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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
119/333

12

四人の少女達は、五人の騎士達と共にヴァスッタに向かう事になった。

騎士の馬に相乗りして旅をしようと思っていた少女達だったが、騎士達が別の方法を提案した。

宿屋の裏に騎士達の荷物を乗せる為の馬車を停めている。

それに乗ってみてはどうか、と言ったのだ。

一階に騎士の従者が十人も泊っていて、馬車を操る人手も有る。

王女と荷物を同じ馬車に乗せる事になるが、それで行くなら今すぐ出発出来る。

時間が無いし反対する理由も無いので、お言葉に甘える事にした。

プロンヤが先頭、男の騎士達が殿の、総勢十九人の大移動。

従者達は、荷物と少女達を乗せた二台の馬車を引いて隊列の中心を行く。

そうして街道に沿って進み、適当な森の中で野宿をする。

訓練された集団だから移動速度も速く、少女達にとっては随分楽な旅は問題無く進む。

そして二度目の野宿の夜が明けた。

まだ眠っているサコとイヤナを残し、馬車を降りるセレバーナ。

太陽が顔を出しつつあるのに、外はまだ暗い。

従者達は、馬車を囲む様にして眠っている。

野党や獣を警戒する為の配置だが、黒髪の少女が動いている事に気付いていない。

まぁ、旅の間ずっと徹夜で護って貰うのも心苦しいので、寝て貰っても一行に構わない。

もう一台の馬車の中ではペルルドールが一人で眠っており、それを囲む様に五人の騎士が座っていた。

鎧を着たまま、座ったままで、順番に眠っているらしい。


(王女の護衛は大変だな)


濃い朝靄の中、セレバーナは赤い鎧の女騎士に近付く。

その気配を感じ、金髪の女騎士が目を開けた。

こちらはやはり起きていたか。


「ヴァスッタまで、あとどれくらいでしょうか」


小声で訊くと、プロンヤは立ち上がった。


「後半日程ですね。もうすぐそこです」


「ふむ……」


腕を組んだセレバーナは、目的の方向に顔を向ける。

森の木々が邪魔で何も見えないが、木に登って遠眼鏡を使えば街の端くらいは見える程度の距離だろう。


「殲滅部隊の進軍速度はどれくらいでしょうか」


「数万人規模の部隊でしょうから、我々よりも少し遅い程度かと。キチンと訓練されている部隊ならもっと早いでしょうが……」


「予定通りなら今この時に王都を出発しているはずなので、あと三日、四日か」


セレバーナは、頭の中で王都と最果ての村の位置を計算する。

現在地までの直線を引くと、我々の方が僅かに移動距離が短い。

何も考えなければ、時間的には我々の方が有利だ。

しかし殲滅作戦は極秘だとプロンヤは言った。

詳細は殆ど外に漏れず、第二王女護衛団団長である女騎士でさえも情報を掴み切れていない。

となると、雑多な冒険者を部隊に入れるとは思えない。

大々的に『大量殺人出来る人募集』なんて求人を出す訳が無いから。

出したら大騒ぎになる。

だが、信頼出来る騎士だけの部隊だと絶対的に数が足りない。

プロンヤは数万人規模の部隊だと言ったが、極秘作戦をそこまで多い人数で行うのは現実的ではない。

ではどうするか?

恐らく、政治的に利用出来る盗賊や山賊を使うだろう。

集団の悪人は意外と統率が取れていると言われているので、十分な報酬をちらつかせれば上手く使えるはずだ。

それを使わないのなら、かなり効果的な毒物を撒く作戦が予想される。

ひとつの街を総なめに出来る大量殺戮兵器が実在するかは知らないが、致死性の高い毒物自体は珍しくないので、有るのなら使わない理屈は無い。

それなら少人数でも皆殺しに出来るから。

どちらにせよ、殲滅部隊の移動速度が予想以上に遅い事は、まず無い。


「のんびりとは出来ませんが、貴女達と共に行くのは目立ち過ぎます。なので、二時間ほど馬に乗せて貰い、そこから徒歩で行きます」


セレバーナは「私達だけで」と言いながら女騎士に視線を戻す。


「なぜその様な面倒な事を」


「当然、先遣隊が街に潜り込んでいるでしょう。彼等に見付かり、殲滅部隊に連絡されると面倒だ。誰かが暗殺されても困る」


「確かに……」


「街中で移動する時は、私とペルルドールは魔法で透明になります。そして族長の屋敷に忍び込みます。そこまで行けば私達の目的は達成される」


そこから先は族長の判断次第です、と言って馬車に視線を移すセレバーナ。


「朝食を終えたらすぐに出発しましょう。さぁ、ペルルドールを起こしてください。私は他の二人を起こします」


「待ってください。私達はヴァスッタで何をすれば?」


一歩前に出るプロンヤに無表情を向けるセレバーナ。


「何もなさらずに我々を見守ってください」


「しかし、姫様にもしもの事が有ったら」


「ですから、貴女達が目立つと逆に危険なんです。敵が警戒してしまう」


プロンヤは黙る。

しかしその表情は不満そうだ。

命を掛けて王女を守るのが彼女の仕事なのだから、危険な地で何も出来ないのは歯がゆいのだろう。

勝手に動かれても困るから、セレバーナはひとつの任務を与えてみる事にした。


「どうしても何かしたいのなら、そうですね……平民に扮装して暗殺者でも暗殺していてください。絶対にバレない様に」


「難しい事を仰る。ですが……」


馬車の方を見るプロンヤ。

気配も無く立ち上がっていた四人の男騎士達が女騎士の視線を受けて勇ましく頷く。


「分かりました。私達は陰に隠れます」


「ふむ。頼もしいですね」


セレバーナはつまらなさそうに目を細める。

正々堂々を信条とする騎士が頷くとは思わなかった。

王女を守る護衛団は表沙汰には出来ない事もして来ているのかも知れない。


「念を押しておきます。我々が族長に接触する前は、何が有っても我々に見付からないでください。絶対に、です。良いですね?」


ポケットから一枚の紙片を取り出したセレバーナは、それを騎士達に見せ付ける。

自分のフルネームが書かれてある。


「これは我々の師匠から貰ったお守りです。ピンチになったら、これを使えば私達は助かります。我々の師匠が助けてくれます」


紙片をポケットに仕舞うセレバーナ。


「他の三人も持っています。ですから、絶体絶命でも私達は大丈夫。むしろ、貴女達がピンチになってペルルドールがゴネたら逆に危ない」


「なるほど。分かりました」


「では、朝食を。従者さん達はここに残して行きましょう。言わなくても分かっていると思いますが、彼等も殲滅隊に見付からない様にしておいてください」

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