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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
12/333

12

人生の決断を迫られた少女達は無言で考え込む。

しかし赤毛の少女がすぐに沈黙を破った。


「私は難しい事は分かりませんし、戻る場所も無いので、考えなくても弟子になります。名乗れば良いんですよね?」


「制限時間はロウソクが燃え尽きるまでです。苦労する覚悟が有り、魔法使いになると心に決めているのなら、名乗ってください」


「はい。私の名前はイヤナ。これで良いんですよね?」


「イヤナ。貴女を私の弟子と認めます」


指輪のひとつを摘み上げたシャーフーチは、指先でそれを撫でた。

そうしてから魔法で空中に飛ばし、赤毛の少女の前に着地させる。


「それを指に嵌めてください。嵌めたら卒業まで取る事は出来ませんので、邪魔にならない指に」


「分かりました。じゃ」


赤毛のイヤナは、左手の薬指に指輪を嵌めた。


「私は魔法使いの弟子になりました。えへへ」


装飾品を貰うのは初めてだ。

細いロウソクの炎に翳して黄金の輝きを眺めると、イヤナと言う文字が刻まれていた。

先程表面を撫でたのは、魔法でこれを彫る為だったのか。

不思議と指にピッタリ合うサイズで、ついつい笑みが零れる。


「私も名乗ります。半端な覚悟でここに来た訳ではありませんから。私は、サコ・ヘンソン」


大柄な女も気合を入れて自分の名前を口にする。


「サコ。貴女を私の弟子と認めます」


同じ様に名前が彫られた指輪を茶髪のサコの前に飛ばす。

サコは指が太いので、左手の小指に嵌めた。


「私は名乗る前に最後の質問を。宜しいですか?」


神学生に向け、シャーフーチは頷く。


「指輪を嵌めた後に、自分の意思で弟子を辞める事は出来ますか?例えば、絶対に拒否出来ない夜這いに耐えられなくなったら」


シャーフーチは思わず噴き出してしまう。

冷静にそんな事を言う女性が居るとは。

幼い容姿と相まって、それが妙に可笑しかった。

しかし神学生は至って真面目だ。


「質の悪い例えで申し訳有りません。魔法使いへの弟子入りを決意する前に色々と調べたのです。異性が師匠だと、そう言った事案が目立つのです」


ツインテールの少女は、細いロウソクの火に息が掛からない様に少しだけ顔を横にする。


「それは魔法使いの修行だけではありません。住み込みの仕事等でも起こります。円満な養子縁組でさえも」


「血の繋がらない異性が同じ屋根の下で暮らした時に起こり得るイザコザ、と言う訳ですか。世間にはそう言った不届きな輩も居るんですねぇ」


「普通の相手なら警察に訴えるなり裁判を起こすなりすれば良いでしょうが、魔王相手では王国の法律を頼れないでしょうから」


「当然の心配ですね。用心深いのは良い事です。辞める事は出来ます。指輪を外した時点で弟子の資格を失います」


「不意の事故で外れても?」


「その程度では外れません。イヤナ、サコ。外せませんでしょう?」


話を振られた二人は、嵌めた指輪を撫でてみる。


「あれ?ホントに外れません。しっかりと指に食い込んでいます」


「本当だ。これを外すには、指ごと切る覚悟が居るかも」


イヤナとサコが指輪を外そうと踏ん張る。

しかし全く動かない。


「と言う訳です。実際には指を切る必要は有りません。心の底から辞めたいと願えば普通に外れます」


「分かりました。指を切り落とす以上の覚悟で神学校を辞めたこの身、シャーフーチに預けましょう。私の名前は、セレバーナ・ブルーライト」


重々しく名乗った神学生は、星のブローチを円卓に置いた。


「セレバーナ。貴女を私の弟子と認めます。それと、そのブローチはセレバーナが持っていてください」


「宜しいのですか?星と月の証を同時に所有するのは問題が有るのでは」


「先程も言いましたが、私はギルドに所属していません。なので、セレバーナが持つ資格を奪う必要は有りません。意味も理由も」


少し考えた後、セレバーナはブローチを懐に戻す。


「貴方が魔王だと言う言葉を信じます。ルール違反も甚だしい」


「光栄です。では、指輪を」


指輪を左手の中指に嵌めたセレバーナは、小さな手で拳を作った。


「パンチ力アップ」


セレバーナは真顔で冗談を言った。

残るはあと一人。

金髪美少女は残り少ないロウソクの火を見詰めている。


「……わたくしも質問をしても宜しいでしょうか」


「どうぞ」


「貴方に連れ去られた王女は、なぜ生きて帰れなかったのでしょうか」


シャーフーチの動きが止まる。

しばらくそうした後、ゆっくりと口を開く。


「それは、答えられません」


「答えられない理由も言えませんか?」


「はい」


金髪美少女は青い瞳をシャーフーチに向けた。

その視線に耐えられなくなったのか、シャーフーチは目を伏せる。


「巷に伝わっている歴史は真実ではない、とだけは言えます。もっとも、私から見れば、と言うだけですが」


「どう言う事ですか?」


「言えません」


金髪美少女が小首を傾げる。

訊きたい事は山ほど有るのに、どう訊いて良いか分からない。

どう訊いても、納得の行く返答が有るとは思えない。


「多分、魔王を悪とし、王家を善とする為に、その様に歴史を変えたんでしょう。良くある話です」


ツインテールの少女が話に入って来る。


「この王国は、魔王騒動が終わった後、魔族が滅ぼした小国を吸収して一気に大きくなったと言われています。その辺りに真実の鍵が有るんでしょうか」


「さて。その時代になると、私はここに封印されていますからね。最も封印が強い時なので、外の状況は知り様が有りません」


金髪美少女は再びロウソクを見詰める。

溶けた蝋が燭台に流れ落ち、その身を短くして行く。

五分もすれば燃え尽きるだろう。

弟子になった三人の少女達は黙って成り行きを見守る。


「真実は、もっとも尊い物と母は仰った」


金髪美少女は、ぽつりと呟いた。


「しかし、わたくしの周りはウソだらけ。それが嫌でわたくしはここに参りました」


ロウソクは、もう残り少ない。

一個の指輪が円卓に残されている。


「魔王である貴方の許で魔法の修行を行えば、わたくしは真実に辿り付けますか?正当な方法では知り得ない、本当の真実に」


「魔法は真理の力。真実とは違う物です。ですが、貴女が望み、道を踏み外さず、歩みを止めなければ、いつか辿り付けるでしょう」


金髪美少女は顔を上げ、決意の表情をシャーフーチに向けた。


「わたくしはエルヴィナーサ王家第二王女、ペルルドール・ディド・サ・エルヴィナーサ」


「ペルルドール。貴女を私の弟子と認めます」


そしてロウソクは四本同時に燃え尽き、リビングは真っ暗になった。

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