9
雨は上がったが、黒い雲は空一面を覆ったままだった。
まだ濡れている草原を歩くセレバーナは、そんな空を見上げている。
「自分の色を変えるコツは、自分を鏡に映った虚像だと思う事だ。ややこしいが間違えてはいけない。自分の方がニセモノだ」
黒い雲の隙間から細い日の光が射している。
神々しささえ感じる光の筋は、旅の荷物を背負っている四人の少女が歩いている封印の丘も照らしている。
「光源とは、つまり自分を照らしている光の事だ。今は太陽だな。その方向に実際の自分が居る。そちらに居る実際の自分は金髪だと想像すると」
セレバーナの黒いツインテールが金髪に変化した。
おー、と感心する他の三人。
「こうなる訳だ。今日中にこれが出来る様になってくれ。出来なければ旅を中止して引き返す事になる」
「自分の命が掛っているんだもんね。頑張るぞ!」
イヤナが気合を入れる。
「みんなの命もだよ。ヴァスッタ族の命もね」
そう言うサコの髪は既に真っ赤になっていた。
コツを聞いた途端、出来る様になったのだ。
「凄いですわ、サコ」
ペルルドールが感心すると、サコは赤い髪を掻いて照れた。
「普段からもう一人の自分を想像しながら組み手の稽古をしているからね。こう言うのは得意だ」
肌の色を緑色にしたり、透明になったりしてみせるサコ。
素人目には完璧にマスターしていると言っても良い。
それを見たセレバーナがニヤリと口の端を上げる。
「私も負けてられないな。ふふ。先に行く者を追うのはワクワクする。ところで、ペルルドール」
「なんでしょう」
「旅に出るから捨てても良いレベルの古い制服を着たんだが、そうしたらポケットにこのメモが入っていた」
上着のポケットから二つ折りの紙を取り出したセレバーナは、それをペルルドールに渡した。
「君の筆跡に似ているんだが、何だこれは」
「二階。右からふたつめとみっつめの窓の間正面隠し扉。上からふたつめの引き出し二枚底……?確かにわたくしの文字に似ていますが……」
大袈裟に肩を竦めたペルルドールは、メモをセレバーナに返す。
「心当たりは全くありませんわ。内容も意味不明ですし。神学校時代に仕込まれたいたずらではありませんの?」
「そうか。そうだな。やりそうな奴と筆跡が一致しないんだが、まぁ、筆跡なんかどうにでもなるか」
セレバーナは、意味不明な紙を内ポケットに仕舞う。
気味が悪いとは言え、謎の解明が済んでいない物を捨てるのはプライドが許さない。
旅の途中、ヒマな時間が有ったら調べてみよう。




