射でつい頷いてしまったイヤナの背後で、目に見えない人間の足音が遠ざかって行った。

それは二人分の音だったので、ペルルドールもそこに居た様だ。

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