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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
117/333

10

「あはは。無駄に派手になったよ。あっはは」


村に着く頃にはイヤナの髪が虹色になっていた。

自分のおさげを顔の前で振り、爆笑している。

しかしペルルドールの髪の色は全く変わっていない。


「またわたくしが一番最後……」


落ち込むペルルドールの肩を叩くセレバーナ。


「気にするな、と言いたいが、今回はのんびり出来ない。気合を入れて頑張ってくれ。今日は始まったばかりだから、まだ大丈夫だがな」


四人の少女は、雨上がりで空気が澄んでいる村の中を進む。

晴れたばかりなので、表に出ている村人の姿は少ない。

どうせまたすぐに雨が降り始めるだろうし。


「結界に飛び込んで来ていた一行は宿に泊っているんだったな」


「うん。お師匠様の指示でね。どうせなら村にお金を落とせって。騎士様ならお金持ちだろうから」


セレバーナに応えるイヤナ。

その前は人目に付かない様に最果ての村の外で野宿していたらしい。


「しかし、暗殺者が来ていたとはね。どうして今まで無事だったんだろう。しょっちゅう無防備で村に来てるのに」


サコが首を捻る。

ペルルドールがこの国の第二王女である事は、ここでは全く秘密にしていない。

と言うか、秘密には出来なかった。

大勢の騎士やお供を引き連れての弟子入りだったので、村人に目撃され捲ってしまったからだ。

なので、最果ての村に住む者なら全員がペルルドールの正体を知っている。

ここに来て二ヵ月以上過ぎているので、村の外にもその話が漏れているだろう。

退屈な田舎では、鳥が飛ぶ勢いで噂が伝達するから。

それなのに王女を見物に来る余所者が居ないのは、最果ての村が僻地過ぎるせいだ。

観光資源の無いド田舎にわざわざ来る物好きは居ない。

しかし、だからと言って野次馬が来ない保証も無い。

暗殺者が野次馬に化けて侵入、と言う策も考えられる。

だから少女の身で出来る限りの警戒をしていたのだが、全く何も起こらなかった。

知らない顔が村内をウロ付いていたらあっと言う間に噂が広まるはずなのに、怪しい余所者の話は聞いた事が無い。

農地の見学を希望する物好きな旅行者も現れてはいない。

一般市民に目撃される暗殺者も居ないだろうが、それでも人間が動いたら何らかの痕跡が残る。

食べ物の跡とか、足跡とか。

それらが一切無いのにシャーフーチが暗殺者を追い返していると言う事は、始めから村内での暗殺は考えていない事になる。

遺跡から出て来るのを待ち構えていないのだから。


「大方、魔王のせいで死んだ事にしたいんだろう。それなら遺跡の中で死んで貰わないとダメだと言う理屈が通る。ペルルドールを殺して得をするのは――」


横目でペルルドールを見るセレバーナ。


「誰だろうな?」


「知りませんよ、そんな事。それより、今は光線魔法です」


「そうだな」


村でただ一軒の宿屋が見えて来た。

その入り口で作っている最果て饅頭の甘い香りが少女達の鼻孔を擽る。

旅行者が居ないのに毎日蒸かしているのは、村人が結構な頻度で買って行くからか。


「大丈夫なのかな。実は騎士じゃなくて暗殺者だと言う可能性も有るんじゃないかな」


サコが心配そうに言う。


「大丈夫じゃなかったら紙片を使うのみだ。――そうだ、馬小屋を覗いてみよう。本物の騎士なら、それなりの馬に乗って来ているだろうからな」


「確かに。プロンヤ、手紙を書いた女騎士の名前ですが、プロンヤの馬なら見知っています。確認してみましょう」


頷いたペルルドールは、仲間の少女達と共に馬小屋に入った。

滅多に使われない馬小屋の中には五頭の馬が居た。

その中の一頭を指差すペルルドール。


「あの葦毛の子。間違いなくプロンヤの馬ですわ」


「確かか?」


獣と干し草の匂いが苦手なセレバーナは鼻を抓んでいる。


「はい。一緒に乗った事が有りますもの」


葦毛の馬が応える様にブルルといなないた。

向こうも王女の顔を覚えていた様だ。


「そうか。ならきっと大丈夫だろう。だが、安全が確認出来るまで油断はしない様に」


馬小屋を出た四人の少女は、周囲を警戒しながら宿屋の中に入る。

しかしその必要は無かった。

屋内は、普段通り一人の客も居なかった。


「騎士様一行がご宿泊されていると思いますが、どちらのお部屋でしょうか」


セレバーナが訊くと、店先で饅頭を蒸かしている女将が上を指差した。


「やっぱりあんた達の客か。あんた達が来てから妙に客が増えてるから感謝してるよ。騎士様の部屋は、二階。行けば分かるよ」


「ありがとうございます」


少女達は縦一列になって階段を上る。

先頭はセレバーナ。

殿はサコ。

初めて入る二階の廊下にはむっつの扉が並んでいた。

左右の壁にみっつずつ。

その右側中心の扉の脇に犬の置物が置いてある。

身体は金色で、赤い宝石が目の位置に嵌められている。

この国の貴族が旅先で良くやる、魔除けの置物。

それの前で膝を突くセレバーナ。

目に嵌っているのは本物の宝石だ。

他人の魔除けを触ると退けた災いを全て受けると言われているので、盗まれたとしても売れない。

分解して宝石だけを取り出したとしても、そのサイズとカットは魔除け専用の物なので、やはり売れない。

だから高価な素材を使った品でもこうして廊下に置く事が出来る。


「この部屋だな。行くぞ」


頷く少女達。

立ち上がったセレバーナは、小気味良くドアをノックした。

次の瞬間、後退さってドアから離れる。


「気配が全くないのに、何かを感じた。トレーニング中のサコみたいな雰囲気だ」


「ああ。話し掛け難い、あの感じね。って事は、中で誰かが身体を鍛えてるのかな?」


イヤナがのんびりと言う。


「と言うより、我々の気配を察知して警戒しているんだろう。ここは適任者に頼むしかないな」


セレバーナは顎でペルルドールを前に出させる。

頷いた金髪美少女が口を開く。


「プロンヤ。わたくしです。ペルルドールです。警戒しないで」


そっと開かれるドア。

顔を出したのは金髪の女性だった。

白いインナーを着ている。

ペルルドールの物心が付く前からの護衛だと聞いていたのだが、想像よりかなり若い。

二十代前半か。

金髪美少女の顔を確認した女性は、剣を鞘に納めてからドアを全開にした。


「姫様、お久しぶりで御座います。御自ら出向いて頂かなくても、私共が」


ペルルドールは手を翳して女性の言葉を遮る。


「そんな事より、あの手紙の内容は事実ですか?」


その声を聞き付け、別のドアが開いた。

黒いインナー姿の四人の男性が廊下に出て来て、狭い廊下で跪いた。

女騎士はひとつの部屋を使い、男騎士はふたつの部屋に二人ずつ泊っていた様だ。

そして、男性達は魔除けを使っていなかった。


「事実です。立ち話も何ですから、中へどうぞ」


女騎士にそう言われたペルルドールは、仲間達の頷きを確認した後、高貴に頷いた。

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